限界バトルっ!
宇宙空間において、牙千代はきょろきょろとあたりを見渡す。ひと際赤く燃え盛る恒星。
それを見て不快な表情をする。
「あれが太陽かえ? そして……あれが妾を呼ぶ呪いの結晶」
東京ドーム程の大きさを誇る何かが回転をしながらエネルギーを充填している。そしてあいさつ代わりに雷のような光を噴いた。
片手で牙千代はそれに合わせて放つ。
「鬼神砲ぉ!」
強烈な光を暗黒のエネルギーで散らす。牙千代は自分の手を握るとこの衛星兵器をしっかり見る。
「ふむ、主様や妾の世界にはこんな物はないの。そして見るからにこれは随分昔に放置された物。本来であれば起動しているのがおかしい。それで人間の魂を縫い付けておるのか……異界の神、畜生の極みよな?」
衛星兵器は先ほどの砲撃で牙千代を殺せなかったからか、再び回転を始める。集められるその光は先程より明らかに大きい。
「くふふ、主様がおったら遊ぶな。遊ぶなと五月蠅いからのぉ、どれ鬼神にどの程度立てつけるのか見せてみぃ」
衛星兵器は先ほど、地上を焼いたあの熱量を持った光を牙千代に向けて放った。牙千代はおろか空間その物を包む程の衛星砲を前に両手を向けた。
「これは、さすがに斑鳩殿やあーる殿でも手に負えん。これは妾の物だ。ははは、熱い。熱いのぉ、この痛みもまた心地よい」
地上に光を落とさないように牙千代の力で押しとどめる。牙千代をして満足させる程の力、表情が緩むのを抑えられない。
「貴子の一撃並みではないか、愉快。実に愉快ぞ。次を撃ってみぃ!」
鬼神深淵鬼となった牙千代は身体中から暗黒の力が溢れる。今まで虎太郎の内臓を喰らうなどという事はしたことがない。
「はてな? まさか、連発して撃てぬのか?」
牙千代は答えが返ってくるとは思っていないがそう独り言を言う。そんな牙千代に反応した者がいた。
『ヨハネを屠ったヤドリギか……化物め』
初老の男の声、牙千代は誰だか検討もつかないが、相手はどうやら牙千代の事を知っているらしい。
「誰じゃ?」
『貴様等ヤドリギ、そしてタタリギを滅ぼす為に神に命を売った者。このオーディンならヤドリギもタタリギも皆もとろもに出来る』
牙千代は少しつまらなさそうに着物の懐から煙管を取り出してそれを吸った。
「無理じゃの、鬼神がここにおる。どうして斑鳩殿達を殺れるものかよ?」
『押し通る!』
「……ならん」
衛星兵器は高速回転をはじめたドライバーを発熱させ、地上を焼き尽くすあの光を放つ。だが、牙千代は片手でそれを散らすと巨大な暗黒のエネルギーを放った。今まで優位だと思ってた衛星兵器をそれは包消滅させていく。
「この程度か……少々期待外れであった」
牙千代がそう思った時、粉々に消滅していく衛星兵器の核となる部分に人型を見た。それは牙千代のよく知る姿。あのアールのように真っ白な髪、そして真っ白な肌を持った女性。
「あーる殿……いや、ゆー殿に似ておるな」
『……化物め衛星兵器をここまで破壊しつくすなど……貴様も存在してはならない』
「違いないの。少なくとも妾が顕現するなど、ろくな事が起きぬよ。カッカッカ」
壊れていく衛星兵器の中で眠る女性。それに向かって男の声がこう言った。
『完成形タタリギ消滅装置。極神のオーディン。目覚めよ。全てのケルビム試験小隊のデータを持って眼前の愚者を払え』
牙千代の見ている前で、衛星兵器に囚われていた人間の魂が全てこの女性の中に入っていく。そして回転する小型のドライブが心臓部に到達すると激しく回転。
そしてオーディンは開眼した。
「おぉ!」
牙千代を見たオーディンは突撃をしかける。鬼神としての力を開放した牙千代のパワーを瞬間上回った。
「貴様、オーディンを名乗るのか?」
牙千代が話しかけるが、何も返答はない。牙千代は瞬時に理解した。目の前の女性に自我はおろか精神のような物も存在しない。人間の魂という燃料を燃やして戦い続ける戦闘マシーン。それがこのオーディンなのだろうと理解する。
「そうか、ヤドリギという連中。どうも中途半端だと思うておった。こやつか? これが頂点か?」
畏れを知らず、痛みも知らず、ただ対象を破壊する事のみに特化した人型の兵器。牙千代の腕を掴むとオーディンはそれを無理やり引きちぎった。
「人間の造ったものが、天使とやらに並び立つか。面白い」
牙千代は引き抜かれた腕の仇とでも言うようにオーディンの腕を引き抜いた。そして牙千代は自分の腕を再生させてみせる。
「これが、妾と貴様等の違い……ほぉ」
オーディンは牙千代に引き抜かれた腕を牙千代みたく再生させてみせた。それには牙千代をして感心する。
『貴様が不死身ならオーディンもまた不死身』
代わりに喋る男の声を聴きながら牙千代は嗤った。
「そうか、なら少し本気を出してもよいという事だの? 貴子を殺す練習相手になるかどうか? 試してやろう」
牙千代の力がさらに溢れる。牙千代は暗黒のエネルギーを纏わせた拳でオーディンを殴り、腹に大穴を開ける。そして間髪いれずに暗黒のエネルギー、そして炎と雷を纏わせた手で乱打。原子分解されていくオーディンに牙千代は両手を合わせるとこう叫んだ。
「超鬼神砲ぉ!」
跡形もなく消し去った。少し本気になりすぎたかと反省した牙千代だったが、瞬間左目が潰された。
「なっ……」
『言ったハズだ。貴様が不死身ならオーディンもまた不死身とな!』
オーディンは無から身体を構成させると完全な形を取り戻した。そしてそれは先ほどより速く、頑丈で……そして強い。
「妾を真っ向から押しのけるか……実に面白い」
オーディンは口からあの光を吐いた。それに牙千代も暗黒のエネルギーを放つ。それが打ち消し合うのではなく、牙千代が押され、逆にオーディンにダメージを与えられなくなっていた。牙千代をしてこれ程までに死合える者が貴子以外にいただろうかと考えさせられる。そして牙千代は叫ぶ。
「鬼神力解放ぉ!」
牙千代の角が伸び、周囲に混沌とした空気が広がる。牙千代はその姿になった事でオーディンにこういった。
「遊びは終わりぞ?」
手を振ると無数のエネルギー弾がオーディンを襲い。そのまま牙千代は右手に暗黒のエネルギーを纏わせた剣……否。
「鬼に金棒を持たせたらどうなるか知っておるか?」
一撃、それでオーディンは吹き飛ぶ。それを牙千代は追いかける。宇宙空間という初めて戦う環境に慣れて来た牙千代は飛ばされているオーディンに向けてさらに追撃のエネルギーを放った。
「死ねぇ! 鬼神に歯向かった愚かさを呪いの言葉を吐いて死んで行けぇ!」
オーディンがぶつかったのは死んだ星の大地。
月。
地面にめり込んだオーディンの頭を牙千代は思いっきり叩き潰した。それでもまだ死なない事を知っている牙千代は身体全体にエネルギー弾を放ち。そして両手を天に向けて叫んだ。
「鬼神禍つ焔」
牙千代の最強クラスの一撃、時には現象を殺し、時には最強の抑制タタリギを滅ぼした。強烈な暗黒の炎は空を焦がし、そして地獄へと対象を引きずり込む。再生をはじめているオーディンを地獄に強制的に送り込んだ。
牙千代は何もないところを見つめていたがこう呟いた。
「兆し……」
ギィイイイイイン!
空間を引き裂いて、オーディンはそこから現れた。地獄に引き落とせない相手。
「腐っても神という事か」
牙千代は両手に暗黒のエネルギーを溜め、オーディンにその両方を合わせて放つ。砲撃としては牙千代のもっとも得意とし、最強の一撃となるそれをオーディンは軽々と跳ねのけた。
「!」
オーディンは光を手に纏わすと牙千代を殴る。そして牙千代の腹部を光で削り取った。それに難色を見せた牙千代の顔を掴むとオーディンは宇宙空間を滑空する。もはや人間の目では追えないその時、牙千代は背に異様な熱を感じた。
「ここが太陽か」
そう、牙千代は太陽の目の前にまで連れてこさせられた。太陽の重力が二人を引っ張る。オーディンは牙千代の両手首を切り裂くと、牙千代に向かって威光を放ち太陽の中に突き落とした。
オーディンは太陽の重力に引かれない位置でしばらく観察する。太陽に引き込まれて消滅した者が復活できるとは本来誰も思わない。
だが、オーディンの中にある思念はそう思わなかった。
『出て来い。貴様がその程度では死なない事は知っている』
ボコボコと核分裂する太陽の中から腕が生える。そしてそこから牙千代がゆっくりと出て来た。
「妾をここまで追い詰めた者、三人とおらん。正直、貴様を。いや、貴様等を舐めておった許してくれ」
まさかの牙千代の懇願。
それにオーディンの思念は答えた。
『力の差を今更知っても遅い。滅べ、ヤドリギよ』
牙千代は目を丸くした。
そしてオーディンの思念が言った意味を理解してケラケラと笑いだした。それはそれは上品に、なんとも嬉しそうに牙千代は……嗤う。
『何がおかしい? 恐怖で気がふれたか?』
「いや、すまなかったと言ったのだ。妾が本気を出さなかった事、詫びよう。そして、鬼神第五位。鬼神深淵鬼が全力で相手をしてやろう。名乗れ」
牙千代の言葉を無視して襲い掛かるオーディンを牙千代は軽々と返り討ちにする。牙千代は二回転するとその反動を持ってオーディンをぶん殴る。
もはやそれはただの殺戮ショーでしかなかった。オーディンのあらゆる攻撃は牙千代に届かず、牙千代の一撃一撃は全て必殺のそれであった。
牙千代が飽き始めていたその時、変化が起きた。
『……いかん、オーディンが目覚める』
初老の男の声はそれを最後に、オーディンから人間達の思念や魂の反応は消える。牙千代は単にエネルギーとして薪のようにもやしつくしたのかとそう思っていた。
「名乗れと言ったな? 我が名は極神・オーディン。全てのタタリギを滅ぼしつくす者」
オーディンは輝きだす。身体全体からあの威光を放ちながら牙千代に並び立った。そして牙千代の本性である闇を消滅させる強烈な光。
「それが貴様の全力か……相手にとって不足なし」
そう威勢よく言う牙千代だが、威光となったオーディンに牙千代の力は全く通じない。牙千代はゼロ距離で全力の鬼神砲を放つ。
「妾の代名詞を簡単に無力化しおって」
牙千代の身体を喰らいつくす光、牙千代はその場を退避しようとするが、オーディンが逃がさない。
「データベースにはないタタリギ純種……いや、私と同じ原子の根を持つ者か?」
牙千代は満身創痍のままオーディンの言葉を聞いた。
「原子の根じゃと?」
「死にゆく貴様には知らずともよい事、よくこの極神にここまでついてきた」
オーディンは両手を前に出すと特大の光を集める。牙千代は後ろを見るとそこは惑星。それも地上には虎太郎が、斑鳩、アール達が今尚地上のバルドルと戦っている。それもろとも惑星を破壊するつもりでいるオーディン。
「よい、この感覚。少しだがあの忌々しい貴子とやりあっているようだ。次の一撃で決めよう。な? オーディン。異界の神よ」
オーディンは笑ったように見えた。衛星兵器がはじめて地上を焼いた砲撃の百倍、いやそれ以上の力がオーディンに集まっている。
「人間がこれほどまでの力を行使するとはの……いざ、尋常に」
牙千代は構えるわけでもなくそう言う。
そしてオーディンは強烈な光を放った。
牙千代は消滅し、惑星もまた塵と化す。
「……深淵無界」
牙千代がそう呟いた事をオーディンは聞き逃さなかった。そしてオーディンは牙千代に尋ねる。
「何をした?」
何もいない場所に向かってオーディンは話しかける。オーディンは薄く、消えていく自分の手を見ながら自分の身に何が起きたのか考えていた。
オーディンの目の前に今までいなかった幼い幼女の姿。鬼神力を使い果たした牙千代。
牙千代は静かにこう言った。
「何も……鬼神の真名を聞いた者が存在できるわけはないという事です。さようなら、人間が作りし神」
牙千代の造りだした固有結界内でオーディンはその存在を世界から消していく。それは少しばかり美しい情景だった。
それを見終わった後に牙千代はこう言った。
「さて、どうやってもどりましょうか。というか息がっ!」
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