Y028部隊の獅子 ギルバート特攻
「只今を持って、終焉回避作戦開始する!」
ギルバートは第一突撃部隊として参加、大量のバギーで乗り込んだヤドリギ達と爆薬を持って移動要塞の最後尾部分の破壊任務。そこにはなぜか中間部を割り当てられている牙千代と、戦闘においてなんの役にも立たない虎太郎の姿があった。
「おい、なんでお前たちが来てるんだ? お前たちの仕事は俺達が最後尾を切り離してからだろ?」
ギルバートの質問に対して虎太郎は恐らく食堂から盗んできたであろう希少なビーフジャーキーを齧っていた。
「それがですね。コーデリアちゃんに依頼をされまして」
虎太郎の話す内容であらかたギルバートはどういういきさつか分かった。
「リアのやつ……全く」
「という事ですのでギルやん殿は私が責任をもって守りますので!」
なんだか少し面白くないとは思ったが、この牙千代。確かに、とびぬけた性能を持っているのは確かだった。
「なら、少し無茶しても助けてくれるって事だよな?」
虎太郎は牙千代に、「ん」と頭を差し出す。その虎太郎の頭をごんと殴って牙千代は角を生やした。ローレッタより少し年下くらいかとギルバートは思う。
並び立つ牙千代のなんと心強い事か……
「いくぜ、牙千代」
「はい、ギルやん殿」
移動要塞の姿は前に虎太郎達が侵入した時は大幅に姿が変わっていた。動く生物のように、これ自体が超巨大なタタリギとして聳え立っていた。
第13A.R.Kのヤドリギ達は支給された爆薬で指示されたところの爆破を試みる。そしてこの移動要塞自体がタタリギを生み出している事も確認できた。
「オラオラ! どけぇ!」
撃牙を鈍器のように扱うギルバート。牙千代のパンチでヒビの入った装甲を破壊。内部に侵入すると、そこはタタリギの産卵場所とでも言えばいいのか、今まさに生れ落ちた出来損ないのタタリギ達の姿。
「パーティーだな牙千代」
牙千代の返事を聞かずにツッコむギルバート。牙千代は慌ててそれに続く。ギルバートは比類無き反応を持っている。
その猛々しさは斑鳩にはない。そしてこの判断力もアール以上かもしれない。この動きが出来る一番の理由。
「背中任せた牙千代ぉ!」
ギルバートは自分の手の届く範囲の仕事に対して全力を出し、そして仲間を信用しきっている。それに牙千代の口角が緩む。
「ヤドリギマン、メガトンぱんち!」
(やるじゃねぇか牙千代)
(ギルやん殿も中々いい反応ですよ! そして、中々気持ちがいいですね! 私の事をアテにしてくれるというのは)
ギルバートがしゃがむので牙千代は助走をつけるとギルバートの肩に乗る。そして、ギルバートは牙千代を反動で飛ばす。
牙千代は右手に青い炎、左手に暗黒のエネルギーをため込むとそれを合わせて撃ち込んだ。
「狂い死になさい! ヤドリギマンびーむ!」
暗黒のエネルギーと鬼火を合わせたエネルギーを撃ち込み、内部で生まれたタタリギ達を一掃する。
焼けた匂いに鼻をつかれながら、ギルバートは牙千代の力を見て改めて感心する。
「アールを助けた時といい。規格外だな牙千代」
「いえいえ、私の任務はギルやん殿を守る事ですか……何かいます」
二人が緊急離脱すると、二人が元いた場所に矢じりのような物が撃ち込まれる。それを撃った者は、人間らしい姿をした紛れもなく人間ではない者。
それは喋った。
「我が同胞を……酷い事をするな」
「おいおい、タタリギが喋るのか」
牙千代はそれをよく見てから言う。
「ギルやん殿、お気をつけを、明らかに他の者より、剛の者と見受けます! 多面攻撃を……おっと何を?」
ギルバートは牙千代を抱えると中間の車両へとポーンと放り投げた。そして連結部に爆薬を置く。
「牙千代、お前と俺で戦えばこいつを倒すのは容易いかもな。でも、俺達の目的はこいつの撃破じゃない。このデカブツを第13A.R.Kに突撃させない事だ。その爆薬をお前の力で起爆してこの車両を切り離せ。それで俺の役目は終わり。そして次は牙千代お前の仕事だ」
牙千代はそれに苦言を漏らす。
「しかし……ギルやん殿」
「なぁに、俺はそんなにヤワじゃない。なら、俺もお前に依頼をしていいか?」
「はい?」
「リアと、第13A.R.K.を守ってくれや」
それに牙千代は頷くと、爆薬を思いっきり殴り、起爆させた。ゆっくりと自重で最後尾の車両は外れ遠のいていく。牙千代は虎太郎を回収に一度ジープに飛び乗ると虎太郎を連れて再び車内に戻る。
それを確認したギルバートはタタリギに向かうと言う。
「俺の仕事はここまでだ。できれば撤退したいところだが、そうはいかないんだろ? かかってこいよ。ヤドリギが、人間がいかにお前たちを痛めつける者か教えてやる」
ギルバートは軽々と撃牙を持ち上げてタタリギを挑発する。
「……愚かなぁ! 人間風情がバルドル様の眷属に敵うと思ったか?」
アールと斑鳩のレポートを穴があく程読み込んだギルバート。正直、今回の敵は規格外だった。だが、倒せないわけじゃない。
「使わせてもらうぜユー」
斑鳩に渡されたユーのアンプル。その半分を自分の首元に打ち込む。元々式狼として比類なき素質を持ったギルバートがさらにドーピングを重ねたようなもの。
「お前たちを倒す事は難しいが、その身体。タタリギ部分は芯核潰せば動けなくなるんだろ?」
タタリギは周囲の死骸をかき集め自らの身体をさらに形成していく。腕は恐竜の顔。その口から放たれるのは威光。
「ヤドリギ、死すべし!」
ブン!
ギルバードはグランドアンカーを飛ばすとタタリギの攻撃をかわす。後ろを取ったギルバートは一撃。バンカーを叩きこむ。
「無駄無駄ぁ!」
ギルバートが放った部分のみ装甲と言うべきか、皮膚を強固にしてはじく。そしてお土産に槍のような物を放った。
「なっ……」
ギルバートの撃牙をつけた肩をそれらは貫き刺さる。引き抜いてそれを抜こうとするが、中で引っかかりぬけない。
「ぬぁああああ!」
一本。ギルバートはそれを抜き、続けて二本、三本と引き抜く。何処か腕に関わる機能が奪われたのか上がらない。
「化け物め」
ギルバートの悪態にタタリギは気分を良くしたのか笑う。ギルバートはグランドアンカーを向けそれを放つ。もちろん動きが悪くなったギルバートの狙いを軽々と回避すると、空中移動中のギルバートをタタリギは叩き落とす。
「がはっ……」
あばら、そして足。骨折しただろう。よろよろと立ち上がるとギルバートは地面に撃牙を立て杖替わりに立つ。
「まだ立つか……人間、そこまでボロボロになり何故立つ?」
ギルバードは嗤う。
それも不敵に……明らかにこのタタリギを倒す余力は残されていない。それにタタリギは不思議に思う。
「俺の心臓が動き。俺が立つ。そして……お前が俺に向かってくる。その1秒が1分が……俺の仲間が、俺の家族がお前からの脅威を逃れられる……」
その為にギルバートは立ち、前を見てそして無謀にも思える戦いを繰り広げていた。それにタタリギは嘲笑した。
「ならば、死ね」
タタリギはもう片方の腕を槍のように変えるとギルバートを狙う。それを見たギルバートは撃牙を外すと、その地面に打ち立てた撃牙を足場にギルバートは突進。ヤドリギに体当たりを決めるとエアバックを弾く。
ボフゥン!
「くらいやがれぇ!」
腰につけてあるナイフを二本取りだすと一本を頭部に、もう一本で腹部をえぐる。両腕を大きく肥大化したタタリギは懐に入ったギルバートを迎撃する手段がない。芯核が見えたところで特殊合金のナイフはボキりと折れた。
「あと一手だったな。褒めてつかわす。だが、それが人間の限界」
タタリギは槍のような腕を切り落とし短くする。そしてそれをギルバートの背中へと向けた時、ギルバートは小さな時限式爆薬を取り出した。
「フリッツの作った使用許可が下りなかった過激な玩具だ」
それがどういう物かタタリギは分かっているかのようにギルバートに言う。
「まさか、諸共に滅ぶ気か?」
「いや、死ぬのはお前だけだ」
ギルバートは思いっきり芯核の横に時限爆薬を埋め込む。そしてギルバートのグランドアンカーはギルバートが地面に突き立てた撃牙へと繋がっている。
「おい、しゃべるタタリギ。あんまり人間を舐めるな」
勝ち誇ったギルバートの言葉にタタリギは顔を歪める。
「またしても貴様等にぃ……せめて死ねぃ!」
タタリギの振り下ろす槍はギルバートには刺さらない。ギルバートはグランドアンカーを戻し、タタリギの懐から回避する。
「じゃあな。クソ野郎」
ギルバートの言葉と共にタタリギは爆ぜ、切り離された車両から燃え落ちていく。それを見てギルバートはひっくり返る。
「ざまざみろ……あとは任せたぜ。斑鳩」
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