忘狂神の黙示録

終焉回避作戦っ!

 ぐちゃぐちゃに潰された光神バルドル。

 その性は不死。光はタタリギの亡骸から離れると入る器を探す。


『恨めしや……あの暗黒。許し難しや、我を受け入れぬ人間、浅ましや……ヤドリギ、そして御剣。救いがいらんのであれば、救いを望む人間が生まれるようにすればいい』


 そう思うバルドルの前に跪く一人の男。頭をライフル弾で撃ち抜かれても死ぬ事がない。

 自分の意志でバルドルに言った。



「メシア様。この通り、貴女の加護がなければ私は死んでいました。もはや、この世界はタタリギに敗れました……世界を管理していると勘違いをしているアガルタ、あれを焼かねば、地獄は終わりません。メシア様、抑制タタリギを寄生させた衛星砲あれを使いましょう。そしてこの命、貴女に還します。どうか……我等の思い、願いを全て。お導きください!」



 掲げる十字架、光神バルドルに祈りを捧げる博士の願いを得て、バルドルは力を取り戻す。

 バルドルの光は移動要塞全てに満ち、機能が停止するハズであった抑制タタリギ達のコアが集まる。

 動力部の代わりにタタリギとコアでできた疑似動力部。そして実験に使われた数多のタタリギ達のコアが集まってできた巨大レンズ。

 それに博士は触れると吸い込まれていく。博士は衛星砲との中継を行うシステムとして自分を取り込ませた。


『お前達が我を望まぬのであれば我はこの男の願いを聞き入れ、タタリギ達の神。祟り神となろう』



 第13A.R.Kに戻ってきた斑鳩達に向けられたのは、絶望の表情。一体何があったのか、それはすぐに伝わってきた。対策本部を任せられたという男の司令官は難しい顔で現状を斑鳩達に伝えた。この第13A.R.Kに特攻を移動要塞がかけてくるであろう事。



「移動要塞の動力部は潰してきた……動くハズがない……が、動いているんだな」

「斑鳩暁、君達の単独突入を責めるつもりはないが、これが事実だ。あの質量の物がここに突っ込んできたら、このアークは終わる」



 斑鳩達が戻ってきた時から、非常事態宣言のサイレンが鳴り響いている理由は、今まで誰も経験した事がない事態であった。


『特級非常事態・オペレーション。アポカリプスアウト発令』


 簡単な軽食を取ってY028部隊の皆と合流する。



「そう……ユーが」



 ユーの殉職。それにギルバートが呟く。



「俺達は仲間の死すら、悲しむ時間がないんだな」



 第13A.R.K全域に放送が入る。それはウィルドレット・マーカス局長その人直接の演説にも近い内容だった。


『諸君、今この第13A.R.Kが未曾有の事態に陥っている事はご存知だろう。亡霊、いや我々が忘れ去ろうとした悪神。忘虚神による終焉だ。非戦闘員の別アークへの引き受けは済ませている。アガルタ本部はこの第13A.R.Kの廃棄を本日決定するものした。それはヤドリギである諸君らも対応は変わらない……さて、ここからは私個人の提案となるのだが、我々はこれを不服とする』



 ざわざわと騒ぎ始める。

 ウィルドレット・マーカス局長の言葉は耳を疑うものだった。

 あと三日もしない内にここに300メートル級の移動要塞が突っ込んでくる。


『我々人間は今までもありとあらゆる絶望的な状況と戦い、それに抗ってきた。それは今、タタリギと生存争いを行っている事も同じである。したがって、移動要塞なる厄災の塊を撃破、我々の故郷たる第13A.R.Kを死守せん事を宣言したい。もちろん、参加は任意で構わない。時間は一刻を争う。式狼による移動要塞への爆撃活動。式梟により戦術計算、それに伴い式隼によるディケイダーの雨を叩きこむ。それで彼奴の機能を停止できるかは分からない。それでもこの理不尽な終焉を回避したいと望む者は参加の意を示してほしい。ここに第13A.R.K、全兵力を持って”終焉回避作戦”を開始する』


 斑鳩は黙って何処かに行こうとするので、それを虎太郎が呼び止める。



「斑鳩さん、行くんでしょ? ちゃちゃっと終焉回避してコーデリアちゃんのごちそう食べましょう」



 虎太郎の発言に、Y028部隊の皆は頷く。



「死ぬかもしれないぞ」



 斑鳩の言葉にどっと皆笑う。



「斑鳩、俺達はいつだってそういう仕事をしてきただろ? 今回に限った事じゃない。違うか?」

「そうそうタイチョーはいつも通り私達に指示をしてくれればいいんだって」

「ギル。木佐貫……」



 胸をドンと叩いた牙千代が八重歯なのか牙なのかを見せながら笑う。



「もし、万が一の時は私が真のフルパワーをお見せします。主様も知らない。私の超必殺技がさく裂してですねぇ!」



 それに虎太郎は目を輝かせる。



「おぉ! なんとか無界か!」

「まぁ、その時は皆さん、私の姿は直視しないでくださいね! 中々に恥ずかしいものもあるんですよ」



 照れながら言う牙千代に何かの冗談かと空気は明るくなる。そんな中、真顔でそれを見ているのはアール。

 全員参加表明をしたところで、まさかの詩絵莉、斑鳩、虎太郎と牙千代が局長室に呼ばれる事になった。

 もう既に作戦は開始されていた。なんと、第13A.R.Kに所属していたヤドリギ達の参加率は100%。言葉通り、全兵力をもってして暴走した移動要塞型タタリギと戦う事になる。

 局長室に向かう中、既に笑いをこらえている虎太郎に斑鳩は苦笑、なんでこんなにウケているのか詩絵莉には分からず虎太郎に尋ねてみた。



「何がおかしいの虎太郎?」

「ぷぷっ……いや、あの局長ってまさに漫画とかに出てきそうな歴戦の戦士っぽいじゃないですか! あれがなんか面白くて……その」



 詩絵莉は聞かなければ良かったというのが彼女の正直な気持ち。この弟のような虎太郎という少年。

 時に腹立たしく、時に大人びていて、そしてこのびっくりするくらい子供みたいな反応をする虎太郎。

 さらに詩絵莉だからこそ、何が面白いのか分かってしまった。

 結果。



「Y028部隊所属。隊長斑鳩、以下三名入ります」



 入れと局長の言葉が聞こえてきた瞬間、虎太郎と詩絵莉は吹きそうになる。


(ダメよ! ここで笑っちゃダメ)


 自分を律そうとしている矢先、虎太郎の目は泳ぎもう大爆笑しそうなそんな状態。斑鳩が何も止めないのはこれが二回目だからなのかと詩絵莉は諦め入室する。



「ぐっ……ふふっ」



 虎太郎は地面を見てウケる。牙千代が虎太郎のお尻を抓っているのだが、あまり効果はなさそうだった。

 詩絵莉は今1ミリでも動いたら大変な事になると思っていた時、局長はまさかの詩絵莉の名を呼んだ。



「泉妻君」

「ひゃい!……すみません。はい!」



 その反応に虎太郎が白目をむいて、ひぃひぃ言っているので、さすがにぶん殴ってやりたい気分になったが、あの局長に見つめられると笑うどころか蛇に睨まれた蛙。一体何を言われるのかと思っていたら、局長が「おい」と声をかけ持って来させた小さな金庫。



「これを君に託したい」



 その金庫から出て来た物はディケイダーのようにパッケージされた弾丸。見覚えがない詩絵莉は普通に質問した。



「ディケイダー……ではないんですよね?」



 赤い弾丸。それは斑鳩も見た事がない。それに虎太郎がうずうずする。


(ちょっと、主様だめですよ! この空気で説明しようとか言っちゃ、さすがに殺されちゃいますよ!)

(説明しよう! これはヤドリギマンの友情パワーによる生み出し、歴戦の戦士こと局長が三日三晩鍛えて作った弾丸。読み方はだんがんではない。たま!)



「ぶほっ!」



 牙千代が噴出し、虎太郎は真顔、それも軽蔑したような表情で牙千代に言う。



「ちょ、ちょっと牙千代さん。こういう席でそれは……」

「……主様、そりゃないですよぅ!」



 コホンと局長の咳払いに牙千代は着物を掴んで怒りを溜める。



「その娘、牙千代と言ったか?」

「は、はい! 局長殿」

「ゼツメイキと言ったか……奴は元気か?」

「は? 何でその名を……絶命鬼殿をご存知で」

「ふっ……やはりそうか。昔な。まぁそれはこの作戦が終わってからだ。この赤い弾丸について説明する。これは縮退ディケイダー。通称ギャラルホルン。通常ディケイダーの四十倍の効果を持っている。但し開封20秒しか使えない上に三十年前の技術で作られている為、精度も悪い。これを扱えるのはこの第13アークでもY028部隊の泉妻君。君しかいない」



 それには詩絵莉も物申さないわけにはいかなかった。



「買い被りすぎです」



 詩絵莉より上位のスナイパーも経験豊かな式隼もここには無数に存在しているのだ。そして恐らくはファイナルアタック。

 そんな重要な役割を自分が……



「総合力だ。確実にY028部隊なら君に確殺のタイミングを作ってくれる。あらゆる状況を想定して、この役目はこの第13A.R.Kはおろか、この世界で君にしかできない仕事だ。やってくれるか?」



 詩絵莉は決めかねていた時、手をポンと叩くのは虎太郎。



「あー、多分詩絵莉さんならできるね。あのカメレオンに当ててたし、適任じゃないですか!」



 なんとも軽々しく言う虎太郎。続いて牙千代。



「くぅ~、この一撃が、歴史を変える! ですねぇ! 詩絵里殿。楽しみにしてますよ! なぁに、確実にストライクさせるのに私達が道を開きますから」



 この二人の発言に局長はにぃと笑う。恐らく局長はこの二人の働きも計算に入れてのこの判断だったのだろう。

 詩絵莉もここまで言われれば局長の手からギャラルホルンを受け取る他無かった。そしてそれを握ってこう言った。



「一撃で終わらせるわ」



 締まったところなのだが、虎太郎がある事に気づく。



「それ一撃で終わらせなかったら、ゲームオーバーですよね?」

「もう、虎太郎はなんでそんな空気読めないの?」

「いやぁ、ねぇ……牙千代さん」

「主様は大体いつも空気を読みませんので……すみません」



 しばし和んだところで、局長から大筋の説明を受ける事になった。式狼、通称現地組は三段階に分かれる。移動要塞の結合部を破壊し、衝撃と破壊力を削る。

 最後尾の連結車両を破壊する組にはギルバートと他ヤドリギ達。真ん中、第二動力炉がある部分の破壊には牙千代と他ヤドリギのハズだったが、牙千代が邪魔になるとの一存で最後尾と最前列の車両に戦力を分散する事になった。

 そして、最前列車両。統率型タタリギ率いる剥きだしのコア。この撃滅に斑鳩とアール。そして残りの全兵力を回す。

 コアはガラスのような膜で覆われており、ギャラルホルンを叩きこむ確実な状況にする必要があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る