ミストルティンの一撃
虎太郎は冷や汗をかいていた。現在の最強戦力が揃い、恐らくは目の前のタタリギ二体。倒しきれるだろう。
何故、こんなプレッシャーを虎太郎が感じているのか……
「斑鳩さん、それは……もしや鬼切丸さんでは……」
「らしいな」
それに虎太郎は中々男前な顔で言う。
「あっ、それ早く捨てたほうがいいですよ!」
牙千代と同じ事を言う虎太郎に斑鳩の口元が笑う。そう、あの化物じみた女、あれに虎太郎も牙千代も恐怖しているのだろう。
あれを牙千代は人類悪と呼んだ。だが、斑鳩は違う。
人間の、可能性を……いかなる者をも下に見る傲慢。されど孤高の強さを垣間見た。それに斑鳩は言う。
「お前たちの世界は、楽しそうだな」
「この世界も楽しいですよ。なんていうか、みんなカッコいい奴らだ」
斑鳩、Y028部隊の隊長。冷静にて情熱、ヤドリギ個体としての性能も群を抜いており、統率能力、その他の能力も満たしているオールラウンダー、そして何処か死を感じさせる空気を纏っている。
虎太郎、万事屋御剣の経営者。怠惰にしてやる気がない、人間としての性能はギリギリ平均点。頭もそこまでよくないし、運動神経も抜群にいいわけではない。一日一回という制約があるもののチートを持つ、牙千代という最強の矛と盾と共にいつも腹ペコ。
対極とところにいる二人だが、共通点が一つある。彼らは将の器であるという事。賢王か愚王かの違いはあるかもしれないが……
「アール、牙千代。多面攻撃をかける。アールはだいぶ壊れてるが俺の撃牙を装備。フリッツには悪いが、今回の玩具じゃコイツは殺りきれない。牙千代はタタリギにあの光を撃たせるな!」
「「了解(ですっ!)」」
アールと牙千代が駆ける。虎太郎はこの情景を見ながら勝手に妄想している事があった。
(だいたいOP無しとかで声の出演とか出てくるんだよな。この最終回的な時はさ)
その最終回を彩るアールは撃牙を構える。牙千代はこのタタリギの装甲が中々の物である事を知っている為、撃牙を叩きこむ為の傷をつける。
「アール殿、ここに打ち込んでください! アール殿の事は、私が守ります! ゆっくりと狙ってくださいね」
なんてカッコいい事を言う牙千代を見て虎太郎はおうおうカッコいいなとみている。そして自分の元へボロボロのタタリギが近寄って来る。
「君は、ズタボロゾンビ君。もはや勝敗は決したと思うのだがね。白旗を振ってくれれば命までは……って喋れるでしょアンタ?」
虎太郎の前で止まるそれは少女の姿だったバルドル。体組織を急激に修復して元々の姿を取り戻した。
「貴様、やはりミツルギか、この光神バルドルの目は騙せんぞ?」
「いかにも! まぁ最弱の御剣ですが何か?」
「魔に神にも狙われる忌子、御剣。我がこの世界に来たのにも意味があったのだな? この世界の民を救い、そして御剣殺しをやってのける」
虎太郎は目を瞑る。そして呟いた。
「アンタもそれか……神様って言う連中も、悪魔や妖怪やみんなストーカーかなんかですか? それより、アンタの一番怖いものが後ろから来てますよ!」
光神バルドルが振り返ったその時、斑鳩が斬りかかる。斑鳩の刀をバルドルは腕を同じく刃にして受け止めようとするがバターを斬るようにバルドルの腕が落ち、そしてその腕は地面から湧き出てくる亡者達に食い尽くされた。
「……その呪われた剣か?」
鬼神鬼切丸。鬼神第二位、御剣貴子の持つ鬼神にして契った相手。刀の形状をしているが紛れもない鬼神。使用者の角としてその場に地獄を発生させる。ありとあらるゆ存在において有効な武器であり、呪い。
だが、虎太郎は否定した。
「いいえ、鬼切丸さんは誰だって怖い。むしろそれ怖がらないの一人くらいしか俺は知らない。アンタ、光神バルドルなんだろ? だから、ヤドリギに対して異常なまでの固執をしていた。不死身のアンタを殺す唯一の存在だから」
無能者である虎太郎は饒舌に語る。光神バルドルという存在の事を知っているかのように……。
「何故、我がヤドリギなどという有象無象に……」
「はいはい、ミストルティン(ヤドリギ)って言えば良かったですかね? そして今、そのミストルティンはまたしてもアンタに刃を向ける」
一撃一撃が必殺の鬼切丸。バルドルはそれを回避するしかなかった。斑鳩も刀なんて武器は使った事がない。なのにしっくりとくるこの握り、そしてどの角度から切り込めば一番か頭が理解していた。
(しかし何故、斑鳩さんが鬼切丸さんを……謎だな)
昔、虎太郎は小指で鬼切丸をちょんと触れた事があった。結果全身大やけど、それ以来鬼切丸への恐怖は募るばかりだった。
斑鳩の構え、そして切り込み、回避。それらを見て虎太郎は絵になるなぁと思いながら説明を入れる。
「説明しようヤドリギマンレッドは最終回のご都合主義で不思議な事がおこり伝説の剣を手に入れた、この剣で切られた者は……死ぬ」
今回の虎太郎の適当な説明はだいたいあっている。今まで余裕すら感じさせていたバルドルの表情やゆがみ、防戦どころか逃げの一手しか打てない。
「人々に死の穢れを持ち込む抑制タタリギ。引導を渡す時だ」
バルドルは落とされ腕から金色に輝く剣を生やす。それこそがバルドル本来の力の片鱗なのだろう。
「斑鳩、我が依り代として永遠を共に歩むつもりはないか? 人としての生は短い。この世界を守り、タタリギを滅ぼす事を約束しよう。どうだ? 悪い話ではあるまい?」
斑鳩は鬼切丸を卸す。それを承諾と取ったバルドルもまた腕から生やした黄金の剣を下ろした。
「一つ教えてくれ、お前の言う世界に今いるヤドリギ達はどうなる?」
バルドルはほほ笑む。
「功績を表してバルハラへと送ろう」
意味が分からない斑鳩は虎太郎を見る。
「なんか、皆殺しにする的な事言ってますよ隊長!」
敬礼しながら言う虎太郎に斑鳩は頷く。
「交渉は決裂だ」
斑鳩がそう言うとバルドルは黄金の剣を斑鳩に向けるが、斑鳩はその腕を切り裂き、バルドルを両断する事に躊躇が無かった。
「斑鳩さん、絶対まだ死んでないので気を付けて!」
虎太郎がそう言うので斑鳩は警戒を解かない。それに観念したのかバルドルが依り代としていたタタリギはドロドロと解けていく。
「コアのないタタリギを動かしてたのか……」
タタリギから抜けていく光は、アールと牙千代が交戦しているタタリギに降り注ぐ。抑制タタリギはその光を浴びると進化を遂げた。
身体は二回り大きくなり、身体中あらゆるところに目が生まれる。その目は全てアールと牙千代を睨みつけていた。
完全に優位に立っていた牙千代とアールに抑制タタリギは槍のような腕を振るう。
「アール殿、お任せを!」
そう言った牙千代は腕を受け止めるがそのまま壁ごとに押し付けられ壁が砕けるまで右往左往と動かされる。
「ごふっ……があぁあ、アールどの……おにげ」
牙千代に光の封印を施しながら身体をバラバラに引き裂かれる。牙千代の内臓がズタズタにされる様をアールも斑鳩も驚きはするが、戦意を喪失はしない。何故なら、その牙千代の縁者である虎太郎は胡椒を振って万能ナッツにかぶりついている。その余裕さを見るに牙千代はだ丈夫なんだろう。
ただし、目の前の抑制タタリギはさらに進化を続ける。それに斑鳩は鬼切丸を向ける。
「アール。C2をあいつの体内で爆破させる。隙は俺が作る。撃牙の先端にC2を括りつけて待機」
頷くアールは斑鳩が持っている刀を見て尋ねる。
「斑鳩、それは?」
「タタリギに通用するアガルタ製以外の唯一の武器だ。今回ばかりはこれが切り札になる」
それにアールが触れようとした時虎太郎が叫ぶ。
「アールちゃん! 触るな!」
びくっとアールは驚き虎太郎を見つめる。
「それは武器じゃない。下手に触ると大変な事になるよ」
虎太郎の言う事は意味が分からないが、触れずにアールは斑鳩に言った。
「いこう」
「ああ」
先陣を切る斑鳩、下段から鬼切丸で切り込み抑制タタリギの腕を切り裂く。そして胴体を突き、大きく穴を穿つ。
「ぶち込めアール!」
ドン!
発射と共に撃牙を離す。そして退避。斑鳩も虎太郎もその場を離れるが、C2が起爆しない……さすがに難色を見せた斑鳩だったが、血だらけ、されど怒りを溜めた表情の小鬼が両手に暗黒のエネルギーを為、どんどん大きくなる抑制タタリギの前に立つ。
「光神バルドル殿、ここがあなたが神として滅ぶかどうかの瀬戸際ですよ?」
虎太郎は斑鳩、アールの手を引いてその場を離れる。
「走ってください! 牙千代、自爆するつもりです。俺達まで巻き込まれたら溜まったもんじゃない」
全く牙千代の心配をしていないところが虎太郎らしいと、全力で走る斑鳩とアール。その二人に手を引っ張られ、虎太郎は宙を浮きながら数百メート先の入り口まで行く。
「飛ぶぞ!」
装甲車に向かって大ジャンプ。
背後から大爆発が巻き起こり、三人が飛んだと同時にそこに火柱が立つ。
そして、虎太郎は目を回しながら装甲車に乗せられる。
「牙千代は?」
斑鳩の言葉に対してひょこっと顔を出す牙千代。
「私ならここに。行きましょう。もはや脅威はなくなりました! 積み木街に帰ってパーティーですよ!」
苦笑しながら斑鳩は装甲車を運転。背後からゆっくりと、蟻の進軍のように追ってきている装甲車の事を気づく事もなく……
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