集結そして……
虎太郎はアールを背負っていると少しばかり考える事があった。
「弟を負ぶっているのはこんな感じなのかね?」
虎太郎には年の離れた弟がいる。両親も弟も虎太郎の存在を知らない。それ故に関わる事もないのだろうが、そんな事を考えて馬鹿らしく思えて来た。自分にはそんな普通の日常はもう二度と戻ってはこない。
「ん、んんっ」
アールが気が付いた。心音も呼吸も止まっていてされど生きているアール。それを不思議だなとかおかしいなとか全く思わないのは虎太郎が闇に片足を突っ込んでいるからなのだろう。
「アールちゃん、きがついたね」
「虎太郎……ゆーは?」
「ユーさんは自分の仕事を全うしたよ。だから僕等もあのマッドサイエンティストを捕まえよう」
「そう、ゆーは凄い。私と虎太郎を守った」
「そうだね」
梯子を上り切ると久しぶりに吸ったような外の空気。そして何やら面倒な事になっている。
「虎太郎、降ろして!」
「はいよ」
アールが虎太郎の背中からぴょんと飛び降りる。ドクターが何者か、人間に襲われているのだ。そんな状態の中アールが駆けドクターを襲う相手に足払い、それを余裕をもって回避する相手にハイキック。そして肘。
それらを捌かれるアール。
「F30……」
「やぁ、アール久しぶりだねぇ、丁度いいや。君も連れてこいって言われてるからおいでよ! あと、そのおじさんは処刑」
バン!
ドクターの眉間がライフルで撃ち抜かれる。何も事情や現状を聞いていないのに、本来であればありえない。それにアールは聞いた。
「何で殺したの?」
「うーん、なんかいてもらわれると困るみたいだよ。この人、あと第13アークは現時点を持って破棄が決定したらしいから、早く行こ! アール、昔みたいに一緒に色んな奴ぶっ殺そうよ!」
手を差し伸べるその人物はアールの事を友達のように接する。虎太郎はポケットに手を突っ込む。誰にもバレないと思っていたがF30と呼ばれた者は言った。
「そっちのお兄さん、今ポケットの中にある物だして……大人しくね。こっち投げて。はやく!」
虎太郎は少し嫌な顔をしてポイと投げるそれ、まあるい何かを見て、投げろと言った本人が虎太郎に聞く。
「何それ?」
「蒸した万能ナッツ」
「は? 武器だろ? 何言っちゃってのアンタ……あっ! お前、第13アークで逃げ回ってた奴だ! ポケットの中にあるもの全部出せよ!」
虎太郎はぽいぽいと十数個隠し持っていた万能ナッツに酢昆布を渡すとF30にドン引きされる。
「なんなのアンタ? なんで武器一つも出てこないの?」
「いや、俺食べるの担当だから」
「は? 食べるの担当とかあるの?」
アールに質問をするとアールは首をかしげて分からないと言う。
「お前ほんと何なんだよ!」
少し怒り気味にそういうF30に対して虎太郎は頭を抱えて笑う。
「俺が誰かだって?」
(虎太郎やめといたほうがいい……)
(アールちゃん、男にはさ、引けない戦いってもんがあるんだ。それはヤドリギマンである宿命さ)
(ヤドリギマン!)
虎太郎はびしっとポーズをとる。
「ある時は万事屋御剣を営む苦学生、またある時はY028部隊に所属する動かざる事山の如しな大食漢。だがその実態は、人の世にはびこる悪を成敗するヤドリギマンイエロー!」
変なポーズを取った虎太郎にF30は襲い掛かる。
「なんだよお前、頭湧いてる奴じゃないか!」
アールが虎太郎を助けるが、体術という点においてはアールを明らかに凌駕しているF30。
「もういいや、スナイパー! この金髪の男の頭弾いちゃえ!」
驚くアールに虎太郎は涼しい顔をする。
「アールちゃん、気にせずにその偉そうな子をぶちのめしていいよ。絶対にライフルの弾はここにはこないから」
虎太郎が言う事はF30にもアールにもはったりだと思っていた。カチャカチャと虎太郎はベルトを操作して何か長い紐のような物を取りだした。
「なんだそれは!」
何か隠し武器の類かとF30がおののくなか、それを虎太郎はぱくりと食べた。
「えっ? さきいかだけど……食べる?」
虎太郎に隠し武器を飛ばすF30。だが虎太郎はそれを滑ってこけて避ける。それにはF30の反応を越えた動き。
「な、こちらの動きに合わせたのか? どうやって……」
「俺がヤドリギマンイエローだからさ!」
虎太郎は歯を輝かせてそう言うとふぅと空を見上げる。
(やっべぇ! 死ぬとこだった。何この子。怖っ! アールちゃん、さっさとやっつけて! ヤドリギマンホワイトのパンチは流星に匹敵するんだよ!)
(えっ……無理。F30強いから)
確かにあのアールが防戦一方。というか人間の動きじゃない格闘をアールにしかけている。虎太郎はアールに向けて自分の掌を向ける。
「な、なにしてるんだ!」
アールも一体虎太郎が何をしているのか全然分からない。事前のサインにもこんな物はなく。全く分からないがF30に隙ができた。アールの蹴り、手の甲がF30を撃つ。
「……くっ! アールの動きが速くなった……!」
(あっ、アールちゃんこの子アホの子だ! なんとかなりそうだよ)
(アホの子?)
虎太郎が顔を苦痛にゆがめながら言う。
「俺の、ヤドリギマンイエローの力を送っても貴様等F30と互角くらいとはなんという強さだ! お前もヤドリギマンなのか? まさか」
虎太郎のクソ演技にアールは死んだような顔を見せる。がいちいち虎太郎の言う事に反応する。
これがアガルタ直属、暗殺部隊F30。存在しえない最凶部隊である。
「力を送る?」
虎太郎は視線で、アールちゃんやれ! と指示をするのでアールは大技をしかけた。腕輪を回してナイフを出すと切りかかる。それを避けたF30の胸倉をつかみ投げる。
そしてその首めがけて蹴りを入れた。
ゴッと嫌な音が響く。
「ちょ、アールさん! そりゃやりすぎだよ。ちょっとそのアホの子、死んでないだろうな?」
そう言いながら先ほどこのF30に没収された万能ナッツを懐に戻していく。そしてそれをぱくぱくと食べて欠伸をした。
「虎太郎。どうしてライフルが来ないって分かったの?」
物凄く眠そうな顔で虎太郎はアールの頭をポンと撫でる。
「俺の目を使ったのだ。ヤドリギマンイエローはヤドリギサニーサイドアップという必殺技があってその目で見た物の現象を無かった事にできるのだー!」
そう言ってコンタクトを外した瞳を見せる。
「や、ヤドリギマン凄い!」
虎太郎の滅眼。一回の使用で異様な倦怠感と眠気が襲ってくる。眠たそうにしながら虎太郎はドクターの遺体に近づこうとした。
「あれ? マッドサイエンティストは?」
「いない」
ライフルで頭撃ち抜かれて生きている生物なんざこの世にはいない。これはどういう事かと虎太郎は思いながら言う。
「とりあえず隊長と牙千代の元に向かおうか?」
「うん」
そうこう考えているとヘリが近づいてくる。F30の回収を済ましてから二人に向けて機銃を放ってきた。虎太郎を抱えてアールは飛び降りる。
「ぎゃああ死ぬ。怖ぇええ!」
「虎太郎。五月蠅い」
「アールさん、ちょっとこれは俺には意識の高い自殺にしか見えませんよ!」
アールはグランドアンカーを射出して、適当な窓を蹴り破った。
「あっ、斑鳩隊長と牙千代さんだ」
今まで騒いでいた虎太郎が冷静にそう言う。遥か下に二人が見える。何かと交戦中。虎太郎はアールにしがみつくような形でアールの頭に顎を乗せる。
「アールちゃん、これはヤドリギマン合体奥義。空中浮遊の術。二人の元までいける?」
「いける!」
アールは壁づたいに壁を蹴り、身体をひねり、時にグランドアンカーを使って勢いを殺しながら落下していく。
「説明しよう。ヤドリギマンホワイトはこのアニメとか漫画によく出てくるワイヤーでしゅぱーんってする奴をつかって高速移動をする事ができるのだ! そしてヤドリギマンイエローは重りの役目になる事ができるぞ!」
虎太郎の謎の解説のまま落下をしていく中。残り10メートルを切った時にアールは緊急安全装置のエアバックを発動。
ボフン!
「ぎゃああ痛ぇ!」
思いっきり虎太郎の喉から胸にかけてむち打ちになる。それはアールも背中に虎太郎がいる事を完全に忘れての発動だった。
「ごめん。虎太郎大丈夫?」
「うん、全然大丈夫じゃないけど気にしないで」
何やら刀を構えている斑鳩と謎の構えをしている牙千代の元に虎太郎とアールが降り立つ。それは天使が小鬼を担いで天からやってくるように……
「斑鳩、ドクターを取り逃がした。動力部は破壊」
アールが報告をしている中で虎太郎が真顔になった。
「ユーさんが殉職した。そもそももうあまり長く動ける身体じゃなかったってさ。あとこれを斑鳩さんに、最期に成すべき時に使うかもだって」
虎太郎がポイと斑鳩にアンプルを投げると牙千代の元に向かう。
「この二つが元凶?」
「そうですね。中々に強いですよ主様」
「強いって牙千代さんの何百分の一くらい?」
牙千代は虎太郎の頭をぺちーんと叩く。そして角を生やした。
「さぁ、どうでしょう。斑鳩殿。アール殿。仕上げと行きましょう! ユーさんの弔い合戦です!」
(さぁゆけヤドリギマン達。悪を討ち世界に平和をもたらしてくれ!)
そんな事を考えながら虎太郎は万能ナッツを齧る。そして咀嚼。
「今更だけど、冷えると不味いな」
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