全てを消し去る光の神
一方、斑鳩と牙千代は次々に襲い掛かって来る抑制タタリギにため息すら出ていた。斑鳩より頭一つ分小さい程度に成長した姿の牙千代。
「くらいなさい! 大地の力と、鬼神力を開放したヤドリギマンぱーんち!」
人馬一体型の抑制タタリギ、それが量産体制に入ろうとしているであろう事も薄々理解できていた。
「牙千代大丈夫か?」
牙千代は、斑鳩でも引いてしまうような笑い顔で抑制タタリギの背後を取ると背中側から腕を突っ込み、コアを引き抜いた。
「これが、正義の力ですっ!」
絶対正義とは対極のところにありそうな牙千代の力、斑鳩は勝手にタタリギを処理してくれるのでその様子を見ていながら、少しだけよからぬ事を考えていた。
この力を手に入れる事は出来ないだろうか? 牙千代の力が一体どこから来るものなのか、欲しいと少しばかり考えていた。
牙千代はイカれたダンスを踊るように、人馬一体型の抑制タタリギの首を刎ね。そのまま傷口に手を突っ込み、やはりコアを引きずり出す。三体目の抑制タタリギを牙千代が叩き潰した時、それは現れた。
「子供?」
積み木街では絶対に見る事ができないような豪華な服を着た少女。成長する前の牙千代くらいの年齢にも見える。斑鳩は肩膝をつき、胸に手を当てて少女に話しかけた。
「俺はY028部隊の斑鳩。この施設の子供か?」
少女は斑鳩を見つめて少し照れたように、そして嬉しそうな顔をする。斑鳩に触れようとする少女。
「斑鳩殿、いけないっ!」
牙千代は少女を全力で殴り飛ばした。それに斑鳩の中の何かが切れる。そして、装備している撃牙を牙千代に向けた。
「なんのつもりだ牙千代っ!」
「落ち着きなさい斑鳩殿。あれは、人ではありません。見なさい。私に殴られて起き上がりましたよ」
牙千代は素手でタタリギを殺す化物である。そんな化物に殴り飛ばされて生きている子供なんているハズがない。
「酷いなぁ。何処から、現れ出たオーガかは知らないけど、ボクの依り代に触れないでくれるかな?」
牙千代は斑鳩の前に立つと斑鳩に見えるように後ろ手で指示を出す。自分が特攻をかけるから、隙を見て、撃牙を射よ。
「申し訳ありませんが、私達の隊長ですので、お渡しするわけにはいきませんね!」
牙千代の手刀を軽やかに避けると、大根でも切るように牙千代の腕をすぱりと黄金に輝く手で切り落とした。
「私の腕を……ほんとあなた達側の存在はそういう小癪な技が好きですねぇ! くらいなさい。鬼神砲ぉ!」
暗黒のエネルギーをため込んだ牙千代の一撃。それを少女は手を振ると一瞬にして消し飛ばした。
「全ての民を救う光の前に、悪しき者よ。消えるといいよ。スーパーノヴァ!」
牙千代を襲う光線。牙千代は怯む事も恐れる事もなく、それを残った手で受け止める。手が焼けただれていく中。
叫ぶ。
「斑鳩殿ぉ!」
任せろ! そう目線で合図する斑鳩は無防備な少女に撃牙を叩きこむ。が……少女はあの巨大な撃牙のバンカーを空いている手の、それも人差し指で受け止めた。
「なっ……」
「斑鳩暁……会いたかったよ」
「何処で俺の事を?」
少女は恋する乙女のような顔で、嬉しそうに言う。
「はじめて見た時から、君の事が欲しかった。神格を受け入れるに値する空虚な身体。そしてその色の魂。神を受け入れる為に生まれて来た忌子、ボクを受け入れなるんだ。神たるボクを君のその身に宿すんだよ」
斑鳩は少女の語る言葉を聞いて鼻で笑った。フンと、少女を馬鹿にするように、そしてその意味する事を斑鳩は呟く。
「神だと? 神が何をしてくれた? 誰も救ってはくれなかったじゃないか……それを今更……」
少女の言葉を聞かない斑鳩の首を掴む。
それは万力のようで、到底人の力ではない。式狼の斑鳩をして全く身動きが取れないのだ。こんな幼い少女の何処にこんな力が……と少し前なら戸惑ったかもしれない。
「斑鳩殿、すぐに!」
助けにこようとした牙千代に少女は再び光を放つ。それは牙千代の腹部を貫く。牙千代の身体からその向こう側が見えるというシュールであり、そして絶望的な構図。
「なんのこれしき、すぐに元に戻して見せます」
「今までどんな者と死合ってきたのかは知らないけど、君弱すぎ。夜の眷属。ボクの光は悪を生かしておけない。二度と修復できると思わない事だよ」
牙千代は身体から湯気が出る程、回復に力を回す。そして牙千代の姿が小さないつも通りの姿に戻った。
傷は癒えたものの、力が随分無くなってしまった。そんな様子を驚いていたのは斑鳩でもなければ、この少女を倒す術が無くなった牙千代でもなく。
圧倒的に優位に立っているハズの少女だった。
「君は何者かな……ボクの全ての悪を滅する光を受けて、何故傷を癒す事が……」
そしてそんな取り乱し隙を見せた少女を斑鳩も見逃さない。
斑鳩はフリッツから渡されていた対抑制タタリギ用の予防薬を塗ってあるナイフを少女の腕に刺した。
白目をむき、少女は斑鳩を離す。ボールのように斑鳩を投げ飛ばした。人外の力、これは紛れもないタタリギのそれであると斑鳩は確信し、このまま何処かに激突すれば背骨くらいはやられるかもしれない。
ポスっと小さな手、それは暖かく柔らかい。
「斑鳩殿っ、大丈夫ですか? と言ってもこれは中々に厳しいです。あの方は身体はタタリギなのかもしれませんが、根本的に他のタタリギとは違います」
斑鳩はあのアールがタタリギに寄生された状態によく似ているとそう考えていた。腕を組んで考えている牙千代を見ると気が抜けて斑鳩も冗談を一つ言って見せた。
「あぁ……どうやらこれは俺達の方が当たりを引いたかもしれないな?」
牙千代は牙なのか八重歯なのかを見せて笑う。
「確かにあの方に出会ったら今の主様なら瞬殺でしょうね」
「あぁ、ユーにアールでも荷が重いだろう」
アールは総合面において斑鳩を上回っている。それは牙千代も何度かあのアールの立ち回りを見て理解はしていた……が、今の斑鳩の言葉に関しては同感だった。
「でしょね。鬼神である私と、何処か私達に近い斑鳩殿でなければこの者は屠れないような気がします」
牙千代は真直ぐに少女に突っ込む。そして少女の両腕を抑え込むと口を大きく開け青い炎を吐く。その炎を直撃しても少女は瞬き一つせずに真っ向から牙千代の力をねじ伏せに来る。
「ぐぐっ、なんという力ですか……手が潰されそうです」
「君、先ほどの続きだよ。神であるボクの力をどうして受け止めれるんだい? 魔王、それとも悪神……?」
牙千代は指の骨を砕かれながらも表情一つ変えず、少女の言葉に返す代わりに言う。
「斑鳩殿。コンビネーション!」
ガスン!
斑鳩の信頼し、使い続けて来た相棒。ところどころ欠けた部分があるバンカーは少女の身体を吹っ飛ばした。
「少しは目が覚めましたか? いい加減お名前を教えてくれませんかね? 大体貴女の存在に関して分かってきましたが、私はあなた方方面に関しては明るくありませんので」
身体が小さいが故に貫く事は叶わなかったが、直撃、そして10メートルは吹っ飛ばした。ダメージが少しくらはあるだろうと斑鳩は思っていた。
「……ふふっ、さすがにわらけてくるな。牙千代。お前たちを殺す方法はあるのか?」
牙千代は少し考える頷く。
「そうですねぇー。なくはないですが、殆ど不可能だと思ってください。夜を来させないようにする方法を考えるようなものです」
斑鳩は重い撃牙を抱えると頷いた。
「次はどうする? もうさっきの不意打ちは通用しないだろう?」
牙千代は斑鳩の言葉を聞いてか、聞かずか走り出す。それに合わせるように斑鳩も遅れて地面を蹴る。
「これならどうです?」
牙千代は高速移動を見せ少女の目をくらます。その間に斑鳩の撃牙を放つ不意打ち。が、しかし先の一撃でそれは警戒されている。
「そういうの、馬鹿の一つ覚えというのんだよ!」
斑鳩の撃牙が止められたかと思ったその時、斑鳩だと思っていた人物は牙千代が化けた姿。牙千代を払い飛ばし。少女はきょろきょろと斑鳩の姿を探す。
「ここだ!」
斑鳩の手が少女の目を隠し、胴体に撃牙が放たれる。はじめてクリーンヒット。致命傷になりえる一撃が入ったハズ。
「斑鳩殿追撃準備をっ! 私の今放てる最大の術式を放ちます」
牙千代は残りの暗黒のエネルギーを絞り出すと四つの火炎球を生み出す。
起き上がろうとしている少女に向けてそれを牙千代は一斉掃射する。
「禍つ焔! 行きなさい。斑鳩殿、私達もっ!」
牙千代はどす黒い力を手に絡めて、斑鳩は撃牙のバンカーをフリッツに渡された単独撃滅用バンカー。鎌鼬に切り替える。
両サイドからオーバーキルの一撃を放つ。
「牙千代、フォーメーション2.フラッシュ・ジャベリン」
了解しましたという代わりに斑鳩の望む方向からの一撃、牙千代の暗黒の焔は少女を無慈悲に焼き尽くし、そして牙千代の暗黒の爪と斑鳩の鎌鼬により切り裂かれる。
「やったか?」
「斑鳩殿……それはフラグですね」
相当なダメージを与えたハズだった。ボロボロの姿で少女は、変な方向に曲がっている首を直そうともせずにいう。
「やはり、ヤドリギなどという者は死刑だ。一度だけでなく二度までも、この光神バルドルに盾着くとは許しておけないよ」
少女の前にドンと先ほど何体も牙千代が潰した抑制タタリギ、それも全身真っ赤なそれが現れた。
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