ヤドリギマン出動!

「さて、諸君! これから俺の事はヤドリギマンイエローと呼んでくれたまえ!」



 いつもの無表情、いつもの笑顔でアールとユーが虎太郎の前と後ろを歩く。

 事の発端は、移動要塞への侵入に成功した。全長300メートル程のそれ、警備があるわけでもなく、簡単なセキュリティは全て牙千代とアールが破壊した。

 侵入は容易い。

 動力部の破壊、そして今回の大規模テロを実行したクニエダの拘束。という順番のミッションを考えていたのだが、中枢部に差し掛かったところで、まんまと分断された。牙千代は虎太郎を思いっきりぶん殴って右側通路へと飛ばし、アール、ユーと。

 斑鳩は牙千代と共に左側通路を歩む形になる。

 さすがは斑鳩、そんなイレギュラーでもどちらかが動力炉を、どちらかがクニエダの拘束という同時進行に切り替えた。

 そして今、昼寝をして異様に元気のありあまっている虎太郎と共に、異色の三人が先を進む。



「アールちゃんはヤドリギマンホワイトでユーさんはヤドリギマンオリジンかな」



 虎太郎はいつも通り蒸した万能ナッツを齧りながらそう言う。それにアールが眠そうな顔で虎太郎に質問。



「ヤドリギマンって何?」

「アールちゃん、ヤドリギマン知らないの?」

「知らない」



 ガツガツと万能ナッツを食べると虎太郎がアールにポーズを取らせ、ユーにも同じポーズを取らせる。そして虎太郎はその真ん中でポーズをとると言う。



「我等、温室戦隊ヤドリギマン! 説明しよう。ヤドリギマンは日夜世の中の悪を倒し、正義に憂う尊い戦士達なのだ。時折見せるその物悲しい表情は何を語るか? ヤドリギマンのパンチを喰らったものは……死ぬ! 正義の鉄拳。放て撃牙、明日の為に! みたいな感じ」



 虎太郎がカンフーのようなポーズを取り「ほわぁっちゃー」とか叫ぶのを見て、アールは瞳を大きくしていった。



「ヤドリギマン、かっこいい」

「でしょ! そんなアールちゃんも実はヤドリギマンホワイトだったのだ」

「おぉ!」



 今回、従来通りの撃牙を装備しているのは斑鳩唯一人、アールとユーはフリッツが届け出も出さずに持ってきた道具を携帯している。鮫噛シャークバイトと呼ばれた手甲を両手に付けている。リボルバー式の腕輪から鉤爪、ブレイド、ナックル、50口径の銃口。必要に応じて引き上げて使う夢装備。



「それ十徳ナイフみたいだね。四つだから四徳撃牙みたいな? そういえばなんでユーさんは片方だけなんですか?」



 アールは両腕にそれをつけているのに対して、ユーは片腕だけ、代わりに小型の木兎を腰からぶら下げていた。さらに、ハンドグレネード。

 それら装備を見て虎太郎は考える。アールの超性能とそれを補佐するユーの装備。基本的にはミドルレンジ以下で勝負を決する態勢なんだろう。

 アールが蹴り破りながら進む。されど虎太郎達を襲う者は何も出てこない。あっけなく、この移動要塞の動力部へとたどり着いた虎太郎達。



「ここでC2を仕掛けて避難する。あとは斑鳩達と合流」



 アールの指示に虎太郎とユーは敬礼。離れる際には斑鳩に虎太郎の指示に従うようにと言われていたのだが、ここまで虎太郎がした事はヤドリギマンの異様に深い設定と成り立ちを二人に説明した事だけだった。



(さてと、なんかいますわ)

(ですね。アールさんどうしますか?)

(撃滅)



 三人はおなじみの視線会話をするとアールが一番槍宜しく飛び出そうとするのでその首元を虎太郎が掴む。



「あぅ……虎太郎。何?」

「アールちゃん、危ないよ。無暗にツッコんじゃだめ。それが許されるのはヤドリギマンの持つスーパーロボット。アークサーティーンーだけ」



 そして後付けで次々にヤドリギマンの設定が出てくる中、ある意味場違いな人物が高そうな革靴の音を立てて現れた。



「君達が、Y028部隊か……恐れ入った。まぁ、一人。産業廃棄物も混じっているようだがね」



 白衣、そして初老の男。それを見て虎太郎が言う。



「世界征服を目論む、タターリギ将軍ですか?」

「いや、人違いだ。私はクニエダ。しがない研究者だよ。時に君が優秀なる隊長斑鳩君かな?」



 虎太郎はそう言われて、少し考えるとこう言った。



「それこそ、人違いですね。俺はヤドリギマンイエロー! 式虎の虎太郎」



 決めポーズをするととりあえずアールとユーも付き合ってくれた。そんな光景に君枝は空いた口が塞がらない。



「何かの冗談かな?」

「冗談以外でこんな事してる奴いるわけないでしょう」



 虎太郎の減らず口にコホンと咳払いするとクニエダは質問する。



「君達、私と組むつもりはないかな? タタリギもヤドリギもいない世界を、世界平和を作ろうじゃないか」



 両手を広げるクニエダに虎太郎は言う。



「その世界平和に今いる数えきれないヤドリギの人たちはどうなる?」

「死ぬさ。タタリギの力を借りた、背信者達は地獄の炎に焼かれて死ぬべきだからね。だが、君達は特別に生存を許そう。私の守護騎士となり、アガルタを、そして世界中のタタリギを滅ぼそう」



 虎太郎は腕を組むとふっふっふと笑う。そして頭を抱えて大笑い。クニエダは虎太郎のこの反応の意図が読めず押し黙る。



「それが世界平和、片腹痛いわ。アンタのやろうとしてるのはポルポトだ。ただの虐殺ホームランだ。世界平和ってのはもっとすごいんだ!」

「どう凄いのかな? 是非教えてくれたまえ」

「貴子姉さんがいない世界だ! 二人ともタターリギ将軍を拘束!」



 まさか、ここに来て虎太郎の指示、だがアールもユーも聞き分けがよく、そして迅速に行動する。クニエダを拘束しようと動く。



「愚かな……」



 クニエダの前にドスンと降り立つ者。それは大きな馬のような身体に人のような上半身。それが人でないのは3メートル程の巨体だからだろうか……腕はスピアーのようで、確実に殺りにきているなという形状。



「単独最強の抑制タタリギ。マーシャルだ。まだ6体しか製造できていないが、君達を直接叩き潰すには十分だろう。殺しなさいマーシャル」



 巨大なスピアーを掻い潜り、ユーはグレネード弾を発射。足を狙うという常套手段を用い、アールは飛んだ。

 鉤爪でマーシャルの肉を裂き、ブレードを差し込みコアを探る。そしてマーシャルの反撃時には全ての武器を戻して離脱。



「よし! 二人とも教えた通りの連携だ!」



 なんて虎太郎は適当な事を言う。が、後ろ手には接着剤と共にC2爆弾を動力部にぺたぺたと張り付けていっていた。



「マーシャルは君達ヤドリギを殺す毒は吐けないが、メシア様より頂戴した威光を放つ事はできる!」



 あの光かと虎太郎は思い出す。あれはたしかに恐ろしく厄介で、アールとユーには荷が重い。かと言って自分が何かを出来るわけではないので考えた。



「そうだ! タターリギ将軍なら俺でもやっつけれるかも」



 そう思うや否や、虎太郎は全力ダッシュ。きっと初老の男一人くらいなら自分でも確保できるだろうと思った時。

 虎太郎の目の前にドスンと、人馬一体の抑制タタリギが落ちてくる。虎太郎はそれとにらめっこして考える。


(あー、全部で6体いるんだっけ……)


 これは不味いなと思った時、虎太郎は荷物のようにアールに抱えられ、そこから脱出。



「アールちゃん、助かったよ」



 二体のマーシャルなる抑制タタリギ、一匹ですら手に負えないのにそれが二匹。少々ありがたい事があるとすれば、アールの表情からもユーの表情からも何も感じない事だろう。



「二人とも、俺に考えがある。協力してくれるかな?」



 当然二人には策はない、さらに言えば一応現在の指揮官は虎太郎である。それに拒否をする理由はなかった。



「虎太郎さん、了解しました!」

「分かった。どうすればいい?」



 虎太郎は現在今すぐにでも襲い掛かってきそうな抑制タタリギを見て言った。



「片方は無視。もう一匹の方のみを狙って攻撃開始。あとはその時が来たら俺の言う通りに攻撃してね」

「はい!」



 ユーが元気よく頷くのに対して、アールは虎太郎に聞いた。



「もう片方が光を吐いたらどうするの?」

「アールちゃん、もう片方は光を吐かない」



 虎太郎としばし見つめ合うアールは全く理解が出来ないという顔をしたあとに一言呟いた。



「分かった」



 虎太郎は誰に悟られるわけでもなくコンタクトレンズを外す。そして頭をかいた。


(あー少し仕事をしすぎた。困った。カロリーが全然足りない)


 滅眼の使用、一日前に一回。十分すぎるクールダウンの時間。十分すぎる栄養を取ってきた。だがしかし、もう一回瞳の使用は出来るか分からなかった。

 何となく、嫌な予感がしていた。この世界は自分達の世界とは少し違う。今更になって虎太郎の中で湧き上がってきた不安。


(これ死ぬかも……)


 人馬一体のタタリギは両腕の槍みたいなそれを滅茶苦茶にふってユーに襲い掛かる。そして横なぎしたそれにユーは飛ばされ頭を打った。



「ユー」

「ユーさん!」


 アールと虎太郎の叫び声が響く。

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