決戦!移動要塞
決死隊の選択
「メシア様……全ての
泣き崩れる男の前に突如現れる少女。
「ショウゴ、見てごらん。ボクの力が戻ろうとしている。バルハラに四人の勇者が旅立ったおかげかな」
少女の背中には四対の輝く翼。それは人ならざる力、そしてなんとも心安らかになり、美しい。
「メシア様、貴女様は一体……」
「ボクの神名は全ての悪を消し去る光神・バルドル。この世界の民を守るメシア。ショウゴ、準備はできたよ。周囲のタタリギ、そしてヤドリギ達の住処を枯らしなさい」
動き出した装甲移動要塞は、タタリギと人類の覇権争いの最前線、イルミナティラインの要塞『フランベルジュ』。ここよりより1キロ離れた場所に停車する。
フランベルジュのヤドリギ達は一体何事かと警戒する。そしてその移動要塞から同じ姿をしたタタリギ達が四体現れる。
「なんだ……あの人馬一体のタタリギは……」
緊急事態だとそう思っていたら、一目散に遠くに見えるタタリギ達の群れを破壊しはじめる。それを見て、フランベルジュの中の一人が言う。
「新兵器だ。あれはアガルタの新兵器だ!」
歓声が上がった。
いつ殺されるとも分からないしのぎ合いの中、はじめてタタリギ達に打って出れるこの事態に圧倒的に希望を抱いた。
フランベルジュの最高責任者は通信を入れる。
『こちらフランベルジュ要塞、局長のサーシャ・ザインバレル。助力感謝する』
隻眼の荒鷹と呼ばれた女性、サーシャは来るべき時が来たと普段見せないような清々しい表情で通信を待った。そして帰って来る通信
『勤労ご苦労、そこにはヤドリギ以外に一般人はいるのかい?』
子供? というのがサーシャの疑問だった。だが、声で相手を判断するの失礼。そして何より、向こうも指揮官が女性であるという事に少しばかりの感動を覚え正確に答える。
「480名全て、各地域から選りすぐりのヤドリギ達だ。いかなる新兵器や作戦でも全うさせられる準備が整っている」
そう言ったサーシャに対して移動要塞の解答。
『そうか、安心した。安らかに眠れ』
そう言うと移動要塞が真っ赤に赤く光る。それが何か、サーシャは知るよしもなく。無線を持ったままその光を見届けた。
一瞬にしてフランベルジュ要塞は消え去り、そして周囲のタタリギを根こそぎ滅ぼすと移動要塞はゆっくりと次なる目的へと向かう。
そして、一番近い第13A.R.Kにその伝令はすぐに入った。移動要塞をなんとしても機能停止にせよと、先遣部隊は誰一人帰ることなく。マーカスは打つ手がない事に全ての部隊長を大型ホールに招いた。
「聞いていると思うが、アガルタの亡霊、キミエダ・トレンド・ショウゴ博士。タタリギ研究の第一人者。彼が異常な兵器を使ってテロ行為を行っている。彼はアムリタに反応する薬品兵器を持っており近づくのは極めて困難。そこで決死隊を募集する」
直接移動要塞に突入し、内部からの破壊活動。そして移動要塞の動作停止を持って第二部隊以降で一気に叩く。
「この作戦参加は生きて帰る事は不可能だろう。誰が出るのか、各部隊から立候補者の選出を頼む。すまない、君達の命を私にくれ」
先遣隊は30人、そして第二部隊は残りの決死隊。さらに最後は残りのヤドリギ達による超大規模作戦。
移動要塞がここにたどり着くのはあと三日程、決死隊の選出は24時間以内、そしてすぐに行動開始となる。
それは英雄、Y028部隊もまた例外ではなかった。斑鳩は当然自分が決死隊に立候補する事を決意し、一応この話を部下達に説明する必要があった。
今日、コーデリアは皆が無事で帰ってきた事で食堂のキッチンを借りて何かを作ると聞いていたのでそこに真っ直ぐ向かう。
「コーデリアと!」
「牙千代と」
「……アールの」
「「「10分間クッキング!」」」
おぉ! とパチパチ手を叩いているのは虎太郎とローレッタ。椅子を逆向きに座っているギルバートやなんだかんだで楽しんでいる。
三人お揃いのエプロンをつけて万能ナッツのペーストで作った万能ナッツミートに少々の野菜。そして、目を疑ったが、魚の缶詰が二個。
作っている物は恐らくハンバーグ。
「賑やかだな」
局長から配られた資料を後ろ手に斑鳩も適当に椅子にかける。そしてその紙に注目したのは虎太郎。斑鳩と目が合うと虎太郎は眼をそらした。
「あの魚の缶詰、虎太郎達か?」
「えぇ、牙千代さんがまさかの非常食を持ってまして、魚ってあんまりここじゃ食べられないらしいから、どうせならみんなで食べれる物って事でサバの味噌煮ハンバーグを作るみたいですよ」
虎太郎が実に美味そうな顔をするのでそれは美味いのだろう。と思ったが、万能ナッツを美味いと食べる虎太郎だからあまり味に関しては想像ができない。
「ややっ! 斑鳩殿ぉ!」
嬉しそうに手を振る牙千代。現在、牙千代と虎太郎はY028部隊所属という事になっている。あの少女がナイフみたいな殺意と狂気をまき散らしていたなんて今だに信じられない。
今や、保育所にていてもおかしくないようななりで生地をこねている。
牙千代がこね、アールが形成したハンバーグをコーデリアが完璧な焼き具合で焼いていく。それに斑鳩が突っ込む。
「これ十分以上かかってるよな」
誰もが突っ込まないそれに平然と言ってのける斑鳩。牙千代は笑顔のまま冷や汗をぽたぽた、アールはいつも通りの表情で、コーデリアは塩コショウをまぶして「よし!」と言うと斑鳩に指摘する。
「斑鳩さん、それは言わぬが花ですよ」
全員に見つめられて斑鳩は空気をよむと「すまない」と冗談を受け流す。大き目のハンバーグは全員の皿に盛られみんなでいただきます。
「うんまっ!」
虎太郎が開口一番にそう言う。缶詰の見た目から最初はやや引いていた詩絵理も食べて納得。ギルバート、ローレッタ、ユー。皆実に美味しそうに食べ、作った三人姉妹は満足そうにしている中、斑鳩が決死隊の話を始めた。
「フランベルジュ要塞が落ちた。タタリギではなく、突如現れた移動要塞を駆る者。そして、ここ最近の変なタタリギ達。あれは抑制タタリギ計画という物を提案したキミエダ博士の犯行である事が分かった」
ユーがその名前に反応する。
「ドクターキミエダ!」
「あぁ、局長も本部からの解答で知ったらしい。数十年前に抑制タタリギを作る上で、タタリギを回収する為に作られた部隊。それが、ケルビム試験小隊。通称
ユーが随分昔に計画が終了した存在である事、色々と分かる事を斑鳩は話した後に言った。
「各隊長は自分の部隊から一人、決死隊を選ぶ事になった。もちろん、俺がいく。異論は認めない」
斑鳩の判断に詩絵理が怒る。
「どうしてよ。もし、私が選ばれたら私が拒否するとでも思ったの? ヤドリギをやっている以上みんな覚悟があるわ!」
目を瞑る斑鳩。それを止めるローレッタ。ギルバートは自分が死ぬわけにはいかないという考えから無言を貫く。
そんな中、はぐはぐとハンバーグを食べるのは虎太郎。そして虎太郎は食べ終わると水を飲んで、ぐぅぐぅと眠りはじめる。
そこにいた全員がコイツ、この状況で寝た。とあのアールですらびっくりの行動。それに牙千代が恥ずかしがって起こそうとしたが、虎太郎の口元を見て辞めた。
「主様、ごゆっくりお休みください。では空いた皿から洗っていきますので、皆さん言ってくださいね」
牙千代は洗い物をはじめ、元々関係ないからこんな態度なのか……とは誰も思わなかった。そういう事かと、ギルバート、ローレッタもハンバーグを食べ始め、詩絵理も冷静さを取り戻す。
「勝手はさせないから」
そう言って上品にナイフとフォークをかちゃかちゃと動かした。その日の晩、機械のように目を開いたのは虎太郎。
「牙千代」
「ここに」
虎太郎の後ろに立っている牙千代に虎太郎はいつも通りの締まらない顔で言い訳をする。
「まぁさ、斑鳩さん達良い人だからさ。コーデリアちゃんのご飯美味しいね。いっちょやりますか!」
虎太郎の手を繋ぐ牙千代。
「主様は素直じゃないですね。でも、中々どうして悪くないですよ」
虎太郎が突如寝たのは深夜に起きる為、ゆっくりと第13A.R.Kから離れようとした時、物陰から人影。
「おいおい、俺達の事忘れてないか?」
ギルバート、そしてローレッタ。その様子を見て牙千代は虎太郎に視線を送る。
(きゃー! これ、集いし仲間達みたいでカッコよくないですか!)
(やべー、カッコよすぎてちびりそう)
(下着の変えはあんのか? 虎太郎)
(ギルやん殿、あなたもですか!)
視線会話にログインしてきたギルバート。当然行く先で詩絵理、そして塀に腰掛けて月を眺めている少女。アール、その塀を背に立つユーがこのパーティーに参加する。
「お前たち、何処に行く!」
それはまさかのフル装備をつけた斑鳩隊長その人だった。それに皆、あははと笑う。そして先陣を切ったこの無法者のリーダー虎太郎が言う。
「いやー、ちょっと皆さんに迷惑をかける悪を本気でぶちのめそうかなってなりまして、ははっ」
「戻れ」
「戻りません」
斑鳩の視線を受け流すわけではなく、虎太郎は受けとめる。
「昼行燈め……ギル、詩絵理、ローレッタ。三人は後続待機」
「「「なっ!」」」
納得いかない三人に斑鳩は言う。
「全員で出る必要がないと判断しただけだ。力は分散する。それとも、俺のY028部隊はアールや牙千代がいないと何もできなかったか?」
そうだ。
斑鳩はいつも自分達を信頼し、そして……各々、各種ヤドリギの中でもエース級。確かに、規格外の連中を見すぎて自分達の能力を見誤っていた。
斑鳩の指示は的確なのだ。後続に残したスリーマンセルなら並大抵の問題では崩れない。局所的な環境においては牙千代やアールよりも有用である事。
「これをあの抑制タタリギとの最後の戦いにする」
ユーが操縦する装甲車の中で斑鳩は腕を組んで眠っている。下手すればこの車内は世界一安全な寝室かもしれない。
「牙千代さん、斑鳩隊長ってさ。人間だよね?」
鬼神の力を開放した牙千代にもひるまず、先ほど滅眼を発動しようとした虎太郎の力すら止めた。
「あー、本人には自覚がないでしょうが、斑鳩殿。私達に近い存在が前世だったんでしょうね」
「えっ! 前世って、あの「君の名は」的な?」
「そうです。その前世です。闘神、益荒男的なやつです。私も会った事がないので知りませんが、この人、物語なら主人公補正もったチートですね」
虎太郎がそう言う鬼の少女、牙千代を見る。そして、天使の部隊にいたというユー。化物になりながらも生還したアール。
そして、自分。御剣という忌み名。
「生き物百鬼夜行だ!」
「それテレビでやってたら見たいですね。主様」
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