鬼退治っ!
それを見て牙千代はあからさまに嫌そうな顔をし、虎太郎は笑いをこらえていた。そんな虎太郎の口元に牙千代は北京ダックを持っていく。
「はい、主様あーん」
「いやいや牙千代」
(食べないんですか? これは失礼にあたりますよ?)
(鬼め)
(はい、鬼です)
「じゃ、じゃあ頂こうかな。あーん」
虎太郎は殆ど咀嚼せずに飲み込むと笑顔で北京ダックを箸で掴んだ。
「ほーら牙千代も」
「私はあの」
(ホテルの修理費)
(ず、ずるいですよ主様っ!)
「では頂きます。あら口に甘し」
そうやって北京ダックの押し付け合いをしている様を黒坂は箸を握りつぶす勢いで見ていた。嫉妬の炎が燃え上がる中、黒坂は虎太郎の恰好に気がついた。
「御劔さん」
「はい?」
「その恰好は? 何かの制服ですか?」
「俺の高校の制服です」
「コスプレですか?」
「いえ、礼服って固いのしかないんで制服でもいいかなって思ったんですが失礼でしたか?」
「少し混乱しています。えっと御劔さん、今おいくつですか?」
「十七です」
黒坂は持っていたグラスをバリンと割った。
牙千代は黒坂の言いたい事が分からないでもない。老け顔というわけじゃないのだが、何処か達観した虎太郎を子供だと思う者の方が少ない。
「わ、私よりも年下だったんですね。今日一番の驚きでした」
それは牙千代も同感だなとほくそ笑む。
「あはは、よく二十代と間違われます」
虎太郎も聞かれなければ答えないので勘違いされたままの所も数多くあるんだろうなと牙千代は思っていた。
「そう、そうなのね。なら少し速いですがデザートの前に役と御劔、どちらが最強の術者か勝負しませんか?」
突然何を言ってるんだと虎太郎と牙千代は食べる手を止めた。
「でも有名なのは役さんじゃないですか? 御劔なんて歴史で聞いた事ないですよ」
「私達の世界では鬼に関わると必ず貴方の名前とぶつかるんです。何か大きな力でそれが隠されているかのように、実際どうなのか知りたくありませんか?」
「はい、ありません」
面倒事には基本関わらない。それが虎太郎のスタイル。しかしそれはアウェイでは通用しそうになかった。
チャ!
玉藻が両手にサブマシンガンを構えている。片方を虎太郎に向け、もう片方を天井に向けて発砲。
ガシャン!
パラパラと天井の欠片が降ってくる。本物である事を証明するその行為に牙千代は驚き、虎太郎はあまり美味しくない北京ダックを食べた。
「た、玉藻殿」
玉藻には尻尾が生え獣の耳も生える。
「言い忘れていたわ。玉藻ちゃんは狐の
玉藻は尻尾を見せる。
するとそれが焦げている事が確認できる。
「あの幽霊ホテルではよくもやってくれたのぉ!」
虎太郎はやっぱりかと思っていたが、牙千代は頭を抱えてこの状況を理解できないでいた。友達だと本気で思っていたのである。
そんな様子に黒坂はよく冷えたワインをトンと置くと、自分で血のような色をしたそれを注いだ。
「御劔さんもいかが? そういえば未成年でしたわね」
そう言って黒坂はそれを飲み干した。今まで北京ダックを用意してくれていた仮面のシェフは仮面を取ると、それはヤブカー病院の院長。
「よう鬼、久しぶりだな」
「き、貴様は変態。玉藻殿下がって」
ルシアはゴンと壁に頭をぶつける。
「だーかーら、いい加減気づけ! これはお前たちを騙す為の罠だったのだ。だから私と玉藻は仲間だよ」
「……そんな」
牙千代はあまりの事に思考が追いついてこない。そんな中三人目が登場した。山伏のような恰好をした中々のイケメン。
「貴殿等には悪いがここで敗れてもらおう」
その人物の登場に虎太郎と牙千代は声を合わせてこう言った。
「どちらさんでしょうか?」
「なっ……」
それは玉藻にルシア、黒坂までも同じような表情を浮かべる。顔を真っ赤にしてそのイケメンは怒鳴った。
「我はお嬢に付き従う天海……同志たちとお嬢も誰? と言わんばかりの顔をするのをやめなさい!」
黒坂はワインを飲む手を止めててへペロ。
「ごめんごめん、だって貴方二人には直接面識ないんじゃない?」
貴子に終始辱められただけという天海は確かに虎太郎達と面識がない。しかし虎太郎はうーんと唸る。
「何か知ってる気がするんだよな」
それを聞いた牙千代も頷く。
「そうなんです。何処かで、そして彼を見ているとカレーを思い出すのです」
虎太郎がポンと手を叩く。
「ちょっと前家の近所にあったここ一の店員さんか!」
「それです!」
牙千代の合意。
「違う!」
天海の拒否。
牙千代と虎太郎は天海を見てはうーんと頷くとので見かねた天海が叫ぶ。
「お前たちの家に御劔貴子誘拐の脅迫状を送っただろう! 忘れたのか?」
ハァ? という顔で牙千代が天海を見つめる中、虎太郎はそれを思い出して天海に聞いた。
「もしかして本当に貴子姉さんを浚ったんですか?」
「あぁ、一応……そうなるのかな?」
虎太郎は震え、牙千代は涙をハンカチで拭く。
「さぞかしお辛い目に合ったでしょうに」
事実辛い目にあっている天海は何も言い返せないでいたが、見かねた黒坂が玉藻とルシアにも命令する。
「三人とも、牙千代ちゃんを少しイジメてさしあげなさい」
バラララララ!
玉藻が持っている銃を至近距離で放つ。ルシアが鋭い爪で牙千代を襲い、天海は何か物凄い恨みを刀に込めて斬撃する。
それらを同時に受けて牙千代は赤く染まった。
「痛いですね」
さすがに目を伏せたくなるような状態で虎太郎が黒坂にこう言った。
「もし冗談ならそれでいいんでちょっと物騒ですよ」
「鬼を調伏するというのは物騒なものですよ?」
三人に囲まれた牙千代、銃に刃物に妖術を使う三人。牙千代はちらちらと虎太郎を見る。それを面白そうに黒坂は見て言う。
「牙千代ちゃんは鬼の力を使う為には貴方の血が必要、違いますか?」
「違います」
虎太郎の言葉に反して牙千代は本来の力を使えずに三人の猛攻を裁ききれないでいた。今のままでも十分人間を越えるような力を持ってはいるが、今いる三人は個々の能力が高すぎた。一発一発が異常に重く牙千代の肉と骨を食む弾丸。
「玉藻殿、やめてください」
「鬼のお姉ちゃん、ごめんなさいなのぉ、でももうすぐ仲間になれるからねぇ」
玉藻の銃をよける事に手一杯だった牙千代はもちろん他二人への対策はできない。ルシアが手を獣のそれにしてたたきつける。
「あぁ!」
頭から壁に突っ込む牙千代。
そこに容赦なく刀が牙千代を襲う。牙千代は皮一枚で斬撃を受けると反撃に転じようとした時、膝をついた。
力が抜けるのである。
「な、なんですかこれ?」
天海の刀を見て牙千代がため息をつく。
「知っているようだな。そうだ。お前たち邪を斬る為に鍛えられた霊刀だ」
「たまにそういうのを使う者がいました。厄介でしたがそんな物で私を殺せるとお思いですか?」
「無論」
牙千代は腕で刀を受け止めるが、牙千代の腕は宙を舞った。赤い血を流しながらそれは弧を描く。
牙千代は手を伸ばしてそれをとろうとするが力が入らない。
「わたしを・・・・・・私を切りましたね!」
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