捕食しゃっ!

鬼神流きしんりゅう、私の従妹の誰かが使ってる武術ね。武術使う家より私に才能がありすぎて破門されちゃったんだけどね」

「理由はそれだけか?」

「そこの家の子を燃やしてみたの、子供の頃の探求心? ふふっ、あれは楽しかったわぁ」

遠野幻十流殺法とおのげんじゅうりゅうさっぽう



 二刀を向けて貴子に振り下ろす。それを貴子はよけるが、皮を裂けられる。血が勢いよく流れ、それを見て貴子は嬉しそうな表情を浮かべる。



「貴様がどれほどの化物だったとしても人間である事には変わりなり、我が刀の錆になるがいい」



 踏み込む天海に対して貴子は天海のように何もない所から一振りの刀を取り出した。そしてそれで躊躇なく抜刀する。

 刀を二本叩き斬りそのまま天海の翼も切り落とした。



「この子、私の契った子なの。名前を鬼神・鬼切丸おにきりまるっていうんだけどね。鬼殺しの刀って言われてれとっても血を吸うのが好きな子なの」



 天海はこの状況において最後の切り札を使う事にした。

 それは土下座。



「身の程をわきまえていませんでした。許してください」



 トドメを刺そうとしていた貴子は血切をすると刀をどこかへと消して服を脱ぎ始めた。その光景に天海は目を瞑る。

 一枚一枚着衣を脱ぐと貴子は一糸まとわぬ姿となり、露天風呂につかる。突然の貴子の行動にわけが分からないでいると貴子が突然天海を呼ぶ。



「はやく身体洗って綺麗にしてよ。汗かいちゃった」

「お、お安い御用です」



 手ぬぐいを用意しようとしたら貴子に手を捕まれる。



「ひっ」

「何やってるのよ? 貴方を洗ってあげるの」



 そう言って貴子はざぶんと天海を風呂に浸からせる。そしてルームサービスで頼んだシャンパンを開ける。



「ほら、飲んで。こんな所のだけど最高級のを用意したから」

「我は酒は」

「硬い事言わない」



 シャンパンを丸丸一本飲ませると貴子は風呂の中で天海の身体を洗う。天海の敏感な所に触れながら貴子の息を耳元にかける。



「本当に美味しそう」



 貴子に触られて紅潮しながら天海はどうやってこの女から逃げればいいかを考えた。そこでこの女を浚った後に御劔虎太郎に送ろうと思っていた脅迫状がある事を思い出した。



「式神よこれを御劔虎太郎の元へ」



 ぱしっ。

 貴子がそれをキャッチする。


(終わった)


 天海はそう確信した。



「なぁにこれ?」



 殺される事を覚悟していた天海に対して脅迫状を声を出して読む。そして貴子はシャンパンを飲みながら天海に言った。



「書くもの」

「はい?」

「文字を書く物。面白い遊びを考えちゃった」



 猛禽類のような瞳で貴子は脅迫状を見つめ、天海が持ってきたボールペンで脅迫文を書き換える。



「天海って言ってたっけ?」

「は、はい」



 貴子は片手で脅迫状を書き換えながら天海を自分の元に引き寄せ首元を噛む。天海の首元にキスマークを作りながらこう言った。



「面白い目的ね。役行者が鬼を使役していないなんて、貴方の飼い主は、牙千代が欲しいの? あの子、私の玩具なんだけど?」

「我から、この件は身を引くように」



 ブチ。

 貴子は天海の首元をかみ切るとその血を啜り肉を飲み込んだ。



「ダメ」

「え?」

「貴方の飼い主にはこのままあの子たちにちょっかいかけ続けるといいわ。それの方が面白いし」



 楽しんでいた。

 それはもう自分が誰とも違うステージに立っているという優越感から、雲の上から見学するような感覚なんだろう。

 酒が回り、あまりまともに思考が働かなくなってきた天海だったが貴子にもう一つ命令される。



「じゃあこれ、あの子達に飛ばして」



 書き換えられた脅迫状を神通力で飛ばす。



「飛ばしました」

「ご苦労さま。あの子達心配して助けにきてくれるかしら」


(ムリだろ)


 天海は素直にそう思うと愛想笑いを返す。突然ローションのような液体を頭からかけられる天海。



「こ、これは?」



 貴子は再び猛禽類のような瞳で天海を見つめる。目を合わせていると吸い込まれそうなくらい純真であり邪悪。

 白か黒しかないようなはっきりとした美しさを持っていた。そしてその瞳は瞬きをし貴子は舌をペロりと出す。



「今日は金曜日でしょ?」

「えぇ、はい」

「カレーの日なの、曜日を忘れないようにする為にね」

「海軍カレーですか?」



 ぱぁあああと貴子は幼い子供のように明るい表情を見せる。そんな様子には今までの狂気的な女というイメージよりも可愛いなと天海も思えた。



「よく知ってるわね」

「人間の知はある程度調べたので」

「じゃあ貴方は毎日カレーを食べられるかしら?」

「毎日は飽きがくる」

「でしょ? コロッケのせたり、カツをのせたり無限にバリエーションが広がれば飽きも来ないと思うの」



 今まで貴子が自分に対して性的な関心と興奮を見せていたと思っていた天海だったが、どうやらそれは食欲というまさに最悪の形で関心していた事に気が付いた。

 風呂で身体を洗って酒で味付けをして油をかけて焼く?

 揚げる?

 目の前の狂人がどんな風に料理しようと思っているかは理解できなかったししたくもなかった。


(化物を喰おうというのか……お嬢、我はここまでかもしれない)


 あまりの恐怖に天海の眼がしらが熱くなる。鼻歌を歌いながら水風船を作る貴子、翼も失い戦闘能力ではまるで歯が立たない。

 全裸で入浴しているのはその自信の現れ。まさに蛇に睨まれた蛙と言った状態で待っているとシャボン玉を作るのにも飽きた貴子がつぶやいた。



「遅い」

「といいますと?」

「二人が私を助けにくるのが遅すぎる。ちょっと電話かけなさい」



 そう言うとまた何もない所からスマートフォンを取り出してそれを天海に放り投げた。電話番号には律儀に御劔虎太郎と名前が入っていた。

 電話をかけると少し幼そうな少女が電話に出た。



「もしもし、あの御劔貴子さんの件で、えぇはいあの誘拐しているんですけど、えっ? 間違い電話? えっ?」



 電話先の少女はやや怒り気味にそんな人物は知らないと電話を一方的に切られた。その事を包み隠さず貴子に報告すると貴子は一言「そう」と言って肩まで湯船に浸かった。

 ぶくぶくと泡を立てながら何かを思い出したように突然ざぶんと上がる。



「身体を拭いて、早く」



 拒絶すると命を取られかねないので天海は貴子の身体の水分を拭い取って行った。髪の毛は天海からバスタオルを受け取ると軽く水気を取って服を着なおす。



「ど、何処へ?」



 答えずに貴子は部屋を出ていく。それが何者かに向けたとてつもない殺意であるという事、その証拠に無より日本刀を取り出して、切り落とした天海の翼を持ちぶつぶつと何かを言いながら歩いて行った。

 貴子の気配が完全に無くなった事でどっと安堵共に疲れが出てきた。そして切り落とされた翼を生やしなおすと誰に聞かせるわけでもなく天海はこう呟いた。



「帰ろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る