地雷原っ!
関西某所の人口山、そこにあるもう機能していないペンションが今回の仕事の舞台。
電車に並んで揺られ、おやつ何かをつつきながらここまでやってきた。
ピクニックにはもってこいの晴れ渡る天気。
「主様、来て良かったですね?」
「そうだね」
長年よりそった夫婦のように、景色を楽しみ、空気を味わう。幽霊ペンションでの妖怪退治を今から行うなどと誰が思うだろうか?
「牙千代、あの丘の上でお弁当を食べようか?」
牙千代は大きなリュックをからっている。そこには三百円分のオヤツとカルピスの入った水筒、そして米が多めの弁当が入っている。
前日牙千代が少ない材料でこさえた物だった。メザシに梅干、桜でんぶ、そしてメインの卵焼き。
まさに貧しい生活の中で努力して作った牙千代の最高傑作でもあった。
それを日の下で食べる。
妖怪退治という荒事前の牙千代の楽しみであった。故に牙千代は虎太郎と並んで弁当を食べる事に気がとられ舞い上がっていた。
「主様、いきますよ。競争です!」
そう言って踏み出した初めの第一歩。
カチッ。
「かち?」
はてなと可愛く首をかしげたその瞬間。
ボン!
牙千代の真下が爆発した。
小さいなりでも鬼である牙千代には何の痛痒も無かった。
しかし、牙千代のリュックはそんな爆発に耐える事もなく消し飛んだ。虎太郎は足元を注意しながら牙千代の下に来る。吹き飛んだリュックの残骸を見て呆然とする牙千代の頭に手をおく。
「俺の弁当半分こしよっか?」
「主様・・・・・・」
「その前に、この地雷原の地雷全部起爆してもらっていい?」
牙千代は虎太郎のお腹を軽くパンチすると、そのまま虎太郎を後ろの押した。虎太郎がふわりと10メートルくらい後ろに下がる。
「わたしのお弁当とオヤツかえせぇええええ!」
半泣きで牙千代は地雷の丘を走り回る。火柱がそこ等じゅう燃え上がり、一面焼け野原が出来あがった。
牙千代が走り回った事で誘爆を含み地雷は殆ど吹き飛んだだろうと虎太郎は大きな声で牙千代を呼ぶ。
「おーい、もういいよ。お弁当たべよー」
そう言って虎太郎は足を一歩踏み出した。
カチっ!
「あっ・・・・・・」
それはSマインだとか正式な名称は分からなかったが、地面に埋まっていた地雷が噴出する跳躍地雷、戦場を知らずともアニメや映画なんかでその知識は十分にあった。
金属片を撒き散らし、地面に埋まっている地雷より殺傷能力が極めて高い。
結果。
(あっ、俺死んだ)
牙千代が気づき超反応で走る。
「主さまぁああああ」
普段の冷静さを捨て絶叫する牙千代、逆に至って冷静な虎太郎はスローモーションで金属片が飛び散る様を見た。
バンバンバンバンバンバンバン!
金属片と輝く何かがぶつかり虎太郎への被弾を防ぐ。そして金色の羽が舞った。綺麗だなと虎太郎が思っていると、時間が急に速くなる。
否、元に戻る。
「ちぇぇええええすとぉおおお!」
飛び上がった跳躍地雷を牙千代は蹴り飛ばす。金属片が牙千代にも降り注ぐが水滴でも跳ねたのかというくらいに牙千代は気にもしない。
「主様、お怪我は?」
「牙千代助かったよ。ありがとう」
「いえ、普通に手遅れかと思いましたよ。というか明らかに手遅れだったんですが、不思議な事もあるものですね?」
「さて、じゃあ命拾いした所でお弁当を食べようか?」
地べたに虎太郎が座ろうとした所、牙千代は虎太郎の荷物からブルーシートを出してそれを引いた。
「では、いただきましょう」
一つのお弁当を二人で分けて食べる。
豪華ではないが、日の下で食べる弁当の味は変えがたい美味さがあった。箸も共有して食べる。
よそから見れば仲良しの兄妹に見えなくもない。
卵焼きをほお張りながら頬を緩める牙千代を見て虎太郎はブルーシートの上に寝転がる。
「昼寝するのに調度いい天気だね」
虎太郎のリュックに入っている水筒のお茶をコポコポと入れて牙千代は、ふふふと笑う。
「そうですねぇ主様ぁ・・・・・・っじゃない! こんな和んでる場合じゃないです」
牙千代は手元にある弁当をガツガツとかき込むと目を瞑る虎太郎を引っ張る。
「どうしたどうした? もう帰るの?」
地雷が山程埋まった山にピクニックに来た気分で虎太郎はいたが、二人はここに仕事で来ていた。
廃ホテルに巣食う妖怪を退治する。
「しかたがない。ちょっとだけ仕事して帰ろうか?」
「ちょっとではありません。完璧な仕事をして帰るんですよ」
二人は山頂にある廃ホテルに来ると意外とそこが綺麗な事に驚いた。何故ならもう少し、心霊スポット宜しく荒れ果てている場所を想像していたからである。
「ねぇ、牙千代。君みたいな鬼がいるなら妖怪もやっぱりいるんだよね?」
「難しい質問ですね。私は残念ながら見た事も会った事もありません。ですが私が存在していて、人間である主様が存在しているのですから妖怪という者もいるんではないかと考えますが、ネットで調べても正確な情報は出てきませんし、実際よく分かりませんね」
虎太郎は最後の方は聞きたくなかったなと心底思った。聞くよりまずググるという事を覚えてしまった牙千代、人間である自分よりも人間らしいなとたまに思う。そんな事を考えながら虎太郎が廃ホテルの扉を開けるとそこには沢山の人影があった。
「うん、俺は何も見ていない」
そう言って虎太郎は扉を閉めた。
「何故閉めます?」
「いや、明らかに中おかしいから」
「そうなんですか? どれどれ」
ガンと力強く扉を開けて中に入った。すると人影が一斉に牙千代を見る。その様子に牙千代は目を丸くした。
「こっ、これが妖怪……」
廃ホテルの中には沢山の
少しガラの悪い人間の行為を案山子が行っている不思議な空間であった。
「ここで何をしているんです?」
特に物怖じする事もなく牙千代がそう言うが、案山子は言葉通り聞く耳を持たない。突然の来訪者に反応したのほんの一瞬だけであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます