6:黒と呼ばれる所以Ⅳ

勢いを増し、膨れ上がった黒炎がクランツを包み込む。だが、颯爽と飛び上がってクランツは脱出した。素直に受ければ只では済まない。





「今度はこちらから行かせてもらう」





 クランツは驚異的な脚力で対空を維持する。一回体を回転させ、天井に着地していた。そのまま蹴り付けて勢いを乗った。


 ギルからしてみれば、それくらいは見慣れていた。クランツの機転にも、ギルは冷静に対処しようと努める。ただギルにとって問題があるとすれば、それは特別製に製造された白い銃。そして弾丸が厄介であった。クランツは勢いのまま、二丁拳銃を撃ち出す。





「ちっ」





 ギルは避けることに専念する。合計三発の弾丸を避わしたあと、着地した瞬間のクランツの心臓を狙う。


だが、狙いをすましたギルの右手は、クランツの左の銃で受け止められて防がれる。すぐさま、クランツはもう一方の銃口をギルに向けて撃ち込んだ。





「……!?」





 もう片方残されているのはギルも同じだった。ギルの左手は向けられた銃を掴み、方向を外させた。





 お互い近距離で譲らない状況だったが、ギルは黒炎を繰り出す。クランツはおとなしくその炎に喰われるわけにもいかない。ギルを蹴り崩して後ろに跳ぶ。黒炎からうまく離れた。





「その銃弾が邪魔だな」





 ギルが非難を浴びせる。クランツが白い銃で撃ち出す弾丸は破邪シルバー・の弾丸ブレッドと呼ばれている。銃と同様、魔界の住人を相手するために特別な製造方法で造られたものだ。





「銀シルバー・の弾丸ブレッドか。俺からすれば、お前の黒炎のほうが邪魔でしょうがない」





 クランツは冷淡に述べる。そして、クランツは身の丈ほどもある黒いコートを脱いだ。コートはチリチリと燃えている箇所があり、ボロボロだった。クランツがコートを脱ぎ捨てると、中からは、身軽そうな袖のない服が現れた。








「やばいかも、しれない」


「え?」





 紗希とリリアは、出来るだけ離れてただ見守っていた。お互い固唾を飲んでいたけど、リリアが重々しく口を開いた。





「処刑人のほうが押されてる」





 紗希には分からない。どっちかというと互角じゃないかかと思ったくらいだ。





「おそらく執行者の方はまだ手の内を晒してない。このままだと、遅かれ早かれ殺られると思う」


「そんな……」


「やっぱり紗希は、処刑人に勝って欲しい?」


「も、もちろん」





 紗希は即座に答えたのだが何か気になっただろうか。リリアは真っ直ぐに紗希を見据える。そして溜め息混じりに口にした。





「どっちかというと、私も処刑人のほうがマシかな」





 そう答えたリリアは、痛む傷に耐えながら、戦闘体勢をとった。





「あ……」





 膝を一瞬曲げたリリアを紗希が咄嗟に支えた。ヒュドラにやられた傷もある。やはり限界は近い。





「この体じゃあ無理だよ」


「大丈夫。私だけ寝てられないから」





 タイミングを計った。ギルが銀色の弾丸を避けて、体勢を崩した隙に、クランツは蹴り飛ばす。接近していれば、弾丸よりも蹴りのほうが遥かに早い。膝をつくギル目がけて、クランツは左手の銃を向ける。





「……!?」





 その時を狙った。リリアの手先から飛来する風の刃、烈風斬エアスラッシュがクランツを襲う。





「くだらない」





 クランツは、迫る刃に向けて撃つ。実にあっけなく相殺した。





「おとなしく見ていろ。しぶとさは認めるが、ギルを殺した後は貴様だ」





 紗希はゾクッと背筋が凍る思いだ。酷く冷たい。鋭い視線だけじゃなく、発する言葉そのものも冷たかった。





「リリアァ!」





 その隙に、立ち上がっていたギルが突然叫ぶ。





「手ぇ出すな。こいつは、俺が殺す!」





 ひしひしと何かが感じられた。その何かが強すぎて、目を離せない。紗希は呼吸がうまく出来なくなりそうだった。





「紗希。……やっぱり、私の出番はないみたい」





 リリアはそう言って膝を落とした。技を使用した反動か、ついに限界が訪れたようだ。





「信じるしか、ないね」





 そのまま倒れそうになるリリアを抱いて、紗希は行く末を見守る。紗希にはそれしか出来なかった。








「ああぁあ!」





 ギルが走る。体が訴える痛みを押し殺し、目の前の奴を殺すべく向かった。





「はあぁあ!」





 またクランツも駆ける。処刑人であろうが関係ない。魔界の住人であることに変わりなく、クランツにとっては殺すべき対象であった。リロードを施した二丁拳銃が光る。左の一丁でまずは二発撃ち込む。





「……!?」





 当たったかと思われたギルは、消え失せる。どうやら残像に過ぎなかったらしい。本体は何処かとクランツが見回す。





「こっちだ」





 前に向けたクランツの左腕は、その時だらんと緩んでいた。右方向よりかは隙がつけることが出来る。背後に回る時間は短縮する。


 クランツは、左脇の下から右手に握る銃を覗かせ、左方向のギルに撃ち込んだ。

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