3:黒猫
「ニャ~」
その日は雨が降り注いでいた。パラパラと傘を必要とする雨だ。学校からの帰宅途中。危うく聞き逃しそうになったその声は、足元から聞こえた。
「あ、猫」
優子が感嘆な声を出す。見てみると、生い茂る叢くさむらからひょっこりと首を出している。真っ黒い毛並みをした猫だ。丸い黄色の眼が特徴的だった。
「首輪してないけど、君は野良かな?」
優子はしゃがみこんで、自分の赤い傘に猫も入れてあげていた。動物好きな彼女は嬉しそうである。
「この辺ではあまり見掛けない猫ね」
加奈の言う通り、黒い猫は見掛けたことがない。三毛猫ならたまにうろうろとしている。三毛は首輪もしているから飼われているのだろう。けどこの黒猫はしていないし、何より弱っている。鳴き声に元気がなかった。
「あ、この子怪我してるよ」
ほんとだ。優子が抱き上げてみて気付く。逃げようとすることもない。フーッと警戒はしていたから、人懐っこいわけじゃなく、逃げる元気がなかったのかもしれない。腹部の痛々しい怪我と、滲み出ている血がそう確定付けた。
「で、どうする気なの?」
加奈が問う。
「そりゃもちろん私が飼う」
即答する優子。ただしその即答は、逆に即取り下げられた。加奈によって。
「なに言ってんの。優子の家じゃ動物なんて飼えないでしょ」
「あう……。じゃあどうする?」
「私の家も駄目。熱帯魚飼ってるし。元気になったら何されることやら。ってことで紗希しかいないわね」
薄々そうなるのではないかと伺っていると、本当にそうなった。まぁ猫は好きだし、別にそれでも良い気もするけど。
「でも飼っていいって、許してくれるかどうか分かんないよ?」
すると、加奈は手をヒラヒラさせ笑いながら言う。
「大丈夫大丈夫。こんなことぐらいで紗希ん家のおばちゃんは反対しないって」
「そうそう。紗希ん家だもんね」
そんなにウチって軽いの!?
近々家族会議でも開いて、じっくり検討した方がいいかもしれない。
「んじゃよろしく」
「ん。おっけ」
優子から私に黒猫が渡される。黒猫はいまだに弱々しくも警戒している。ような気がした。
「サ……キ……?」
優子と加奈、友人らと別れた後である。紗希には聞こえていなかったが、確かにその呟きはあった。
周りに誰かいたわけでもない。腕に抱える黒猫一匹を除いて、他には誰も。
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