2:定まった標的Ⅹ

「今日から飯担当な」





 …………。……へ!?


 言葉が出ない。思考回路がストップしてしまった。





「それって、私がご飯作れってこと?」


「あぁそうだよ」





 掴んでいた手を離し、ギルは背を向けた。





「じゃあここに来たのって……」


「まぁ……、家行ったらお前がいないから飯作らせようと思ったのもあるな」





 私は唖然とした。でもそれも数秒のうちだけで……。





「ぷっ、あは、あはははは」


「な、何笑ってんだ!」





 だって、ギルも私を狙ってくる奴らと同じ魔界の住人なのに。戦ってる時は、恐ろしいなんて思ってしまうのに。ギャップが激しいというか、人間っぽいところがあるのが可笑しいというか。おまけに素直じゃないし。





「何で笑ってんだ? おかしな奴だな」


「あははは……あれ? でもさ。私に作ってほしいんなら美味しかったってことだよね」


「まぁまぁだよ。食えないこともないってとこだ」


「ちゃんとこっち向いて言わないと、説得力ないよ?」





 ギルは再び背を向けてまぁまぁだと言う。しかも、いつもとはどこかぎこちない。





「……もしかして、照れてる?」


「あぁ? 照れる? 俺が? んなわけねぇだろ」





 横から顔を覗こうとすれば、向きを変えてそれを拒絶する。立場が逆転したように思えた私は、悪戯心が芽生えてきた。





「耳赤いよ」





 もちろん嘘だけど。





「あー! うるせーよ。殺すぞ」





 これ以上はまずいかなと思う。でも、ギルが面白い。





「私が死んじゃったらご飯作れないよ?」





 ガシッ!!





「わぷっ!」





 また突然頭を掴まれる。キリキリキリキリ……。


 い、痛い。痛い。痛い。





「今すぐ死にたいのか?」





 あわわわわ……。ちょっとやりすぎた模様。一気に雰囲気がダークになってしまった。





「いやいやいやいや……」





 必死に否定すると、今回はすぐに離してくれて助かった。





「でもいいよご飯くらいなら。助けてくれたお礼。でも今日は学校あるから無理だけど」


「お前毎日遅く起きろ」





 また無理なことをおっしゃる。無理だと言うと、なら早く起きろと言う。私にはそれもけっこう難しいけど。眼が殺気を放っていたので、とりあえず了解をとった。今日の朝が無理だと分かると、ギルは早々と立ち去る。正確には飛び去って行った。








「ありがと」





 さてと。それじゃ私も教室に戻ろうかと思う。屋上のドアノブに手を掛けようとしたところ、実に不吉な音が鳴り響く。


 し、しまった! 朝のチャイムが鳴ってる。あ! そういえば数学のテスト勉強、何にも出来てない。








 遅刻にはならなかったものの、テストは死んだと言える。あまりに悪かったらしく、放課後補習を宣告されてしまった。

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