2:定まった標的Ⅸ
次の日。私は珍しく、遅刻せずに学校に行った。
教室に入って息を呑んだ。教室に穴が開けられていることに皆驚いているが、私は違う。山村君が平然と席に座っていたのだ。
でも……生きてた。良かった。生きててくれた。
安堵した私は、そのまま自分の席に着いた。午前中にある数学の少テストのため、勉強しようと教科書を開く。
「神崎さん。ちょっと来てくれない?」
不意に声をかけられた。顔をあげると、山村君がそこにいた。
「あ……うん」
周りの目を気にして、私は後から行くことになった。場所は屋上。本来立入禁止の場所であるが、人気のない場所としては最適である。教室に穴が開いていたということは、まるっきり夢だったわけがない。となると、山村君は何処まで知っているんだろう。何処までが、現実だったのだろうか。
「や、来たね」
ギィと扉を開くと、すぐにお互いを確認できた。私が歩み寄るのに合わせて、山村君もゆっくりと距離を縮める。
「話があったんだ。昨日のこと、覚えてるよね。どうやら、僕は死んじゃったらしい」
え……。じゃあ、今目の前にいるのは……?
今話しているあなたは……?
「痛かったよ。あれは。喰い千切られるなんて、初めてだったから。でさ、喰われながら僕はふと考えたんだ。どうしてこんなに痛いんだろう。どうしてこんなに苦しいんだろうって。そしてすぐに分かった。あぁ、そうだ。神崎さん、全ては君のせいだったんだって」
死んだ筈の人間が、今目の前にいる。普通に考えればおかしな話だ。でも、今それが現実となっていた。
「本当なら、君だったんだ。君が喰われる筈だったんだ。それなのに、僕が死んで君はのうのうと生きている。それってさ、不公平だよね。だから僕は、君を殺すために、蘇ったんだ!」
それを聞いて、妙に納得している私がいた。そうか。なら仕方ないか。やっぱり私は……。
ズンッ!―
「死ぬのはお前の方だ」
「ぐふっ……。な……んで、此処に……」
いつも突然現れるギルがいた。そして、蘇った彼に致命傷を与えている。背後から、右腕で体を貫いていた。
「お前がいるからだろうが」
荒っぽく、通過させた腕を引き抜く。山村君は血を吹き出し、そのまま倒れた。
「なん……で……。何で殺したの!? ギルの世界から来た奴だけじゃなかったの!?」
やっぱりギルも、今までの奴と同じなんだ。ギルは違うと思ってたけど、人間も殺すんだ。そう私は思って叫んだ。でも、ギルの言葉は実にあっさりしたものだった。
「あぁ? よく見ろ。こいつは人間じゃねぇ」
「……!? 消え……て」
今までと同じだった。血に伏せた山村君は風化し、砂となった。そして跡形もなく、消えた。
「ど……どういうこと……?」
「こいつも魔界の住人なんだよ。俺以上に暗殺に長けた奴だ。いつの間にか突然存在する。だが誰もたいして気にしない。むしろ前からいた仲間のように思えるらしい。普通は集団に出没するんだがな。……まぁつっても、死んだ奴が忽然と消えたから俺も分かったんだが」
集団のなかにいつの間にか存在してる。それってまるで……。
「じゃあ昨日から?」
「あぁ。本当は最初からいない。獣連れてた奴も、気付いてなかったかもな」
「……そっか」
昨日ギルが突然いなくなったのも、山村君を追い掛けたんだろう。
……良かった。本当に良かった。私のせいで犠牲者は出ていなかった。
でも……と考える。でもこれからは……。
「ひゃう」
ガシッと左手で突然頭を掴まれる。キリキリと締め付けられて痛い。
「んなことより、お前。さっき殺されてもいいか、なんて思っただろ」
「お、思ってないよ。さっきは、私のせいで死んじゃったんなら、恨まれて殺されても、仕方ないかなって……」
「同じだ、ボケ」
キリキリキリキリキリ……。
「痛い! 痛い! 痛いって! ギルには関係ないでしょ」
「お前は囮だって言っただろうが。たった三日で四体も殺せたからな。かなり効率が良いのが分かったんだよ」
囮なんて嫌なのに。なんて言っても通用しないんだろうなぁ。ってそろそろ頭離してほしいんだけど。
もう締め付けてはいないけど、いまだに掴んだままである。
「あとな……」
まだ何かあるの?
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