13
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫だって」
もちろん確信はないが、でもこれしかないだろう。これでダメだったら、ゲーム好きのやつに相談するのもいいのかもしれない。でも、と思う。きっと沙良絵に会えば何かわかるはず。
いらっしゃい、という言葉に俺たちは喫茶店の入り口を見る。沙良絵だ。良かった、ちゃんと来てくれた。電話で呼び出したのはいいけれど、かなり怪しまれていた。そりゃあ沙良絵だけ呼び出すなんてしたことないから仕方ないけど。いつも健司と沙良絵と俺のセットだし。俺たちを見つけた沙良絵は笑顔から驚きの表情に変わる。
「昨日の子だよね?びっくりだよ!ゆうやんが女の子を二日連続で連れているなんて!」
Wow!と驚きのポーズ。いつも通りの沙良絵だ。
「どういう関係なの?」と興味深々なところ悪いけれど、今はそんな話をしている場合じゃないんだよ沙良絵。だから「聞きたいことがあるんだ」と俺が言った横で「パー……じゃなくて召使よ」と沙良絵の話に乗っかる女がいた。
「召使!!!これは斜め上の関係だ!!!」
「全然使えないんだけどね」
「いやいやいや、これでも相ヶ崎くんは使えるよ」
「そう?」
「おいちょっとまってくれ」
何よ?と二人に睨まれ、うっ、っとたじろぐ。がここで負けたら話が進まないので、「話があるんだ!」と声を張り上げた。きっとこういうのも俺の役割なんだろ?やっぱ違うな。
「何々?告白かな?」と沙良絵は体を揺らす。ちょっとかわいい。
「カエル男のことなんだけど」
沙良絵は急に俯き、押し黙った。やっぱり沙良絵は何か知っている。
「沙良絵、やっぱカエル男のこと、何か知っているんじゃないか?」
「……ううん。知らないよ」
「でもどうして、探してたんだよ」
沙良絵は顔を上げ、俺を真直ぐ見る。だから俺も真っ直ぐ、目を逸らさなかった。
「それはさ。私前に言ったよね?親から半ば強引にこっちに来させられたって」
「ああ」
「なんていうのかな。それから私は今でもたまに、すっごく独りなんだなって思うの。なんだか、知らない別の場所に放り込まれているって感じ、とでもいうのかな?」
変だよね、と苦笑いをする沙良絵は全然変なんかじゃない、と思う。きっと俺が沙良絵の立場だったら同じことを感じたはずだ。もちろんこんなに一緒にいるのに、独り、って感じていたことはショックだ。でもしょうがないだろ?独りって感じているんだから。そう感じていることに、感じるじゃない、なんてことは言うべきじゃない。間違って感じることもあるのかもしれないけれど、それは確かに感じているんだ。だから。
「変じゃないし、独りかもしれないけれど、独りじゃねーよ」と俺は言う。
横で小さく「なにそれ」というのが聞こえた。その通り。意味はよくわからない。でも伝わればいいんだ。感じればいいんだよ。きっと。
「だから会ってみたかったの、カエル男と。だってもしかしたら私の仲間かなって」
へへへと笑う沙良絵の目には涙が浮かんでいた。初めてみる、沙良絵だった。
「でもね、話せなかったんだよね」
「当たり前だろ?沙良絵はカエル男じゃなくて俺たちの仲間なんだから」
うわー、俺結構言うねと思う。ちなみにあとでこのことを思い出しベットで恥ずかしさの悶えるわけだが。なんだよなこのセリフ。
「そう、だよね」と笑顔を見せてくれて俺はほっとする。恥ずかしいことを言った甲斐があったわけだ。
「カエル男の場所ってわかるか?」
「何で?会ってどうするの?」
「……俺も話したい……かな?」
「ゲコゲコしか言わないよ?」
「ゲコゲコを聞きたいんだよ」
その気持ちはわかるよゆうやん!!と沙良絵が笑う。カエル男を倒すとは言えなかった。
「ねえ、見つけても警察とかに渡さないでね。それなら教える」
「ああ」
「倒してもダメだよ」と沙良絵は俺じゃなくて横の彼女に話す。もしかして知っている?いやそういうセリフを話す設定なんだろう。
「わ、わかっているわ」と俺が肘で小突いたら返事をした。
「本当いるのかしら」
俺たちは、昨日沙良絵がカエル男と会った場所に来ていた。
「この路地の奥だ」
路地の奥に旧工場地跡がある。今はただの開けた場所となっているのだが、誰かが花の種を思いっきり投げたから、との噂があるくらい花でいっぱいの場所なっている。隣に見える畑の家主の仕業じゃないかな、とのことだ。花好きで有名らしい。俺は知らなかったけど。
「カエルは花によって来る虫を食べるでしょ?」と沙良絵は教えてくれた。
「たぶん、カエル男が急にこの世界に来ちゃったんだとしたら、慣れ親しんだところに行くと思うの」とのことだ。
理由になっているのかわからないけれど、沙良絵が言うのであればそうなんだろう。きっとそういう役目のはずだ。
ゲームの“あっちの森には化け物が居る”というセリフがあれば、それは“あっちの森に行って化け物と戦ってこい”と言う意味になるのと同じだ。たぶん。
「おおすげー」
「ほんと、綺麗」
そこは一面、花だらけだった。ちょっとした楽園かな?なんて思ってしまうほど。やるじゃんこのゲーム、だなんてツッコミを入れちゃうくらい、俺はこの状態に慣れてきている。自分がゲームのキャラだと知ったからといって、何かが変わるわけではない。結構関係ないじゃん、いけるじゃん。なんて思ったりもする。
そしてちゃんと居た。お約束通りっぽく、花畑のど真ん中に。
なんかボスキャラな雰囲気。
さすがゲーム。
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