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その時の俺はたぶんこれまでにないほど間抜けな顔をしていたに違いない。写真に撮っておけば、笑いたくなったときに利用できるはずだ。

俺も組織に加入される、みたいになったらすごくない?なんて思ってはいたが、実際にミッションなんて言われると、何それ?この子やばい子?なんて警戒する。


「見てよこれ」と彼女はスマホを俺に見せてきた。

画面には「MissionNoClear」と映し出されている。

「何これ?」

「だから、カマキリ男を倒してもクリアされてなんだって。でもさ見てよこれ、ほら」と画面をスライドさせると、そこにはカマキリ男が映し出されていて赤く×マークがついている。その下には“一匹倒せ”と出ている。は?は?何これ?何だか俺は急に怖くなった。なになになに、何なのこれ?

「ね?」と言われても困る。

「倒したのに、終わらないのよ」

「な、なんだよこれ?」

「何って、そういうミッションでしょ?」

「ちょっと待ってくれ」

整理させてくれ、何がどうなっているんだよ、と前のめりに俺はなる。お願いだから分かるように説明してほしい。

「説明って、……そんなこと説明したって理解できないって」

「なんでだよ」

「だってそうなっているんだもの」

「そうなっている?」

「そうプログラムされているんだって」

「誰が?」

「あなたよ」


あなたって俺のこと?

「まぁ一応説明するけれどどうせ「ハハハそんなばかな」とか言うだけよ」

「いいから教えてくれ」

俺がプログラム?なに俺ロボットなの?アンドロイドなの?だから切られても血が出なかったの?だから記憶飛んだの?と疑問と予測が次々に浮かぶけれど、外れ。

「これ、ゲームの世界なのよね」

「そんなばかな」


「ほら言ったじゃない、ね?信じないでしょ?」と彼女は笑うが俺は全然笑えない。ゲーム?だからカマキリ男?だからこんなわけわからないことばかり起こるのか?

「……もっと詳しく教えてくれよ」

「え?」

「だから、詳しくだよ」

「だからさ、言っても信じないんだって」

「……今日、記憶が跳んだのと関係あるのか?」

「記憶が……跳んだ?」

彼女は急に真剣な表情に変わった。これで詳しく話を聞かせてくれるのかもしれない。


「どういうこと?」

「今日、ここに来る前、家で宿題をしようと思ったら、急に警察署にいたんだよ。時間も跳んでいた。そしてその間、俺が何をしていたのか記憶がないんだよ」

「嘘?ホントに?……たぶんエラーが出たんだと思うけれど……」

エラー?それってErrorのことか?おいおい、マジでゲームっぽい。嘘嘘ホント?

「でも例えそうであっても、きちんとデータは更新されて、それっぽい記憶があるはずなのに……おかしいわね」

「……宿題をしようとしてエラーなんて出るのか?」

「……たぶんあれじゃない?普通はあんた宿題をしないキャラなんじゃない?」

「へ?」

「しなくていいのに余計なことするから、エラーなんて出るのよ。予期せぬエラーってやつねたぶん」

予期せぬエラー、そう言えばスマホのアプリで何回か出たことがある。ってかなり失礼じゃないですかね、このゲームを作った人。

「ってことは、本当に、俺、ゲームなのか?」

「うんそうよ」あっけらかんと言わないでくれ。

「ホントに?」

「もちろん」


「……」

「え?嘘?まさか、信じたの?」

「……わからない」というか分かって良いのかどうかもわからん。


「何かほかにゲームだと証明できるものってある?」

俺は一応聞いてみた。

そしてそれが決定打となる。

「うーん、これは?」とスマホを触って、俺に見せてくれた。


「購入記録

普通の刀 :7000円

マシンガン:28000円

             」


「これって」

嘘だろと目を疑う。よく見ると「ガチャ」って書かれた部分もあった。タップすればガチャページに跳ぶような気がする。すごくする。これってさ、と俺は何となく理解してしまう。

「ソシャゲ?」     

「知っているんだ?まぁそんなもん」


彼女の話をもし信じるならこうだ。

彼女の時代は西暦2115年(ちなみこの時代は西暦は2015年)。ゲームはというかテクノロジーは随分と進化していて、特にゲームの部分は俺も読んだことのある、小説に近いことになっている。

“VR”。ヘッドギアみたいものを頭につけて、目の前で画面を出すことによって、まるで自分がその世界にいるかのようになるらしい。

ヴァーチャルリアリティ。俺たちの世界にもそろそろ出るんじゃないかと噂されてるあれだ。でも彼女の時代はそんなもんじゃなく、直接、脳に信号を送り、まるで、ではなくまさしく違う世界にいるように錯覚させるらしい。ちょっと怖い。

で、この世界は「WorldWorld」というゲームの世界の一つらしく。彼女がそのプレイヤー件host。つまり主人ということなんだけれど。このhostシステムがよくわからない。


「だから、ホストはね、なかなか回ってこないのよ」

「いやだから何がだよ」

「ホスト役よ」

バーンっと手を広げ、彼女は興奮気味に話す。周りの目も気にしてほしい。こいつ、自分の趣味の話になると止まらなくなるタイプだ。

「いい?ホストはね。……すごいのよ!」

絶対そうだ。

「このゲームにはいくつもの世界が独立されているのね。それで……」


簡単にまとめるとこのゲームには現在50万の世界(部屋)が用意されていて、プレイヤーその世界に招待されたり、自由参加したり、できるらしい。でもその世界には一人hostプレイヤーがいて、管理、というか招待したり、イベントを発生させたりなどができる。で、彼女は念願のhostプレイヤーに選ばれた。とのこと。

ちなみに彼女が手に入れた世界(部屋)は、彼女たちにとって100年前の日本を舞台にした世界の中の一つ、柱谷町。


現実にはこんな町は、無い。

架空の街。


嘘だろ、馬鹿だろ、と思う。

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