10

4月2日。


昨日、事情は警察から説明されていたであろう親は「大変だったな」くらいしか言わないでいてくれた。ありがたい。なので俺は部屋に戻るとすぐに寝る。色々なことが起き過ぎたし、疲れていたのだからしょうがない。本当は沙良絵にあの後どうだったか、くらいは電話で聞いた方が良かったのだろうけれど、俺にも事情があることは分かってくれるだろう。ああ、そういえばあの子の連絡先知らないじゃん。

で、起きると時間はまだ朝の7時。この春休みで一番の早起き。一階に降り、テレビを付けて、食パンを焼く。牛乳を一口飲んだところでニュースはカエル男のことに変わった。

進展なし。目撃者多数。

母親が「あら起きるの早いわね」と扉を開け、「まだ捕まっていないんだー、カエル男。でも捕まえたらどうなるのかしら」と首を傾げる。

確かに。どうするのだろう。カマキリ男みたいに誰かが倒して、そして消えちゃうのだろうか、それとも解剖とかして解明しちゃうのだろうか、そしたらカエル男の仲間が地球を侵略してしまうのだろうか。そういえばカマキリ男だって彼女曰に倒されているんだし、その仇を取りに来てもおかしくはない。やばい。地球やばい。

なーんてばかか俺は、そんなこと起こらないだろうよ、政府様がなんとかしてくれるんじゃないかなー、とかを考えながらパンにジャムを塗りモグモグ。てかあの子本当に何者なんだろうか。モグモグ。髪はアレだったけど顔は可愛いし、胸もあったような。モグモグ。あー!春休みの宿題まだやってない。モグモグ。ゴクゴク。

時間を見ると約束までまだまだ時間がある。それまで宿題でも進めておくかと「ごちそうさま」と母親に声を掛け、二階に戻る途中で彼女のことを想う。再会しよう、だなんてちょっとロマンチックな言葉だよな、え、もしかして俺に気がある、わけないか?でも俺だってそこそこは、と自分の癖毛をくしゃっと握り、「……ストレートになりたい」と呟きながら部屋に入る。

宿題をやろう、と部屋に戻ったけれど、ついスマホを触ってしまう。なんだかもう無意識な部分もあり、やべーもしかして依存症?とか思ってしまうけれど、そのままソーシャルゲームのアプリを開いてしまう。無料ガチャ。もちろんレアなんて出ない。あー欲しいヤツは全然当たらないし、課金しちゃおうかな、なんていつも思うだけれど、したことはない。何だか高校生が課金したら負けだよなー、なんて自分に言い聞かせていつも踏みとどまる。

「宿題するか……」

健司に見せてもらおうと思っていた宿題だったが、まぁやるか、とイスに座る。8時42分。警察署までここから40分くらいだから、10時に出ればいいよな、とカバンを手元に寄せた。そう言えば春休みになってから一度も開けてないかもしれないなー、と、どれどれ何か良いものでも入ってるかな、なんて馬鹿なことを口ずさみながらカバンを開ける。



そして



「は?え?あれ?」





10時53分。

「やっぱカマキリ男やカエル男のせいだよな。それかあの子」

やはり思い出してもカバンを開けた後からか、ここまでの記憶はない。やばい。怖い。カマキリ男たちの逆襲的なものがもうすでに始まっているのかも入れない。それか背中を切られ……服も破れてなかったし、切られたとは言わないのかな。でもそうだと思うと、こんな警察署の前でのんびり待っている場合じゃないのかもしれない。病院に行くべきなのかな、でも本当に何か見つかったら怖いしな。

うーんどうしようかな、と悩んでいると向こうから彼女がやってくる。昨日と同じ、もさもさツインテールに、制服。遠くから見るとその髪の量のすごさが分かる。動く髪の毛みたいになっている。いつから切ってないんだろうか。そして絶対切れば可愛くなるのになと思う。勿体ない。


「……もう来ていたの?早いじゃない。気合い……入ってるわね」とニヤリと笑うが、もちろん俺は気合いを入れたわけではなく、気付いたらここに居たのだ。

「いや実はさ」とそのことを言おうとしたら、「話があるんだよね。ちょっとどこかに入るわよ」と言われたので後についていく。話しってなんだろうか。ちょっとだけ嫌な予感もするが、きっとこれまでのことを説明して、あなたも仲間になれ、的な展開かもしれないな、と少し心が弾む。


喫茶店に入るとすぐに「メロンクリームソーダで」と頼む。メニューなんて見る必要はない。な中学生の時は頼むのを恥ずかしくて頼まなかったけれど、何故か高校生になってそれがなくなったのだ。好きなものは好きだ。

「ちょっと、あんたもなの?変えなさいよ」

「え、お前もかよ。そっちが変えろよ」

こんなやり取りを2周したが「まぁいいわ」と結局同じものを頼む。飲み物が届くまでは話さない方がいいよな、みたいな空気があって、俺たちは黙っていた。なんで黙っていると時間が進むのが遅いんだろ?というか結局俺、宿題どうなったんだ?と思ったところで、店員さんが運んできた。


「ねぇあんたはアイスはすぐ食べる?それとも溶かしてから?」

「始めに頭の部分だけ食べて、後はちょっとずつかな」

「うわー、何か女々しい」

「なんでだよ!そういうお前はどうなんだ?」

「私は……こうよ!」

彼女はぷかぷか浮いているアイスをコロンと裏返して、水分で少し溶けている部分にストローをぶっ刺し、飲みだした。なんだこれ。こんなやり方があったのか。俺もやりてー、けど真似するのも癪だしなー。

それからしばらく俺たちはアイスを沈めてから食べたり、サクランボにアイス纏わせたり、とメロンクリームソーダでできることを色々と試した。

もちろん、こんなことをするために入ったわけじゃないのは彼女も知っていて、どうやって話をしようかな、どっちが先にするのかな、なんてけん制しあい、タイミングを計っていたに違いない。でもまあこれはこれで楽しかったけど。


「……ねぇ相談があるのよね」

先に口を開いたのは彼女の方だった。

「お、おう、なんだよ」と微妙に緊張していることが全面に出てしまった。かっこ悪い。


「終わらないのよ、まだカマキリ男を倒したのに。ミッションが」


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