「終わったわ。楽勝だったわね」

「いやあんなもの使ってそれはねーだろよ」

「勝ちは勝ちよ。……あんた背中、大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫だけど……あれ?」

「何よ?」

「カマキリ男は?」

「見てなかったの?私がしっかりと倒したわよ」

当たり前でしょ?と胸を張る彼女の手にはもう何も持っていない。

「いやそうじゃなくてさ」死体は?と言おうとしたけれど、何だか死体とは表現したくはなかった。彼女が“殺した”なんて思いたくなかったからかもしれない。よくわからないけれど。

「どしたの?」

「……カマキリ男、いなくない?」

「だから倒したんだって」とかなりの不満顔。

「いやだからさー」

死体はどこ行っちゃったんだ?ってもう言っちゃうか、と諦めた時、あれ?これってあれだろ、またどうせ邪魔が入るんだろ、と俺は何となくピンときた。

どうせ家の中からカマキリ男との闘い?を見ていた誰かが、警察に電話でもしたんだろ?たとえ現場を見てなくてもかなりの音が鳴ってただろうし、それで連絡したのかもしれない、どちらにせよ、サイレンが鳴り響いて俺の疑問はまた解けないんだろ?と半ばヤケクソで予想を立ててみた。

そしてその後俺は、はぁと深い溜息をつく。

サイレンが聞こえてきたのだ。



「いやだからホント僕も訳が分からないんですって!」

取り調べ。俺の前に座っているのは、商店街で会った刑事らしい刑事さんだった。そして刑事らしさ満載で、何度言っても中々取り調べは終わらなかった。まぁ確かにほとんど、わからない、しか言っていない俺も悪いのかもしれないけれど、本当なのだからしょうがないよな。

「でも二人が刀と拳銃でカマキリ男と戦っていると¥、という通報があったんだよ?」

刑事さんはこれまた何度目かわからない同じセリフを吐く。それしか言えないのかよ、といいたいところだけど、無理。口調はまだ優しさが残っているが、目は全然だ。こえー。うっかり、拳銃じゃなくてマシンガンですよ、と言いたくなる。それに戦っていたのは彼女一人で俺は鎌で背中を切られただけだ。でも切れてなかったけど。うん、ホントわけわかんない。

正直無駄な時間としか思えないけれど、こんな時間が一時間くらい続いた。


どうやら商店街で彼女が“カマキリ男”のことを話していて、その時は冗談だと思っていたけれど、通報を受け、事態は一変した、そして未だに捕まっていないカエル男とどこかで繋がっているんじゃないかと俺たちは疑われていたらしい、ということを取調室から出てきた彼女は教えてくれた。でそれを彼女に教えてくれたのは彼女の取り調べに同行した“何でも屋”だった。彼女と一緒に取調室から出てきた彼が相変わらずキラキラ光りを帯びていて、俺はそれを口を開けて見ていたらしく「何その顔」と彼女は苦笑いする。


警察は俺の親に連絡したらしく、迎えが来るまで彼女と待つ。そしてやっと少しは普通の会話ができた。「どこ校?」「どっかの学校」「何年生?」「何年生がいいわけ?」「親来るって?」「そういえばどうなんだろ」といった具合だ。うん。カマキリ男がどうとかよりかは随分といいだろう。ホントはもっと違うことを聞きたかったし、聞くべきなんだろうけれど、俺はぐったりと疲れていて、内心、もうどうでもいいや、という状態だった。それに彼女もさすがに疲れていた様子。

「はぁ、やっぱ疲れたわね」と彼女はスマホを確認する。と、あれ?何で?と眉間に皺を寄せるので、俺はおいおいまた何かあるのかよ、とちょっとうんざり。もう休みたい。

「ねえ、まだ終わってない……何で?あんた何かした?」

「何をだよ。むしろなにもしてねーよ。背中痛めたくらいだ」

「そういえばそうよね。やられただけね」

「おい」

「じゃあなんで?」

「何がなんだがマジでわからないからもうちょい分かるように教えてくれ」

ついに言えた、と思ったのになんで睨むの?あんたかわいいけど怖いよ、なんて考えていると「相ヶ崎さん。ご両親がきましたよ」と呼ばれたので「はい!はい!」と元気よく俺は立ち上がる。

もしかしたらもう関わることはないのかもしれないのか、なんて少し名残惜しい気もするが、今日の非現実的な体験は心のどこかに閉まっておくのが一番な気がする。

彼女の正体は結局はわからないけれど、本当にどこかの組織の者な気がするし、そうであれば関わらない方がきっといい。俺の知らないところでカマキリ男なり、宇宙人なりを倒していてくれればいい。柱谷町を守ってくれ、もう知らん。と半ばやけになっていた。

もしかしたらまるで俺が物語の主人公のようだと錯覚するような展開だってあるのかもしれないけれど、この世界に主人公なんていないことは知っている。そんな役割がないことだって知っている。ある意味でとても平等なんだ。生徒Gである俺には、近所の犬の散歩をしてくれる若者、くらいが丁度いいのだ。


そんな風に自分を納得させて「じゃあ」と彼女に手を挙げると「ねぇちょっと」と呼び止められる。

「今日はもう疲れたし、お腹もすいたし……だからまた明日よ!」

「え?また明日?」

「そうね明日の11時に……ここの前で待ち合わせ」

「ここって……え?警察署?」なーに言ってんだこいつ。

「そう、ここから再開するわよ」

「再会って、変な表現だな」

えーどうしようかなっていうフリをして、「ああ、わかったよ」なんて答える。心は踊っていた。ニヤニヤしてなければいいけれど。さっきとは打って変わって、巻き込まれるならば巻き込まれればいい、もしかしたら本当に俺にしかない役割があるのかもしれないと考えを更新。どんだけ単純なんだよ俺は。でもこういう展開はどうしたってワクワクしてしまう。だって本当に自分が主人公みたいだなってバカみたいなことを思ったりもしていた。でも全然違うんだけどね。



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