またしても目の前に現れたカマキリ男は「フシュシュシュルルー」と相変わらず不気味な声を出し、臨戦態勢に入っている。

おいおいおいおいおい、ちゃんと見るとすっげー怖い。しかもなんかやる気満々じゃないか、本当にこれを倒そうなんて思っているのかよ、と俺は動揺しまくる。

結局彼女は何でこいつ倒そうとしているのかもわからないし、そもそも俺は倒したいなんて全然思っていないことに今さら気付き、一人で逃げようかな、なんて思ったりもした。好奇心なんてやっぱり出すんじゃなかったよ。反省。でも、もしかしたら、なんて思う。もしかして彼女はこのカマキリ男に親を殺されいて、その仇打ちみたいなことをしているのかもしれないし、それであの時見た刀は形見だったりしてさ、そして俺は実はこの子と小さい頃会ったことがあって、俺を頼りにここに来たのかもしれない。いやもちろんこんな都合のよい、しかも俺が主人公みたいな話はいくら何でも……とは思う。でもこんなに訳の分からないことが起こって、しかも色々都合も良いことも起きているし、こんな設定も有りっちゃ有りなんじゃないのって思ったところで気付く。またしても俺の思考速度だけが激しく早い。なにこれ、死亡フラグ?


なんて一人で色々と考えているうちに、隣ではいつの間にか彼女が例の形見の刀を持って構えていた。形見かどうかは知らないけれど。そしてどこから出して来たのかもわからない。四次元ポケット?

「ここで仕留めるわ」と勇ましいことを言った後にはもう彼女はカマキリ男に切りかかっていた。

右に左に、と交互に刀を振り回す彼女は、はっきり言って素人丸だしだし、いちいち「てい!」なんて叫びながら刀を振る姿はちょっとあれだ。

健司がこの場に居たら「そんなに振り回すもんじゃない」と叫んでいたに違いない。そんなんじゃ絶対やばいって、と俺は無意識に彼女に駆け寄ろうとしていたが、すぐに気付く。あれ押してる?

彼女の素人剣術にカマキリ男は鎌で刀を防ぎつつもどんどん後退しているし、何度か切られていた。なんだ、カマキリ男弱いじゃん。俺は、いけいけ!なんていつの間にか応援していて、後から思うとすごく情けない姿だったに違いない。

「これでとどめよ」

そんなセリフを吐ける場面と実際に吐く人がいることに驚いた俺は、その時起きたことの不自然さを感じるのを忘れてしまっていた。そしておおお!なんて感嘆していたのだ。彼女が2メートルくらいジャンプした。

その見事なジャンプ切りは、カマキリ男の鎌に当たり、ガギッ!と鈍い音を辺りに響かせみごと真っ二つに折る。まぁ折れたのは鎌ではなく刀をだったけれど。

「あれ?うそ?」とその場に佇んで呆然と折れた刀を見ている彼女に向けて、カマキリ男が鎌を振り下ろす。俺は咄嗟に「危ない!」と叫びながら彼女に向かって飛びこみ、覆い被さり、振り下ろされた鎌を見事背中でキャッチしたらしい。


「いいい!!!ってええええええ!!」

何これ、すっげー痛い。背中やばい。ふざけんなよカマキリ!と思うだけでなく、正直言うと、一瞬、彼女を助けたことを後悔してしまった。一瞬だからね。

「嘘嘘!ちょっと大丈夫?まさか死なないわよね?」

ちょっとちょっとー、と言いながら彼女は悶えている俺を揺さぶるのだが、止めて欲しい。心配しているのかもしれないけれど、動かさないでくれ。大丈夫だ俺は生きている。

「ううう、痛い、…やばい」と俺は弱音を吐きながら、恐る恐る背中を触ってみたが血は出ていなかった。え?まじ?何で?鎌でやられたのに?ただの打撲??そんな疑惑が浮かんでいるうちにも、意外にも痛さはどんどん退いていく。「あれ?なんか大丈夫……」と顔を上げた時、彼女が持っているものが視界に入ると、俺は引いた。え?マシンガン?機関銃?


「これでも……くらいなさい!!!」

うわーまたそんなセリフを、なんて思うのと同時にババババババとカマキリ男に向けて銃弾が発射され、ギャギャギャギャギャとカマキリ男の悲鳴が鳴り響く。

俺は、なんだこれ?と4,5回ほど繰り返し行われた、ババババババとギャギャギャギャギャを呆然と眺めていることしかできなかった。そして彼女がとても活き活きとしている様を確認すると、激しくカマキリ男に同情した。なにこれあんたヤクザの娘とか?制服ブレザーだけど。

もうどっちが怪物かわかんねー。血が全く流れていなかったのがせめてもの救いだった。


ホントなにこれ?夢なら覚めてくれないかな、と頬をつねってみたが勿論痛い。夢であることは諦めよう。大体、背中だって痛かったじゃないか。


いつの間にか銃声は止んでいた。

彼女は銃身から出ている煙にフッと息を吹きかけ一言。


「カ・イ・テ・キ」


いやちょっと間違えてるよそれ。


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