「でもね、ダメだったの。なんか私の話は聞いているみたいなんだけどさ。そしてそれなりに反応もしてくれるんだけどね。」

「え?反応してくれんの?」

「うん。でも」というと何かを思い出したみたいにクスっと笑う。

「ゲコゲコしか言わないのよ。カエル男」

さすがはカエル男か。想像してみると確かに笑える気がする。もちろん実際見てしまうと気持ち悪いのかもしれないけれど、人の話に耳を傾け、ちゃんと応えてくれるなんてなんか憎めないやつのように思える。しかもゲコゲコというサービス付きだ。そう思うと俺もちょっと会いたくなってきた。

「俺も会ってみたいな」

「会ってもゲコゲコしか言わないけどね」とちょっとはまた元気になったように見える。


カエル男がゲコゲコ話していた?ところを見かけたおばさんが悲鳴を上げるとぴょーんと飛び跳ねてどこかへ行った、というところまで沙良絵が話していると「ちょっと話を聞きたいんだけどいいかな」といつの間にか後ろにいた刑事に声を掛けられる。3人の話は終わったのだろうか。

「えっと俺に……じゃないですよね」とおどけてみたけれど、全然にこやかな反応はしてくれなかった。さも当たり前だという顔をして沙良絵を連れていく。たぶん警察署でじっくりと聞くのかもしれない。捜査の役に立つ話ではないと思うけど。


「あ、なぁ」と気付いたら連れられて行く沙良絵に声を掛けていた。どうしよう。何か言わないと。


「何?」

「ああ、えっと」と歯切れの悪い俺に対して首を傾げながら次の言葉を待っていてくれている。


「良く分からないけど。大丈夫。大丈夫だよ」

我ながらひどいものだ。

「何それ。分からないのに大丈夫なんて言っちゃだめだって」と笑う。

全くその通りだ。でも。

「でも。ちょっと楽になるね。そう言われると」





なんか警察に連れられて行く姿を見ると犯人みたいに見えるのが嫌だった。重要参考人?ほんとに?と何だが警察の不信になりそうである。でもそれを俺は見送ることしかできないんだな、結局思っているだけしかできないのかよ、なんて思っていると「で、何話してたの?」と横から声を掛けられる。あれ?協力するんじゃないの?とまだ彼女が居ることに驚く。てっきり一緒に行ったと思ってたのに。


「協力?そんなのしないわよ。カエル男に興味ないもの」


はっきりと彼女はそう口にし、でカマキリ男のことなんかわかった?と続ける。どんだけカマキリ男が好きなんだよ。というよりも俺はカマキリ男のことをちょいと忘れていた。

「いやー何もわからない。そもそも沙良絵が会ったのはカエル男だし。そっちこそ警察からカマキリ男を聞かなかったのか」

「それがあいつら何も知らないのよね。カエル男の話ばかり。そもそもカエル男ってなによ。私知らないんだけど」

「ニュース見てないのかよ」柱谷町はこの話で持ち切りなんだけど。

「ニュース?情報は貰っているけれど、その情報にはないのよね。カマキリ男だけ」

「情報を貰っている?」そういえばミッションとか言ってたっけ。何。この子まさか変な組織のエージェント的な?逃げた宇宙人を捕まえに来たのだろうか。

「とにかく私たちが追っているのはカマキリ男よ」

ちょっとしっかりしてよね、と何故か睨まれた。そもそも何でこの子はカマキリ男に固執して追っているのだろうか。助けてくれたのはありがたいけれど、完全に巻き込まれちゃったよなー、やっぱ変な好奇心なんて起こさないで、ジローをちゃんと家まで送っておけばよかったな、と俺は少し後悔し始めていた。しかもちゃっかり“私たち”って完全に俺も入っちゃってるし。




カマキリ男の情報が特にない俺たちは、当てもなくとぼとぼと歩いていると、例の場所まで戻っていた。彼女と会った場所だ。そして俺の帰宅経路である。「なぁそろそろ」帰ろうぜ、と言おうとしたが、「まだ時間あるし探すわよ」と睨まれる。仕方ない。もうちょっと付き合うか。それにまだわからないことだらけだしな。


「なぁ何でカマキリ男を追っているんだ」

「え?いまさら何言ってんのよ?バグってんの?倒すからに決まっているでしょ?」


最近はキモイじゃなくてバグってんの?と人を罵るのが流行りなのか?俺の学校ではまだ流行ってないけど、それなりに傷付くし今度使ってみようかな、なんてことを考えながらも俺はこんなことで質問を止めようとは思わない。

「なにか理由でもあるのかよ」と俺がさらに問い詰める。大体倒すってなんだよ。

彼女は意外にも、うーん、と腕を組んで考え出したので、え?何で?と俺は動揺してしまった。てっきりバシっと理由を突き付けると思っていたのに。しかも「なーんか調子が狂うのよね」と呟くので、それは俺のセリフだよ、と心の中でツッコミを入れた。

「……」

「……」

「……」

「あー、そうだ、あの男。あのアイドルみたいな男、刑事に見えないよなー。もう一人は如何にも刑事って感じだったのに」

まぁあれだ。メンタルの弱い俺は、この微妙な沈黙に耐えられなくなってしまい、急遽話題を変えることにしてしまった。いやだって、それはそうでしょ。今日初めて会った子と道端で向かい合って沈黙なんて俺は耐えられないよ、と自分に言い訳、じゃなくてフォローを俺は忘れなかった。心のケア、大事。


「ああ、あの人は刑事じゃないみたいよ」

「え?じゃあ何?」まさか本当にアイドルとか?

「“何でも屋”って言ってた。あんた知ってる?」

「……何でも屋?いや知らな……くないな」

と俺は、知らない、と言おうとしたのを言い直した。“何でも屋”は確かに聞いたことがある。聞いたことがあるというか、チラシも見たことがある。うちの学校の生徒が何人かお世話になったという話しも聞いたことがある。不思議と思い出せば思い出すほど、けっこう“何でも屋”の存在を知っていたことに気付く。つい「え、お前知らないの?」なんて言いそうになるくらい。

「そうか、あの人が“何でも屋”かー。そういえば前にも警察の捜査協力をしてたっけ」

「今回もそうらしいのよね。……あの感じだと……また会いそうね」

「え??」と聞き返したところで耳障りな羽音?みたいな音が鳴り響き、空を見上げた。今日はこんなのばかりだ。おかしくない?こんな都合よく邪魔って入るもんだっけ?そしてこんな都合よくカマキリ男が再登場するのかよ、と思わずにはいられない俺を余所に隣では「やっぱりね。出て来ると思ったわ。やるじゃない相ヶ崎!」と口する彼女がいた。俺は何もしていませんよ。

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