6
「こ、ここね」と二人でぜぇぜぇ息をしながら、ようやくパトカーが来ているところへ到着した。思っていた通り、商店街だ。
「……あっちね」と人が多いところへ指を指し、歩き出すので、俺も後を付いていくと彼女がスマホらしきものを見ながら呟くのが聞こえてくる。時間はまだある、とか、ミッション、とかそんな単語が聞こえてきた。俺は聞こえなかったフリをして、そっと距離を置いた。聞いちゃいけないこともあるよね。
あれ、と人の集まりの中心になっている人物をみて少し驚く、いやもしかしたらどこかでそこに居るのが分かっていたことに驚いたのかもしれない。沙良絵だ。
「おい沙良絵、どうした、大丈夫か?」と駆け寄り、もしかしたらと体を見回したが怪我とかは特にないようだ。良かった。
「……相ヶ崎くん?どうしてここに?」
「どうしたって?サイレンが聞こえたから」
「助けに来た、とか?」笑う。
「いやそうじゃないけどさ」むしろさっきは助けられた側だ。
それより何があったんだ、と聞こうとしたら「……ちょっと誰よそれ」と不機嫌な声で金髪の彼女が横に来て邪魔をする。何その彼女的な発言は。
「誰っていうか、俺の友達」というよりもどちらかと言うと君の方が何者なんですか?って感じ。
「ふーんそうくるのね」ハハーン私分かっちゃったわよ、みたいな感じで彼女は沙良絵を見ていた。そうくる?どういうこと?もう色々とわけがわからん。それにしても初めてジト目ってやつを生でみたよ。
「えっと、相ヶ崎くん。その子は……知り合い?」と沙良絵は不思議そうに首を傾げながら聞いてくる。無理もない。
「まぁ知り合いと言うか、さっき知り合ったばかりだけど……」でも俺の名前は知っていたんだっけ。
「そういえばさ」と彼女の名前を聞こうとしたら「そんなことより何があったの?」とまたまた質問の邪魔をされる。いやまぁ確かにそれも訊きたいんだけどさ。
「それが」
「はいはいストップ」と後ろからの声に邪魔をされた。振り向くと警官に連れられて如何にも刑事って感じの体のでかい男とその後ろからアイドルみたいな男がやってくる。心無しかキラキラ光っているようにも見えたのだが「げ、光ってる」と金髪の彼女がぼそっと呟くので、どうやら本当に光っているらしい……え?まじで?何で?と俺はついに頭を抱えると「何やってんのよ」と言われ「いやだってマジでキラキラしてるじゃん。そんなことありえないだろ」と応えると「は?」みたいな顔をされ「あんたまさかバグってんの」と嫌味を言われ、バグってねーよと細やかな反抗をした。
「悪いけれど、あんまり広めてほしくないんでね」と刑事らしき男が話すも「でもけっこう周りで囁いているし、それは手遅れなんじゃないの」と金髪の彼女がすかさず反論をする。まぁ確かにこうも周りでひそひそされればさすがにわかる。どうやらカマキリ男ではなく、例のカエル男の方が現れたらしい。で、おそらくその第一発見者が沙良絵だったというわけだ。ちなみ通報者は沙良絵の隣で興奮している女性らしい。
「まぁそうかもしれないけれど、これ以上色々話されると混乱が生じるからね。色々話したいだろうけれど。頑張って我慢してくださいね」とアイドル顔の男が爽やかに諭しに入ったのだが。「分かったわよ。誰にも話さないから私には教えて」と金髪彼女は引かなかった。そんなんで教えるはずがないだろう、何やってんだよと俺は隣で呆れたが、さらに呆れる言葉を俺は聞く。
「君が調査に協力してくれるなら」とアイドル顔の男がさらりと言い放つ。そんなバカな。こんな都合のよい展開ってあるんですか。
刑事たちと金髪の彼女は何やら話し込んでしまったため、俺はその間に沙良絵から話を聞くことにした。怪我などはなさそうだが、落ち込んでいるようにみえるので心配だった。ちなみに通報したおばさんはとても、すごく、かなり、色々と話したい様子を見せていたが、そっちは無視。
「カエル男に会ったって本当?」
「……うん」とやはり元気がない。別れた時とは違い、また店を出た時に戻ってしまっているような感じ。
「何かあったのか」
もしかしたらと想像する。もしかしたら、ケガなどはないけれど沙良絵はそのカエル男に襲われたのかもしれない。あんなことやこんなことをされたのかもしれない。もしそうであるならば俺はカエル男を許しはしない。そして、あれこれと聞いてくるであろう刑事たちも許しはしない。まぁ許さないくらいしかできないのかもしれないけれど。
「特になにかあったわけではないんだけれどね。そこでカエル男をやっと見つけたの」と路地裏を指差した。やっと見つけた?探していた的な?本当にみんなどうしたんだろうか。カエル男がニュースになってからわけがわからない。カエル男自体訳が分からないんだけどさ。
「それで話してみたんだよね」
「え?カエル男と?」
「うん。もしかしたら、と思って。話せるなら聞いてみたいじゃない?」
何を、と俺が聞くと、先ほどまで俯いていた沙良絵が顔を上げ、真っ直ぐ俺の目を見る。
「それは色々だよ。どうしてあなたが突然現れたのか、とか。今まではどこにいて、今はどこに住んでいるのか、とか、寂しくないのか、とか。うん、色々」
言い終えるとまた俯いた。もしかしたら沙良絵は本当に自分とあの突然現れたカエル男を重ね合わせているのかもしれない。親元を離れて誰も知らない、何も知らない場所に来た自分と。でもさ、と俺は思う。それは一年前の話だろ。今はクラスや部活の仲間だっているし、俺もいるじゃねーかよ、と。そんな寂しいこと考えないでくれよって。そんなことを思って、今度こそはと口にしようとしたけれど、もしかしたら俺は全然沙良絵のことなんて分かっていないのかもしれないことに気付く。仲は良いし、健司と沙良絵と俺でこれまでそれなりに時間を過ごしてきたけれど、そういえば部活を辞めたいなんて全然知らなかったのだ。他のことも色々知らないのかもしれない。
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