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あー、バカバカ。逃げろよ自分。俺って実はすっげーバカなんじゃないか?自分の身を捨てる行為なんて生物としては欠陥だろ?でもさ、ここでジローがもしいなくなったら、俺の役割ってヤツは綺麗さっぱりなくなってしまうわけで、それは阻止したい。大した役割じゃないけれど、無くなってしまうのは怖い。ジローを助けたいっていうよりも、自分のために動いちゃってるんだと一応納得のいく理由をこの行動につける。
ってあれ?なんで俺こんなに色々考えちゃってるわけ?なにこれ。走馬燈的な状態?死亡フラグ的な?何にせよ明らかに周りの時間に比べ、思考が早い気がする。
「やめろ!」なんてカッコイイこと叫びながらジローを抱え込む。でも俺の叫びは意味がなく、カマキリ男は「フシュシュシュルルー」と不気味な音を出して、俺たちに向けてその鎌を振り下ろす。さよなら世界。お前は俺が転生して必ず倒してやるからな。と、まだ俺の思考速度は絶好調だった。ついでに、かわいい子の彼氏的な役割も追加してくれよ、と目を瞑り願っておいた。
もちろんそんな願いは届くはずもなく、その代わりに「何やってんの?バグってんの?」と罵倒される。誰に?知らん。
そしてガキンって金属音が同時に鳴り響き俺は恐る恐る目を開ける。ジローはもう吠えていなかった。そして俺は死んでない。
目の前には金髪ツインテール?(髪と量と長さの凄まじさで自信はない)の女子高生(制服を着ているからたぶん。中学生の可能性もあるけれど)が刀でカマキリ男の鎌を抑えていた。なんだこれ?と俺はますます混乱する。ジローもクゥンっと鳴きながら俺の懐で縮こまっている。
「てい!!」と彼女が刀で鎌を弾くと、カマキリ男はそのまま低空飛行で逃げていく。なんだよその掛け声は。
「あ、ちょっと待ちなさい!」と彼女は叫ぶが、カマキリ男は角に曲がり、姿が見えなくなる。彼女も追いかける様子はなく、ただカマキリ男が消えた場所を見ているだけだった。
「はぁ」と溜息をつく彼女に「えっと、あ、ありがとう」と一応お礼を言う。訳が分からないが彼女に助けられたのは確かだ。ジローを一撫でして俺は立ち上がると彼女の身長が何となくわかる。ちっこいな。150くらい?
「えっと、これは何?」と恐る恐る彼女に訊いてみる。カエル男の次はカマキリ男、この街に本当に宇宙人の襲来的なことが起きているのだろうか。とにかく何が起きているのか知りたい。
「ねぇ、もしかして」と振り向いた彼女に俺は改めて驚く。おいおいその髪どうにかならないのかよと。そして、俺の質問が無視されたことにも後から気づく。
「あなた」と続ける彼女に俺は、あれ?髪の毛に気を取られてたけれど、めちゃくちゃ可愛い?なんてアホなことを考えていた。
「相ヶ崎雄志でしょ?」
俺の中の何かがカチッと音を立てた気がした。そして大げさかもしれないけれど、確かに景色が少し鮮やかに色濃くなった、そんな気がしたのだった。恋に落ちた、とかそんなことではない。開かれた。そんな感じ。そして気がした、わけでもなかった。
「え?何でそれを?」
「やっぱりね」と彼女はニヤリと笑う。何がやっぱりなんだろうか。
「俺のこと知っているの」
「まー知っている……というわけではないか」と彼女が首を傾げるのつられ俺も首を傾げる。何それ?
「……それにしても。なんで私が助けるのよ」
「え?」
「普通あなたが助けるんじゃないの?」おかしいわ、変だわ、とぶつぶつぶつぶつ。
「いやーそれはそうかもしれないけれどさ」
漫画とかだったらそうかもしれないけれど、そううまくはいかないよな、と俺はハハハと乾いた音をだす。と言うよりもさ、その刀何?と聞こうとした時パトカーのサイレンが少し離れたところで聞こえてきた。場所的に商店街の方か。
「またカマキリ男かも」と彼女は早く行くわよ、と言いながら駆け出した。え?俺も?と一瞬思ったけど、まぁいいかと一緒に駆け出す。あ、ジロー、と振り返るともうそこにはいなかった。まぁ、あいつは大丈夫だろう。うん。また散歩行こうな。「何してんのよ」との声に俺は再び駆け出す。
正直何が何だか分からないけれど、ちょっとワクワクしているのだろう俺は。なんていうのこれ?非現実的というやつだろうか。カマキリ男に殺されそうになったくせに、浮かれていた。
「あ、そういえばその……」刀って言おうとしたところで言葉が詰まった。彼女はもう刀をどこにも持っていなかった。さっき刀は見間違え……のわけはない。
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