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もう一人の友達、
相変わらずのボブカットは良く似合っている。正直ちょっと可愛い。沙良絵はちょっとおバカな感じでクラスのムードメーカ的存在。でも実は結構考えている、というよりも色々考えすぎる癖がある、といった方が正しいか。そういうのあんまり外には出さないけど。それも仕方ないと思う。詳しくは話してくれないけれど、この街に単身で来たのだから。親は?よく知らない。可愛そうな子、なんて表現はしたくはない。そういうのとはちょっと違うと俺は思う。もっとこうなんていうか……わからないな。
それでも明るくて、元気で、色んな表情を見せてくれる飽きない子なのは間違いない。
ちなみもうこれで友達は全員だ。泣いてないよ?
「いやーごめんごめん。部活が中々終わらなくてさ」と席に座るなり、もーらい!と言いながら俺のポテトをひとつまみして、口に入れる沙良絵は相変わらず幼い顔で、顔だけでなくその振る舞いから「幼稚」とよくからかわれていたらしい、が今ではそんなことはない。
いつもならここでポテトを口に放り込んだ沙良絵に「塩分気を付けろよ」と健司が口を開くのだが、何も言わない。何で何で?と俺はちょっと不安になる。代わりに健司は「カエル男には会わなかったか?」と声を掛けた。
「カエル男?」何それ何それ?と沙良絵は前のめりで聞いてくる。まだ知らないらしい。
「昨日この街にカエル男が出たんだよ。今朝のニュースはそればっかりだよ」そして健司との会話も今日はそればかり。
ニュースを簡単に話すとこうだ。
昨日の深夜2時(日にち的には今日)、24時間営業のスーパーの店内で突如カエル男が目撃された。目撃者は会社員の男2名に女性店員1名、男性店員1名だ。初めは何がなんだが分からなかった目撃者たちだったが、近づいた男性店員に向って飛び跳ね、店員は吹っ飛ばされた。それでこれは現実のことだと知ったらしい。
それまでは夢でも見ているのかと思いましたよ、と女性店員がインタビューで応えていた。しかし防犯カメラにも映っていないことから警察は信じてはいない。
それはそうだろう。パニックに陥った人が証言している、と捉えるのが普通だ。しかし他にもカエル男なら見たことがある、という人が続出しているため、警察は混乱中。そして街も混乱中。この街のどこかにカエル男がいる。そんなわけで街には警察官が多く、カエル男を除けばいつも以上に平和な街になっているのかもしれない。元々平和だったけれど。
「うわーほんとに?!嘘みたい!」と沙良絵は怖がらず、むしろはしゃぐ。そして俺のポテトを頬張る。むしゃむしゃぱくぱく。
そして健司は何も言わない。確かに嘘みたいだ。俺のポテトはもうすぐ底をつく。
「なんかゲームみたいだねこれは。カエル男参上!みたいな」と沙羅絵は最後のポテトを顔の前に掲げ、話し出す。
「ゲーム?」
沙良絵ってゲームとかやるんだっけ?と部活少女なのに意外だなーと俺は驚く。なんか今日は意外なことばかりだな、と思っていたら「私だってやるさー」と目の前でひらひらと手を振る。「私ってさ、ほら一人じゃん?」と苦笑いしながら続ける。
「で柱谷町も高校になって初めて来たでしょ?だから最初友達もいなくて、部活の子はまだライバルって感じだったから、部活ない日はホント暇でさー、だから仕方なしにゲームをやってた時期があったんだよ」と言うと、うんうんと沙良絵は自分で頷いていた。
そう言えば、うちらがこうやって集まったりするようになったのって秋くらいからだっけ?と懐かしんでいる俺に気付いたのか沙良絵は、ニコッと笑顔を俺に向け、また話を続ける。
「なんか街に突然怪物が現れるってゲームもあったなーって」
「宇宙人じゃなくて?」とすかさず健司が反応する。いやいやこだわりすぎだろ、健司。お前はもっと健康に気を使ってくれよ。なんか不気味なんだよ
「いやーそれは忘れちゃったなー。あ、でもね。それとは違うゲームなんだけど、すごく印象に残っているセリフがあってさ」
「セリフ?ゲームキャラの?」
「そうそう。たしか“自分たちがゲームの中のキャラだとしても、それを証明することはできない。だからそんなことは考えずに前を見て生きればいい”みたいなこと言ってた」
「証明できないのか?」
「いやそれよりも気付かないんじゃないか?宇宙人の動物園も同じようなことが言えるな」
「気付かない?ゲームの中だってことを?」
「ああ、気付いたらまずいだろ?気付かないようにプログラムされているだろ普通」
確かにそうだ。そもそも作られているのだから、気付くようにプログラムされていなければ気付くはずがない。
「まーあれだよ。ゲームで言ってたことだしね。なんかさ、ゲームのキャラがゲームを語ってて変なのーって覚えてただけだしさ」と沙良絵は手に持っていた最後のポテトを口の中へ放り込んだ。マイポテトイズゲームオーバー。ノ―コンティニュー。
「宇宙人の動物園と似ているな」
やっぱり健司は宇宙人にこだわる。
「そもそも動物園にいる動物たちは自分が動物園にいるってことなんてわからないだろ?“こういう場所にいる”としか思っていないんだ。それを動物園ってわかっているのは運営している側。つまり人間たちだけだ。要するに動物たちと同じように人間も自分たちが動物園的なものに入れられているなんてことはわからないんだよ。宇宙人以外には」
真剣に話す健司に俺は少し恐怖を感じる。何だかわからないけど怖い。一体何が怖いのだろうか?ちょっとなんかずれている感じ。健司が?俺が?
「わちゃー、何だか難しいねー」と沙良絵が頭を抱える。降参ポーズ。でも確かに、と思う。何でこんな話になったのかはわからないけれど、色々難しく考えすぎだ。ただのお気楽な妄想をしている雰囲気が全く感じられない。おいおいどういう話しなんだっけこれ?
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