4月1日。

大きな欠伸をしながら俺はベットから出る。昨日は雷雨がうるさくて、全然寝られなかった。まぁとくにやることなんてないのだからまた寝ればいいだけだけど。それでも朝日が部屋に入って来ると起きてしまう。人間良くできている。

スマホをチェックするとメッセージが入っていた。健司けんじ沙良絵さらえと俺のチャットルームを確認する。


「部活終わったら集まろうぜ」

「いいよー、健司は何時に終わる?」

「俺は5時」

「私もそんくらい」



「今起きた。5時半にいつもの場所で」




健司と沙良絵。高1の時同じクラスになった二人。俺としてはクラスメイトってよりも友達って言いたい二人だ。そして部活やっているあいつらを、俺は正直いいなと思う。俺と違って自分の役割がちゃんとあるって感じがするのだ。

健司は剣道部のエースだし。沙良絵はバレー部天才セッター。

俺?帰宅部。たぶん生徒Gくらい?Hかもしれない。とにかく何もない。自分の役割なんて……ない。


部活入ればいいじゃん、って思うでしょ?俺も思う。でも入ろうとは思わなかった。そんなことで時間使うのもったいねーよ、なんて周りには言ったけど違う、高校の部活ってなんだか大変そうじゃん?そんだけ。そして、今は時間を使わないことが一番勿体ないと思う。

自分の役割が欲しい。

自分だけの特別な役割。

そんなことを中学生の時は良く思っていた。恥ずかしいから一度しか思い出さないけれど、まぁあれだ。授業中、テロリストに占拠されないかな、なんてマジで考えてた。今思うと、普通に殺されて終わりだろ、って思うけど、その時は何故だが、俺が活躍して、当時好きだった美咲ちゃんとちゃっかり結ばれていた。なんだよこれ。愛は力なり?でも美咲ちゃん、田辺と付き合ってたじゃん。


え?それだけじゃないだろうって?もちろん異世界に召喚されて世界を救った。宇宙人に連れ去られて超人になったよ。ここまで言えば文句ないでしょ?

でもそれは中学の話だ。今、そんな高望みはしていない。高望みっていうのも変だけど。


そんな空想的な役割じゃなくて。もっと、自分がここにいる、っていうのでいい。誰かの役に立っているっていう実感が欲しい。クラスにただ居るだけの存在じゃなくて。生徒Gの役は正直うんざり。でもそれでもいいかなって思う自分もいるのも事実。複雑。要するにさそんなもんなんだよね、俺。閉鎖的。自ら開国しようなんて思ってもいないから、開国されるのを待っている感じ。黒船早くこいよ。


こんな自分を作ったのは間違いなくこの街なんだと俺は思うわけ。

この街は閉鎖的でも何でもないんだけれど閉鎖的に感じる。

そんな街。

 俺は生まれも育ちもここ、関東沿岸部にある柱谷町はしらだにちょう

この街から西に行けば山で、有名な山(何だっけ?)があるため、登山者が良く来るらしい。そして東は海。沖の方は割と栄えていて、休日は観光客で賑わっている。だからあまり地元民は行かない。たまにシラスを食べに行きたくなるけれど。

そんな周りとは違ってこの柱谷町には特別なものはない。心なしか景色が薄い。でも不便じゃないから困る。駅の周りには商店街が連なっているし、少し離れれば下町の風景も見られる。猫がたくさんいるので猫好きにはおすすめ。俺の通っている中央柱ちゅうおうばしら高校もこの街にある。

つまりはこの街を出る必要性がほとんどなく、俺は文字通りこの街から出たことはない。気がする。

 本当はこの柱谷町は、名前の通り谷底にあって周りに柱が立っていて、その柱からなんか光みたいなのが出ていて、世界から隔離されている、なんて空想もしたこともあるけれど残念ながら谷底じゃないし柱なんて見当たらない。ただ何となく出る機会がないだけだ。

閉鎖も封鎖もされていないけれど、何だか出れない。そんな街。

とまぁ自分が閉鎖的であることを何かのせいにしているだけなんだよ。生徒G的な考えだと思ってくれ。




カーテンを開け、下を覗いてみると、犬が一匹で歩いていた。ジローだ。忘れるところだったけど役割は俺にもあった。ジローの散歩だ。うちの犬じゃないけど。

また勝手に出歩いているのかよ、仕方ねーな、と俺は上着を着て、一階に降りた。ぐるっと一周散歩してから佐々木のじーさんのところまで届けてやるか。

これが俺の役割。気付いたら俺にはこれしかなかった。泣けてくる。でも柴犬のジローは可愛い。





「宇宙人の動物園?」

いつものファーストフード店。まだ健司しか来ていなかった。話題は昨日、わが町、柱谷町に突如現れたカエル男だ。健司はこの話が話したくて仕方なかったらしい。分かる。俺もニュースを見て興奮した。この街に事件が?そんなことが起こるなんて考えもしなかった。


「ああ、そういう考えもあるらしいんだ」と健司が話す。

そういえば健司が健康のこと以外を話すのはけっこう珍しい。それほどこの事件はセンセーショナルなものなのだ。センセーショナルって言いたかっただけ。


中越なかごし健司。俺の数少ない友達の一人。常に短髪で学ランのボタンをしっかり止めている、どこに出しても恥ずかしくない高校生No1に君臨している男。そんでもって何気にモテているのを俺は知っている。

「健康を司るからな」と自分に名付けられた言葉を全うしようとしている変なやつでもある。健康にいいんだぞ、と言って自分の部屋の椅子を捨てて代わりにバランスボールに座るような男。もはや病気だ。

そして、いつもだったら「ポテトは塩分取り過ぎるからな、カリウムが多く含まれている干し柿食べるといいんだぞ。カリウムはな…」とカバンから干し柿を広げるのだが、今日は違う。パクパクポテトを口に入れながら、カエル男に対しての持論を展開している。

健司曰くあれは宇宙人なのだとのこと。本来は地球をただ外から見ているだけなのだが、うっかりこっちに来てしまった、とのことらしい。健司の口から宇宙人?健司も仲間なの?と嬉しくなる。


「地球はさ、宇宙人にとって動物園のようなものなんだよ。俺たちは観賞用ってわけだ。だから別に危害は加えない。ただまぁ、たまに研究やらで実験台にされることはあるみたいなんだけど、もう概ね研究は終わっているんじゃないかな?」

「Xファイル?MIB?」

カエル男の出現に、健司の妄想がドカンと爆発している。なかなかやるなと思うのと同時に今までこんな話をしたことないからちょっと戸惑う。

「まーそのようなものだよきっと」と健司はハンバーガーを齧る。こいつがそういうことに興味があるなんて知らなかった。健康以外にも興味があるなんて感動する。だけどなんか違和感。

「何かの実験体って言うのは?」

それで俺も健司に負けじと持論を展開する。といっても昔好きだったヒーロー物のパクリのようなものだけど。完全オリジナルっていうのは難しすぎる世の中だ。


「実験体?生物実験?」

「ああ、ひそかに人間と昆虫を掛け合わせてたんじゃないのか?それで脱走した」こんな馬鹿な妄想を人に話すなんて初めてではないだろうか。感動。

「……宇宙人が実験をした……あるな」とあくまでも宇宙人に絡めるらしい。どんだけ宇宙人好きなんだよ、とツッコミを入れようと思ったけど、思いのほか健司が真剣に考えているので、困惑する。おいおい妄想だろ?

そしてもう一人が到着する。


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