4月2日


「は?え?あれ?」

俺は周りをきょろきょろしながら、現状を確かめる。が、やっぱり意味が分からない。混乱。困惑。要するにパニクっている。えっと……これは記憶喪失?いや今流行の(本当に流行っているのかは知らない)若年性認知症?いやもしくは瞬間移動か?とにかく今の状況が理解できないことはわかる。だってさっきまで家に居たよね、俺。


「あれ?相ヶ崎あいがさきくん?」

少し落ち着いたところに急に声を掛けられ「ああああ、はい」と再び落ち着きを無くす。挙動不審に元通りだ。

「また、来たの?誰かに呼び出されたかい?」

声を掛けてきた相手の顔をしっかりと見ると昨日俺を取り調べした刑事さんだった。相変わらず刑事らしい刑事。ザッツ刑事って感じ。それと後ろには“何でも屋”も相変わらず爽やかなアイドル顔で、手を上げていた。今日も捜査協力をしているらしい。さすがは“何でも屋”といったところだろう。そしてやっぱりキラキラと光っているんだよな。本当に。

「えっと、今日は呼び出されたのではなく、待ち合わせです」

そうだった、俺は今日ここで待ち合わせをしていた。10:32。約束の時間まであと30分……10:32?もう10時??俺だけじゃなくて時間も跳んでいる。瞬間移動じゃなくてやっぱり記憶喪失?

「こんなところで?」と刑事さんが不思議な顔をする。

無理もない。どう見たってここは警察署の前なのだ。待ち合わせ場所としては不向きにもほどがあると思う。後ろにいる“何でも屋”も怪訝な顔で、顎に手をやりながら考えているようだ。その姿はまるで探偵が犯人について考えているようで、俺はますます落ち着かない。なんだかとっても自分が悪いことをしているみたい。もちろん悪いことなんてしていない。一応。

「いや、あの違うんです。昨日の女の子と待ち合わせをしているんですよ。なんかここが良いみたいで」とあたふたしながら話す姿はなんて怪しいのだろうか。ちょっと泣きたくなる。女の子とこんなところで待ち合わせなんて怪し過ぎると思う。

でも「ああ、あの子か」と“何でも屋”は納得をしてくれた。刑事さんはまだ何か言いたそうだったが「二人で何か新しいことを思い出したらすぐに教えてくれよ」と二人で去っていく。


はぁ、と俺は一度深い溜息をついてそのままスーッと深呼吸。考えよう。

いつの間にか10時を過ぎている。俺が覚えているのは8時過ぎだ。朝起きて、朝食を食べて、自分の部屋に戻って、何したんだっけ?記憶がない。本当にない。そして今はもう10時過ぎていて、待ち合わせの場所に立っている。約2時間はどこに消えた?なんだこれ?やはり何かの記憶障害?落ち着こう。確認だ。

相ヶ崎雄志ゆうし。16歳。この春、高校2年生になれる。好きな食べ物はすき焼き(年に1度くらいしか食べれない)。うん、大丈夫。自分のことは思い出せる。そして自分の髪をくしゃっと掴む。相変わらずの癖毛だ。間違いない。俺自身だ。それから自分の体を色々と触ったりしながら確かめる姿はおそらくかなり怪しかったにちがいない。そんな眼で俺のことを見ないで!と訴えたくなるような人も何人か通り過ぎる。


なんとか大丈夫そうだ。九九もきちんと言える。今のところ特に変化はない。

 でも一体何が起きたんだ?でも何となく原因は分かる。たぶんカマキリ男の仕業とか影響とか、とにかくそんなところだろう。時計をみるとまだ待ち合わせには時間がある。今のうちに昨日のことを整理しておこう。じゃないと本当に頭がパンクしそうだ。いやだって昨日はひどいんだよこれがまた。



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