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思い返してみれば、私が幸せだったのはこの日までだった。
私たちの平凡な幸せは、この日を境に亀裂を帯びていったのだ。
運命の歯車というのは、こうして何気ない日常の中でそっと狂いだす。当事者たちですら気づかないうちに。
もしも、あの時、君と…。
この問いは私の中で 、いいや、むしろ、聡のほうがより多く繰り返されていくことになるのだけれど、その時点では、まだ思いもしない。
私と同じように、きっと、聡も幸福であっただろうし、私へ対する愛情に迷いはなかったと断言できるのだ。
もしも、あの日…。
その夜、聡が帰ってきたのは、深夜を過ぎてからだった。
力仕事と緊張感で疲れた体は私を深い眠りに導き、聡の帰宅を察したものの、起き上がる気力を与えてはくれなかった。
聡がシャワーを浴びベットに潜り込んできた気配を背中で感じながら、私はとうとう朝まで目覚めることはなかった。
今でも思う。
あの夜、聡はどんな顔をしていたのだろう。
彼女と出会ったあの夜…。
もしもあの時、眠いからだを起こし、聡を迎えていたら、私は聡の変化に気づけていたのだろうか。
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