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「あの、バカ!私がいないとこで、何てこといってるのよ!今度会ったら、叱らなくっちゃ」
まさか妹が聡にそんな要求をしてるとは思いもしなかった。
もしかして、私が澄子にそう言わてるんじゃないかと聡は思わなかっただろうか?
そんなこと、1度だってしたことないけれど。
むくれる私に、
「何、むきになってるの?怒ることじゃないじゃない?」
と、聡。
「だって信じらんないんだもん。あの子、昔からおせっかいなんだよね。余計なことばっかり言って」
澄子とは年がはなれているわりには、つまらないことでよく喧嘩をしたものだ。
それもこれも、澄子がでしゃばりでお喋りで、さらには余計なことばかり言うことが原因だ、と私は思っている。
「まぁまぁ」
聡は、澄子への悪口が止まらない私をたしなめた。
「でも、いいよね」
「ん?」
「子供だよ。すみちゃんに言われたからってわけじゃないけど、できるだけ早くほしいよね」
聡は、うっとりしたようにスーツを見つめながら言った。
「このスーツを手にとったときさ、人生の節目節目にこれを着ている自分の姿を想像できたんだ。だから、これにした」
「節目?」
「うん。ナオの実家へ行くのはもちろん。まだ生まれてもない我が子の入学式とか、卒業式とか、何かの発表会とか。俺は何か大事な場面ではかならずこれを着ている」
聡ったら、そんなこと考えていたなんて。
私は、そんな聡をいじらしく感じた。
「なんか、ものすごい運命を感じた一着だったんだよね」
「なるほど、ね」
私もスーツを見つめる。
不思議だ。
聡にそう言われたとたん、さっきまでありきたりで地味にしか見えなかったスーツが、とってもかっこよく見えてきた。
私は、3つ目の焼き菓子とともに、幸せを噛み締めた。
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