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アパートに帰って、真新しいスーツをハンガーにかけ、部屋に吊るした。


濃紺のスーツは、やっぱりありきたりなデザインだけど、確かに聡にはこれが一番似合っていた。


ありきたりなデザインのスーツが似合う男が、私にはぴったりの相手なのだろう。


だって、私たちは、どこにでもいるありきたりな恋人同士。


ありきたりな夫婦になって、ありきたりな幸せを手にいれるために一生懸命生きていく。


それでいいじゃないか。


「ああ、美味しい。幸せだぁ」


聡の入れてくれたコーヒーを、揃いのカップで飲む。


いい香り。


お茶うけに買った焼きがしも、ちょうどいい甘さ。


「ナオのお父さんとお母さん、ビックリするかな?俺がスーツで家に行ったらさ」


聡がスーツをチラチラ見ながらたずねる。


「多分ね」


両親には話があるから、近々聡と出向くと話してある。


「反対されたりして?」


不安そうな聡の顔。


「さぁ、どうだか」


私は、2つ目の焼き菓子に手を伸ばす。


「どうだかって、ナオ他人事みたいに…」


聡はそう言うけれど、実際反対などされるはずもないのだ。聡はもう何度も実家へ遊びに来ているし、母はもちろん、父にも気に入られている。


反対どころか、母の反応など、「やっと貰ってもらえることになったの?」だったけれど、


「なんだか緊張してきたよ」


なんて言っている聡には、あえて言わないでおこうと思うのは、私の意地悪。


「これで、すみちゃんにも嫌み言われないですむよ」


「へ?」


すみちゃんというのは、5つ下の妹、澄子のことだ。


澄子は、専門学校を卒業してすぐに、同い年の彼氏(今の旦那さんで、健太郎君と言う)とでき婚をした。


けれど、若い二人には生活能力がなく、健太郎君が一戸家に婿入りした(健太郎君は三人兄弟の三男坊だ)。今では二人は1男2女の親だ。


「澄子に何か言われたの?」


「うん、言われたっていうか、催促されたっていうか…」


聡が言葉をにごす。


「何よ、なんて言われたのか教えてよ」


私か急かすと、聡は苦笑いしながら、


「早く、うちの子たちに従兄弟を作ってちょうだいって…」


参っちゃうよね、と髪の毛をわしゃわしゃかきあげた。

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