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そこからはとんとん拍子だった。
私たちはまず友達になり、そして自然ななりゆきで恋人同士になった。
呼び方も一戸さんからなおちゃんに変わった。
聡が大学を卒業し、銀行へ就職してから一緒に暮らし始め、いつの間にかナオと呼ばれるようになって、気がついたら、私たちは結婚適齢期を少し過ぎても未だ恋人同士のままだ。
でも…。
私は吸い込まれそうな群青色の夜空を見上げた。
星が、何かを伝えようとするように瞬く。
でも、そろそろ次のステップへ進んでもいいのかもしれない。
私は、心の中でひとりごち、唇を結んだ。
聡との生活は穏やかで、心地よい。
仕事柄、家事がおざなりになることが多くても、飲み会が続いても、聡は文句を言うどころか、私を手伝い、理解を示してくれる。
イベントごとや記念日だって忘れない。
聡に対して、我を忘れるほど情熱的な気持ちをぶつけたり、身を焦がすほどの愛情を感じたことはないけれど、それでも私は聡をきちんと愛している。
だって、聡は優しい。
優しく、草食動物のような穏やかな聡を物足りなく感じたことがないわけじゃない。
もっと激しい、ドラマチックな恋をこの先するかもしれないと期待したこともある。
でも、年齢を重ねていくうちに悟った。
優しい人が一番だと。
聡以上の人を望むなんで贅沢だと。
急に聡が恋しくなり、私は歩みを早める。
聡…。
やがては小走りになる。
完全によいの覚めきらない私の足元はおぼつかない。
でも、月明かりが行く手を照らしている。
まっすぐに伸びた私の影は、本物の私よりやや先にいる。
月は、満月には少し足りない形をしていた。
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