15

「あの、あのさ…」


少しの間のあと、切り出そうとした私に、


「事故った時…」


聡が言葉を重ねた。


「事故った時、友達や親はさ、骨折だけですんだなんて不幸中の幸いだって、そんなふうに皆慰めたんだ」


「うん」


話ながら聡は、まっすぐ前をむいたままで、時々、視線を痛めた左足にうつしたり、天井を見上げたりしたけど、あまり、私のほうを見ようとはしなかった。


だから、私は聡をまじまじと見た。


聡は色白で、髪の毛が茶色がかっている。目も、焦げ茶色だから全体的に色素が薄いのかもしれない。


身長はあまり高いほうではなく、やせがたで、撫で肩。(聡は撫で肩なのを結構気にしている)


「でもさ、事故にあった当人にとったら、不幸中の不幸だよ。まさか、青信号になったのにバイクが突っ込んでくるなんて思いもしなかったし」


ただ、声はなかなか低めで、落ちついたしゃべり方をする。


顔は童顔で実年齢より若く見えるけど。


「生活だって不便だよ。トイレが一番大変って、そんな話聞きたくないか。ハハハ…」


もう何度もデートしているのに、今さらながらそんなことを思うなんて、私は余程聡を見ていなかったのだ。

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