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「こんにちは」


たっぷりと聡の姿を眺めてから、さも今来たように病室に入って行くと、聡は目を見開いて驚き、読んでいた文庫本を落としてしまった。


「一戸さん、な、なんで?いたた…」


そのうえ、本を拾おうとして、体を動かし、固定された左足に激痛が走ったらしい。


「あ、いいの。私が拾うから」


私は文庫本を拾うと聡に渡し、窓際に立った。


「あの、なんで?それより、椅子。パイプ椅子がそこに。ったた…」


余程慌てたのか、聡はまたパイプ椅子を用意しようと体勢を変え、痛みに顔を歪める。


私は、そんな聡がいじらしくて、思わず吹き出した。


「ちょっと、落ちついてよ」


「だって、まさか、今日来るなんて聞いてなかったから。わかってたら、もう少しまともな格好だってできたのに」


慌てながら、パジャマ姿の体を小さくする聡を見て、私はまた笑った。


聡は「参ったなぁ」と髪の毛をわしゃわしゃ触った。(後になって知ることだけど、それは聡が困った時にする癖だ。)


しかし、いざ聡を目の前にすると、何から話していいかわからなかった。それで、当たり障りのない会話を少しだけした。


具合はどう?

事故はどんな状況で起きたの?

学校は大丈夫なの?


けど、そんな会話はすぐに途絶えた。

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