第7話
二日後。私はエリエスファルナ王城に戻り、王や大臣に報告を行っていた。
勿論、ルルちゃんの力に関してだけは隠して、だけれどね。
「――以上より、速やかな討伐のため、近衛隊の動員を進言致します」
「うむ。エリー、我が娘よ。よくぞ生きて帰った、我はお主の献身を誇りに思う」
「勿体無いお言葉にございます、お父様」
父様、ローゼン=エリエスファルナの労いの言葉に跪いたまま頭を下げる。
私の報告に対する周囲の反応は様々。ざわめき、戸惑い、困惑。今すぐにでも軍を動かすというものもいれば、まずは調査隊をと慎重なもの、そも私の言葉そのものを疑ってかかっているものもいる。
にわかに騒然とする中、父様が軽く腕を払って貴族たちを黙らせた。
威風堂々としたその姿、我が父ながら実に威厳に溢れているわ。正しく王といえば父様と言っても過言はないくらい。
「静粛にせよ。クロイツ、汝ならばどう動く?」
父様が問いかけた相手は、玉座の左に控える青年。長兄であるクロイツ=エリエスファルナ。文武に優れ義に厚く、政にも精通している。
家族の贔屓目を抜きにしても一段と優秀な、王位継承権第一位の座に相応しい自慢の兄様だ。
「ハッ。エリーの進言通り、即座に近衛隊を討伐に出すべきかと」
クロイツ兄様の発言に対して、賛同が大勢。消極的な大臣や、私達王族を嫌うごく一部の大臣が否定といった感じかしら。
その一部が何か粗を突こうと口を開くのに先んじて、兄様は更に言葉を重ねる。
「我が妹がこの場で虚言を吐く意味は無い。またエリーも、ピティも高ランクの冒険者資格持ち。口さがない者達はコネだの権力だのと言い張るでしょうが、今はそれを議論するのは置いておきましょう。今大事なのは、二人が冒険者ギルドに所属しているという事実。その報告を疑うというのでは、ギルドとの関係に亀裂を及ぼしかねません」
兄様の言う通り。私もピティも冒険者ギルドに籍を置いている。ピティの方は元々、エリエスファルナの国民ですらない。冒険者としての先輩であり、気があったからチームを組んでいるという関係だから、余計に文句は言い難いでしょうね。
冒険者ギルドを筆頭とする大型ギルドは一国に所属している訳ではない。
国に税を収めてくれてはいるが、数カ国にまたがって支部を置いているところも珍しくはない。
国にとっては大きな税収を得られる存在であり、またギルドごとの成果を国へ還元してくれる存在でもある。今回の私のように、国に先んじてダンジョンを見つけ、それを国へ報告するといったこともその一環。
国からすれば得難い存在であり、可能な限り友好関係を築きたい相手。それがギルド。
だから国からもギルドに対しては一定の配慮を行うのが通例ね。時折、それが貴族や王族との癒着になったりといったトラブルもあるようだけれど、幸いにして父様が目を光らせている聖王国では目立った問題は起きていない。
ギルドとはそう言った相手なので、国家としても下手に関係を拗らせたくはない。だから兄様は妹としての私ではなく、冒険者ギルド所属のエリーの報告という面を強調したのでしょう。これだと表立って文句は言い難いでしょうからね。
ただ実際、コネというのはあながち間違いでもないのよね。
ギルド側としても国とは縁を持っておきたいから、王族直系の私は珍しい例としても、貴族の子息なんかを受け入れることは珍しくないと聞かされたこともあるわ。
一応、私個人は真っ当に試験を受けて資格を手に入れたつもりだけれど、その試験の合否判定に血筋が全く影響していないかと言われれば答えられないもの。
請け負った仕事に関しては真面目にこなしているつもりだから、肩書に見合うだけの力はあると自負はしているけれどね。
「それに我が聖王国の守りは万全です。国軍を動かすというのならばともかく、近衛隊ならば問題無いでしょう。たまには王のお守り以外の仕事を与えた方が身体も鈍らないというものです」
「やれやれ。余は介護される老人ではないぞ、クロイツ」
「おっと、これは失礼。では尚更、近衛の一、二部隊を動員した所で問題はありますまい」
「全くもってその通りだ。ならば汝の部隊も加えてはどうだ? 若者が楽をするのは良くないのでな」
二人の掛け合いに、多くが頬を緩ませる。
こうやって軽口を叩き合っていられる間は、内乱なんて言葉とは無縁でいられるというものね。
「ご尤もです。それでは私と王の近衛から二五ずつ、計五十を出すというのは如何でしょうか」
「よかろう。誰ぞ、クロイツの意見に否のあるものはあるか」
広間を見渡す父様。
二人共の判断だから、誰も反論するものはいないと思ったのだけれど、一人だけ口角泡を飛ばして叫びを上げた。
「私は反対でございますぞ! それでローゼン様の身に何かあれば如何なさるおつもりか!」
兄様と同じくらいの年かしら、若い貴族の一人が猛然と食って掛かっている。
けれどそれはクロイツ兄様の予想を超えるものではなかったらしく、父様も兄様も冷たい目線を向けていたわ。
「各二五を出したとしても、王の近衛隊は補充隊含め五十。私の方も同様だ。一時的に繰り上げれば何の問題もない」
「しかし万が一ということがありますぞ!」
「その万が一は、エリーの報告のもの以上に起こり得ることなのか?」
「そ、それは……」
一蹴され、貴族が言葉に詰まる。どうやら深い考えがあった訳ではなさそうね。
聖王国は父様が王として君臨して三〇余年。お祖父様の代より数えて六〇年、戦争とは無縁だ。周辺諸国をお祖父様が平定して後、内政にも外交にも力を入れていた。その結果、大陸でも随一の治安と平和を誇っている。
そんな中、近衛隊の一部を動かした程度で問題が起こるはずがないという自負は、政治より遠い私よりも兄様や父様の方がきっと強い。まぁ、だから私も近衛隊をお願いしたのだけれど。
それに何より、隠してるから私達家族や古い貴族、後は近衛隊くらいしか知らないような事実として、実は近衛隊全員より父様一人の方が強かったりする。
近衛隊だって私なんかよりもずっと高い練度の強さを持っているのに、父様の方が上なのは彼ら本人たちも認めている。
それで挫けずに訓練を続けているからこその近衛だとは父様も言っていたわ。
そんな父様の事だから、もし私の判断が間違っていた考えたとしても、近衛兵にとっても刺激のある良い訓練になるとでも考えて送り出してくれる筈。どうやらその予想は間違っていなかったようね。
「……他に異論のあるものは? 何か私の考えに問題があるなら言って欲しい。あまり時間を取るのは愚策ではあるが、より良案があるというのなら聞こう」
顔を赤くして、それでも何も浮かばないのか黙ってしまった。そんな貴族を一瞥だけした後、兄様は声を張り上げる。
大半が納得し、一部は否定しようにも代案が浮かばず沈黙している。その様子に満足して様子で、父様が宣言を上げる。
「……無いようであるな。それではクロイツの案を」
「悪いがオヤジ、決定はもう少し待っちゃくれねぇか」
それを遮ったのは、入口近くの壁に凭れ掛かっていた、クリス=エリエスファルナ。私のもう一人の兄様だった。
クリス兄様は私と同じくギルドに所属している。
と言っても冒険者ギルドではなく、魔術師ギルドだけれどね。
三女の私と違って、王位継承権第二位の兄様がギルドに所属すると宣言した時はちょっとした騒ぎになったのは、よく覚えてるわ。
それを見ていたからこそ、私も冒険者になろうと思ったのだし。
「クリス、私の案になにかあったか?」
クロイツ兄様の顔は真剣だ。クリス兄様は私より非力なのだけれど、兄弟姉妹では一番頭がいい。不備があったのかを疑ってもおかしくないわ。
私だってクリス兄様に何か言われたら間違いなく不安になるもの。
「いや、兄様の案は最善だろ。俺が聞きたいのは兄様じゃなくてエリーにさ」
「私!? ……ですか?」
矛先がこちらに来ると思ってなかったから、思わず素のまま叫んじゃったわ。
こういう場所で普段通りにしてると、後々厄介なのよね。堅苦しいったらないんだけど、流石にまだクリス兄様のようには弾けられないし。
でも、私に何かあったのかしら。報告はちゃんと、ルルちゃんの力以外は全て話した筈だし、特に妙なことは言っていない筈。
ま、まさかクリス兄様まで私を疑っているなんてことはないわよね?
「ああ、――そんな顔すんなよ、別にエリーが嘘ついてるなんざこれっぽっちも思ってねぇさ」
「良かった……。え、ええっと、クリス様、それでは私に聞きたいこととは……?」
過ぎった心配は見当違いだったようで、ほっと胸を撫で下ろす。
それでまたちょっと猫が剥がれちゃったんだけれど、まだ許容範囲よね。
「あー、……まぁそれはいいか。聞きたいことは簡単だよ、ヨハネって奴は何者なのか、その一点だ」
「え? いえ、ヨハネなる者についてはご報告致しました通り、アジールからの亡命者であり、商人だと」
「それを示すものは?」
問われ、考え、けれど答えられない。
そう言えば、ヨハネから聞いたことは多くとも、ヨハネ自身について聞いた内容は殆ど無い。
「そ、そうです、私もそれが気になって!」
「黙ってろよ、俺はテメェみたいな足の綱引きする気はねぇんだ」
味方ができたと思ってか、再び叫んだ貴族の言葉は考慮すらされず一蹴された。
発言した貴族を見るクリス兄様の目は、ゴミクズでも見るようなものだったわ。可哀想に、二の句も告げず呆然としているじゃない。
なんて、余計なことに気を割いている場合じゃなかったわね。今問いかけられているのは私なのだから、少しでもヨハネについて聞いたことを思い出さないと……。
「そうです、本人は確かにアジールから来たと」
そうだわ、ルルちゃんを最初に紹介された時、確かにヨハネは帝国から来たと言っていた。商人なのは行動からして間違いないでしょう。
「言葉だけなら……いや、悪い。これだと魔族の証明だな、そんなことを言ったら何もかもが嘘になる。そうじゃなくてだな」
「クリス、君の聞きたいことは、要はそのヨハネなる商人が信頼できるかということじゃないのか?」
「それだ、兄様」
言い淀んでいるクリス兄様を見かねて、クロイツ兄様が助け舟を出す。
逆の風景はよく見るけれど、言葉でクリス兄様がフォローされるのは珍しいわね。
「エリーの目から見て、ソイツは信頼に値するのか?」
その問には、私もすぐには答えられない。
頬に指を当て、少しばかり考えこんでしまう。
「それにお答えするのは難しいです」
周囲にざわめきが起こる。最初に報告を終えた時よりも大きなものだ。
私の口から、信頼できると断言されなかったのだから、皆が不安になるのも分かる。
けれど、私の正直な感想を伝えるにはそれしかない。私達を助けてくれたのだし、人としてなら間違いなく信じられる。けれど、だからといって信頼できるというわけではない。あの時のピティの考えとは逆になっちゃったわね。
恩もあって今では好ましく思っているけれど、果たしてどう説明するべきかしら。
そんな事を考えていると、ふと天啓が閃いた。
そうだわ、何も難しく考える必要なんかない。今まで彼を示すのにわかり易い言葉は何度も使っていたじゃない。
「強いて言うなれば、少しだけ人の良いぶ、ピリグリオ様のような方ですわ」
危ない、いつもみたいに口に出すところだったわ。
幾らなんでも公式の場で、聖王国でも一、二を争う大商人を豚と呼んでいいはずはない。
父様も兄様も、大体の貴族も内心ではそう思っているだろうけど、こんなところで口に出したら果たしてどうなることか。皆が考えてるのに口には出せない、宮廷ってこういうところが面倒くさいのよね。
「なるほど、よく分かった。信用は出来ないが、疑う必要は無さそうだ」
「そうだな。エリーがそう感じたんなら、大きく外れちゃいねぇだろうし」
兄様達も貴族たちも納得して頷いている。
父様だけは苦笑を浮かべていたけれど、どうやら伝わったみたいね。
「それに、ソイツが本当にジャモジョヨクリスを持ってたのなら、恐らくはアジール、それかその近辺に居たことは間違いねぇだろうし。そう嘘はついてないってことだろうな。直接あってみなきゃ分かんねぇか、兄様、俺も部隊に入っていいか?」
「ダメに決まってるだろう。私だって我慢しているんだ、君も我慢しろ」
「兄様は聖王国を継ぐ身、俺は自由の身。俺は混じるぞ兄様ァ!」
「長兄命令だ、諦めろ。君一人に楽しい思いをさせてたまるか」
割りと本気で言い合う兄様達。この二人も父様の血を引いているだけあるわね。相変わらず割かしに好戦的だわ。
けれどクロイツ兄様は、自分の感情だけで言っている訳じゃないのは間違いないわ。口にしたような気持ちが無いとは言わないけれど、寧ろ本音でしょうけど。
クリス兄様は魔術師ギルドに所属している通り、私のようにある程度の自由を与えられている。それでも私とは違って、未だに王位継承権は第二位のまま。
もしクロイツ兄様に何かがあれば、それを継ぐのはクリス兄様だ。
クリス兄様も何だかんだで兵たちには認められているし、民からは下手をすればクロイツ兄様よりも親しまれていて人気がある。
だからこそ、奔放の気質があっても二位のまま留め置かれている。
私ならば最悪、消えたとしても国家としてはそれ程大きなダメージではないわ。
でも、クリス兄様に何かあれば、それはエリエスファルナの大きな損害になってしまう。クロイツ兄様が許可しないのは当然のことでしょう。
クリス兄様もそれは分かっているとは思うから、結局はいつものじゃれあいみたいなものなのかしらね。
それにしても、クリス兄様はどうしてもやしっ子なのかしら。
何だかんだで遠征したりとかはしていたのに、不思議と身体が鍛えられてないのよね。
もしかしたら移動中とかに魔法で楽してるからかもしれないわ。また今度、しっかりと注意しておきましょう。魔法が強力なのは分かるけれど、最後に頼れるのは結局我が身なのだから、ちゃんとトレーニングもするようにお願いするのがいい妹というものでしょう。
「そんなことはどうでも宜しいのです。クリス兄様、何かご存知なのですか?」
「妹が冷てぇ……。ジャモジョヨってのは、かつてアジールの南部地域に存在したという国の王の名だ。文献にも載ってるぜ」
冷たいのは私だけでなく、周囲の目もなのだけれどね。
貴族たちも呆れるか苦笑いしているかのどちらかだもの。
知識は凄いし、魔法の実力だって、ルルちゃんを見るまでは私の知る限り一番だった。人間としても尊敬できるけど、クリス兄様には威厳的なものが足りないのは何故かしら。
本人も分かってて治すつもりはないみたいだし。一度聞いたら、もし治したらそうしたら兄様や親父に宰相あたりにねじ込まれるからって笑ってたけれど。
本当は単に立場に付きたくないために、わざと威厳を見せ無いよう演技してるだけ、というのは穿ち過ぎなのかしらね。……うん、きっと穿ち過ぎね。クリス兄様のアレは素だわ、妹としての経験と勘がそう言っている。
「聞いたことがないな」
「あー、仕方がないんじゃねぇか? 霊王歴より遥か昔、二千年よりも古い、星辰歴の時代の話だ。実在すら疑わしいってレベルなんだからよ」
霊王歴、伝説の四人の王が覇権を巡ったという時代。
星辰歴といえばそれこそ神話の歴史、魔族と人の争いが描かれた時代。子供の頃、何度も勇者譚を読んだから有名なものは覚えているけれど、流石に覚えていない部分の方が多いわね。主流だけでも何種類、傍流まで加えれば何百とバリエーションがあるから、全部までは読み切れていないし。
「"王を傷つけるものはいなかった"という伝承とも一致する。ガチなら王級の遺産だ、是非とも一度見てみてぇし、持ち主のヨハネにもルートを聞きてぇ。だから、な、エリーからも兄様に言ってやってくれ」
「お断りします」
クリス兄様の魔法は確かに心強いけれど、クロイツ兄様がダメというのなら私にはどうすることもできないわ。
気心知れた兄弟だからああやって言い合っていたけれど、クリス兄様だって未だ継承権は生きている。何が起こるかわからない場所に送り出すことは出来ないという考えなのに、それを私の勝手で変えるなんてとてもできないわ。
私? 私はいいのよ、女だし、継承権なんて無いに等しいし。当事者だし、ピティも待たせているし、ヨハネたちと面識があるから。
「クッソ、俺も冒険者ギルドにしときゃ良かったか」
「好きにできるだけいいだろう。私も、もう少し遅く生まれられれば良かったと何度思ったことか」
「ははは、兄様ザマァ」
「父上、今すぐにクリスへ宰相補佐の任命を行いましょう」
二人共、本当に仲がいいわね。
けれどあまり茶番をしている場合じゃない。いつまでもピティを待たせている訳にはいかないのだから。
「お父様、討伐隊の一員に私をお加え頂けますよう」
「うむ、許可する。ロバートよ、我が娘を頼むぞ」
ロバート、父様の近衛隊隊長。私よりずっと強いのは勿論、聖王国内でも十指に入る実力者。魔法にも造詣がある彼が指揮してくれるなら心強いわ。
「ハッ。お任せください、ローゼン閣下」
「宜しくお願いいたしますね、ロバート様」
ロバートは私の性格を知っている。いえ、近衛隊なら大体は知っているから、出立さえしてしまえば猫を被る必要もなくなるわね。疲れるからあまりやりたくないのよこれ。
「姫様は我が身に変えてもお守り致します」
む、父様に気を遣っての社交辞令でしょうけど、それ頂けないわ。
「不要です。我が身などより民の安寧を、確実な戦果をご優先ください」
「エリーの言う通り。我が娘は置物ではない、己が責は己で果たそう。汝に求めるものは世話などでないと心得よ」
「ハッ、失礼致しました!」
父様も言い添えてくれたし、これで問題無いでしょう。
あのスライムは正直、桁違い。父様でも勝てるかどうか、いえ、種族を考えるに父様の方が不利なくらいかもしれない。そんな中で、ロバートのような強者を遊ばせていく余裕などはまずないのだからね。私に気を使うより、しっかり戦って貰う方が重要よ。
「大丈夫だよ、親父。エリーはちゃんと俺が見ててやるから」
「ご安心ください、王よ。クリスが職務を変わってくれるらしいので、私も部隊へ同道致しますゆえ」
兄様達が同時に言葉を発し、同じタイミングで互いを睨み合っていた。本当に仲がいいんだから、二人共。
でも流石にやり過ぎじゃないかしら。もしかしたらお父様の額に血管が浮かび上がってるのに気づいてないのかもしれないわね。
「親父!」
「王!」
「いい加減にせんかバカ息子共が!」
ほら怒られた。クロイツ兄様もクリス兄様も、一人だけの時はちゃんとしてるのに、どうして二人揃うとこうなるのかしら。
父様の拳を頭に振り下ろされた二人はそれぞれ悶絶している。見慣れた光景ね。
「少しはエリーを見習ってしゃんとせんか! 公の場では自らを取り繕えといつも言っておろう! 貴様らは二人共留守番だ!」
『そんな!』
二人の声が重なる。本当にどうしてこうなるのかしらね、最初の凛としたクロイツ兄様が嘘のようだわ。相性が良すぎるのかしら。
けれど、父様からの許可は頂いたし。もうここに残る意味は無いわね。
「ロバート。部隊の選任は任せます。半日……いえ、四時間後に準備を終えて街門へ集まることは可能ですか?」
「難しいですね」
ロバートらしからぬ返答に耳を疑ったけれど、続く言葉で納得した。
「三時間より長く時間をかける為には、景気付けの酒場にでも寄らせて頂かなければならないところです」
茶目っ気たっぷりにウインクされて、思わず息を吐いた。
そう言えば、厳しい凛とした顔立ちに見合わない性格をしていたんだったわね。思い出していると、少し肩の力が少し抜けてくれたわ。
強さもそうだけど、こういう真似も出来るからこその隊長ってことかしら。
「戻ってから皆に奢るから、少しの間だけ我慢させておいて」
「畏まりました。期待しております」
部隊の準備はロバートに任せ、私も自分の準備をする為に、周囲に一礼ずつして広間を出る。
先は偵察用で遅れを取ったけれど、相手が分かっているのならあれ程の無様を見せはしない。
待っていてね、ピティ、ルルちゃん、ついでにヨハネ。すぐに駆けつけるから。
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