第2話
――かつて世界は、双子女神の加護の元にあった。創世の主神の子、役目を終えて世界を越えた主神の創りたもうたこの世界は、彼女たちの愛に満ちておった。
む、ヨハネよ、それがどうしたと思っておるな。
じゃが一通り、我ら魔族というのがどうなったのかを聞いて欲しいのじゃ。それがわらわが一人であった理由にも繋がるのじゃから。
……うむ、納得してくれたようじゃの。ありがたい。それでは話を戻すとしよう。
――しかしある時、双子女神に争いが起こった。理由などは知らぬが、光女神が愛し子である人間、ライトエルフ、ドワーフに加護を与え、闇女神様の愛子である我ら魔族と戦争を起こした。
わらわが生まれる前の話で、父母より聞いたのみなのじゃが、当時の騒乱は凄惨を極めたらしい。父様などは、未だあの風景を思い出すと震えが来るよ、と青い顔をされていたから、よく覚えておる。
――覇者と呼ばれた人間、賢者と呼ばれたエルフ、英雄と呼ばれたドワーフ。そして勇者と呼ばれた、光女神がどこぞより呼び出した青年。この者達は尽く魔族を鏖殺し、蹂躙したという。愛子の大半を失った闇女神様は力を衰えさせ、封印されたという。
――神であり母である闇女神様を失った我ら魔族に、繁栄の道は残されておらぬかった。ただでさえ数を減らされた上に、各々が僻地に隠れ住むようになって、魔族は緩やかに衰退していった。
――魔族はの、劣勢種なのじゃ。同族でしか血を残せぬ。かつて平穏の時、双子女神が仲睦まじく暮らしていた時代は人との恋愛もあったとのことじゃが、その子は全て人間となった。エルフとでもドワーフとでも同じじゃ。ハーフにさえならず、ただその血を薄れさせていくらしい。
――闇女神様のおられる時はそれでも良かったらしいのじゃ。闇女神様の愛に抱かれ、時に血が目覚めることがあるらしく、先祖帰りのように魔族として生まれてくる者もいたらしいからの。しかし闇女神様が封じられた今、薄れた血が目覚めることは一度としてなかったのだと、そうわらわは聞いておる。
――また、魔族は元より繁殖能力が薄い。その代わり、闇女神様のお力にて新たに生まれることも出来ていた。いずこかの遠き世、最極と呼ばれる虚空の地より魔族の核となる魂を呼び出すことにより、この地を輝かす新たな生命とすることが出来ていた。
――つまり我ら魔族は、闇女神様あってこそなのじゃ。人たちは光女神の加護が無くとも種を反映させることができるが、わらわ達はそうもいかぬ。闇女神様という母がおらねば何も出来ぬ力なき者共、それが魔族なのじゃよ。
――物心ついてより今まで、わらわは父母以外の魔族というのを見たこともなかった。新たに生まれることもなく、子をなす可能性も低い。見つかれば追われ、殺される。父母が地に召されてよりは人から隠れつつ旅をしておったが、遂に出会うことはなかった。
――わらわにしたいことなどないのじゃよ。ただ仲魔が、家族がほしい。かつて父母と暮らしていた時のような暖かな時間が欲しい。お伽話に聞いた友達というものがほしい、恋愛というものもしてみたい。父母のように子をなし、慈しみたい。
ヨハネ、汝の望んでいるであろう大層な願いなどわらわにはないのじゃ。ただ暖かさが欲しい、それだけの理由で汝を二度と戻れぬ地へと呼び出したのじゃ。
改めて謝罪させてほしい、ヨハネ。ただの小娘の夢に引っ張りだしてしまったことを。
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