モンスタークリエイト[一から始める魔族再興]

トキヤ

第1話

 苔生した洞窟の最奥。それがわらわ、魔王ルルの安息の地じゃ。

 此処で今、わらわは唯一無二の部下であり、現在ではただ一人の家族とも言えるルリエッタに見守られ、召喚の儀式を行っておる。


「エベル、レク、サリアス、フルグルス。我が呼び声に応えて来たれ」


 此処に至るまでは大変じゃった。

 まずは儀式のやり方を知るだけで五百年の時を必要としたからの。


「デルベ、シュタリル、ダボロ、シュタン! 汝、暗い揺り籠より来たるもの、過信者の首魁、明星に背を向けた支配者の導きより来たれ」


 末永い探求の末、わらわはようやく秘術を会得した。

 したのじゃが、それだけでは全くもって意味が無いと知ったのはその直後じゃったか。


「ヤ、ナ、イア、ルルナク、イア、ルルナク! 汝、夜より来たるべくもの、貪欲なるもの、黄金に溺れしものの名により来たれ」


 例え手法を知ろうが、それを為すためのモノがなければ無用の長物に成り下がる。そんな当たり前のことに気づくのに、さて、十年はかかったかの。


「ウルザ、ティビ、アイ、アイ、マグヌム! 汝、主を冒涜せしもの、恐怖と悪逆の朋友、暴虐にたゆたう恐怖の調べにより来たれ」


 そこから更に三百年。再び苦難の時が続いたのじゃったな。

 わらわは魔族であるがゆえに人の目に触れる訳にはいかぬ。隠れ生きるだけであったならば何ら問題はなかったのじゃが、わらわの目的を果たす為には、そうも言っていられぬと知った時の葛藤。それは今でも鮮明に思い出せる。

 霊石。他の素材はどうとでもなったのじゃが、儀式を行うための要となる、この霊石を集める必要があるのが問題じゃった。


「三度の我が呼び声に応えて来たれ! 汝、光を拒むもの、闇に浸るもの!」


 霊石は既にほぼ枯渇した資源じゃ。それを見つけるというのがまず難しい。

 更に発掘されたソレは人々が高値で取引する。万能に富む霊石は人もエルフもドワーフも求めて止まぬものじゃ、少しでも出る可能性のある場所であるなら、どのような魔境であっても既にその長い手が伸びておった。

 故にわらわは可能な限り危険な場所を探し、祈るような気持ちで潜り続けた。

 人の目に触れていない遺跡があれば潜り、人の手の及ばない魔境があれば挑んだ。

 人ならぬ魔族でしか無いわらわには、どれも荷が重い難易度のものばかりではあったが、こうして今も生き続けることが出来ておるのは幸いの一語に尽きるというもの。

 しかし、その大半は外れじゃった。珍しい物や便利なものはいくつも手に入れたが、やはり肝心の霊石はとんと見つからぬ。

 三百年の時間かけて見つけた霊石は、わずか二個。どちらともに純度が高いものであったのは幸運じゃったが、隠れながら探すというのはやはり難しいということに、わらわはここに来てようやく気付いたのじゃった。


「七欲を汝に捧ぐ! 七天を汝に捧ぐ!」


 うち1個を使って呼び出したのが、この可愛らしいルリエッタじゃな。

 実験の意味合いもあったのじゃが、問題なく眷属として生み出すことができた。

 あの時の喜びは今も忘れぬ。生涯色褪せることのない一瞬であると断言できよう。


「此処に血の盟約を結ぶ! 此処に魂の契約を結ぶ!」


 じゃが残念ながら、ルリエッタだけでは足りぬ。

 彼女に対しての不満など一欠片もないが、わらわの求める役割とは見合わぬからの。

 ルリエッタがいることで探索は捗るようになったが、それだけでは足りぬ、ダメなのじゃ。もっと、根本的な解決をせねばならぬ。


 その為には、そう。魔族を呼ぶのではなく、人を呼ぶのじゃ。

 この世界のモノではない、五千年前に光女神が為したという異世界よりの人間の招来。今わらわがなそうとしているのはそれじゃ。


 偶然に見つけた、光女神の書に載っていた招来の儀式。

 これに必要な力や手順が、わらわの目的である魔族召喚とそう変わらぬと知った時は、闇女神様の天佑を感じたものじゃ。

 わらわのような魔族では人との取引を行うことはできぬじゃろう。しかし、異世界のものとはいえ、根を同じくする人であれば問題ないはずじゃ。

 それに人ではあっても、異世界のものであれば、わらわ達のような魔族への忌避感も少ない筈じゃしの。

 書に記されたところによると、その世界には魔族の存在がないとされておる。礼を尽くせばきっと協力が得られるはずじゃ。


「誓いは成った! 我が声に応え彼方より来たれ、終末を告げる者共よ!」


 黒い光が洞窟内に広がり、目を開けていられぬほどの奔流となる。

 うむ。ルリエッタの時と同じじゃな、儀式は成功したと見てよかろう。


 果たしてどのような人物が呼ばれてくるのか。

 ルリエッタを呼び出した時と同じ、わらわの胸に一抹の緊張と期待が生まれて、徐々に大きく膨らんでゆく。


 息を呑む中、徐々に光は収まっていった。中心部には、年若い男が立っておった。

 何やら見慣れぬ服を着ておるが、あれが異世界の服なのかの。黒を基調としていて、うむ、何とも男前な衣装ではないか。

 彼は興味深そうに周囲を見渡しておるが、その姿から焦りや動揺といった気配は感じられぬ。豪胆なのか、楽天家なのか……聞いてみればわかることじゃな。


 どうやら向こうもわらわに気付いたようじゃ。

 ここは一つ、友好的なファーストコンタクトを決めねばならぬな! わらわの溢れ出るコミュニケーション能力に慄くがよいぞ!


「ひゃじめ……こほん、はじめましてじゃの」


 か、噛んでおらぬし! 

 こ、これはそう、わざとドジをしたように見せかけて警戒心を薄れさせるという高等テクニックなのじゃし!

 母さまも言っておった、よい女というのははあえて隙を見せてやることができるものなのじゃと。今のわらわがまさにソレと言えような!

 ……正直に言おう。ルリエッタを呼ぶ以前は数百年の孤独じゃった。ぶっちゃけ独り言以外の会話をしておらぬかったから、焦るとすぐに噛んでしまうのじゃ。


「はじめましてです、美しいお嬢さん」


 丁寧に腰を折る姿、穏やかな微笑み。

 幸いにも不信感などは抱かれなかったようじゃ。わらわに対する忌避感や警戒心のようなものも感じられぬ。予定通り、異世界の人間を招けたようじゃな。

 これで一つ心配事が減った。一先ずは上々の滑り出しじゃろう。


「不躾で恐縮ですが、そのお姿はコスプレか何かですか?」


 彼はわらわの翼と巻角を見て問い掛けてきた。魔族を知らぬのなら当然の疑問じゃろうの。

 コスプレというのが何かはわらわには分からんが、態度からして本物か偽物かを問うておることは解った。

 どう答えるべきか。僅かばかり逡巡したが、わらわにとっては迷うまでもないことじゃった。


「本物じゃよ。名乗りが遅れたの」


 わらわは魔族であることに誇りを持っておる。それを偽るなどはありえぬ。

 それ以前に、彼はわらわがこの地に招いたもの、ルリエッタと同じく家族となるべきものじゃ。例え結果として彼がどのような選択をしたとして、それを拒むようなことがあってはならぬ。騙すような嘘をつくなど、以ての外じゃ。


「わらわはルル、ルル=イェスト=パンデモニウム。魔王が血族、パンデモニウムの名を継いだ魔族じゃよ」


 この選択はきっと愚かなことなのじゃろうな。

 例え魔族という存在を知らずとも、己と違うものを持つ相手を恐れるのはやむを得ないことじゃ。仮に恐れずとも、同じ存在の方に強い親近感を覚えるのは当然じゃろう。


 だから本当であればわらわは、『これは作り物じゃよ』とでも言っておいたほうが賢い選択であった筈じゃ。その方が協力を取り付けやすかったことじゃろう。

 しかし、わらわに嘘はつけぬ。

 己の血を誤魔化すことと、わらわが呼んだ彼を騙すような真似だけは誇りにかけてできぬ。

 

「本物、魔王……。本来なら子供のイタズラと笑うべきなのでしょうが、はてさて、どうにも疑えない。そもそれを疑うなら、今の私の常識こそを疑うべきですか」


 大げさな、演技がかった動作であるが、不思議とそれが似合っておるな。

 ただなんというか、初対面、しかもわらわが呼んだ相手にこう言うのはよくないのかもしれぬが、どうにも全てが嘘くさい。


 いや、人間という相手だから色眼鏡をかけてそう見えてしまっているのかもしれんの。

 あちらから警戒や敵意は感じられぬのだから、わらわも曇り無き目で判断せねば失礼というものじゃな。


「おっと、失礼致しました。魔王陛下より名乗りを頂いておきながら、私が名乗らぬというのは道理が通りませんね」


 曲げた片腕を胸の前においた一礼は見事なもので、しっかりとした教養や品格を持っているという様子が垣間見える。

 それでも慇懃無礼といった印象を拭えぬのは、どうにも演技過剰だからかの?


「朝月夜羽音。聖者を名乗るには矮小なる身ではございますが、以後お見知り置きいだければ幸いです」


「アサツキヨハネか、良い名じゃな」


 予想以上に友好的な者を呼べたようじゃ。闇女神様の導きに感謝せねばなるまい。

 ただそれよりも先に、一つだけ。忘れてはならないことがある。それをせずに話をするめることはできん。


 冷たい洞窟の地面に両足を畳み、両膝を揃えて座る。

 ヨハネからの視線が訝しげなものとなったが、構うまい。そこから身体を前に倒し、頭を地面にこすり付ける。

 両親より教わった、最上級の謝罪を示すという東方の作法に従い、彼に許しを請わねばならぬ。


「詫びさせてほしい。わらわの身勝手な願いのために、ヨハネ、汝の可能性の一つを奪ったことを」


 わらわの願い。同族たる魔族を再び世に満たすということ。

 いや、そのような大層なお題目を掲げる必要はもうあるまい。わらわはただ仲魔がほしい、それだけの我儘なのじゃから。

 その為に、ヨハネを異なる世界から攫ってきた。この罪は決して小さいものではない。

 彼がどのような人生を送ってきたのか、初対面のわらわに知る由もない。

 彼の回りにどのような人がいたのか、知りようがない。

 何も知ることのないまま、わらわの願いのために身勝手にも呼び出した。

 返すことのできぬ、一方通行の道じゃ。彼が元いた世界で為すはずだったこと、出会うべきだった縁、それら全てから切り離したのは、他でもないわらわの業。


 それを背負う覚悟は、勿論ある。じゃが、そんなものは呼ばれた側には何の関係もあるまい。罵倒されて然るべき、例え殺されたとしても文句はいえまい。

 死ねば願いを果たせぬ故にそう願われても叶えられぬが、もしヨハネが望むのならばこの身を傷つけることも厭わぬ。


「その上で、恥を忍んで頼みたい。ヨハネ、わらわに力を貸してくれ」


 視線を地面に固定して、ヨハネからの言葉を待つ。

 我ながら恥知らずにも程がある。一方的に攫っておいて協力してほしいなど、どの口が言うのかと罵られても仕方あるまい。


 それでもわらわは願うのだ。もう数百年の孤独は嫌だから。

 本当ならばルリエッタを生み出したことで手を引くべきだったのじゃろう。彼女が来たことで、わらわは孤独ではなくなったのだから。


 じゃが、わらわは自分で思っていた以上に卑しかったらしい。

 一人の娘が生まれたら、もっと多くの仲魔が欲しくなった。我ながら欲深いとは思うが、知ってしまえばなお欲しくなる。

 そう思ってしまってはもう止めることができなかった。


 今になってこうして頭を下げて、ようやく自分のしでかしたことの重さが分かる。耐え切れない恐怖の重みに押し潰されそうになりながらも、わらわは執行者たるヨハネの言葉を待つことしかできぬ。

 わらわからこれ以上の言葉、言い訳にしかならぬものを発するなどという恥の上塗り、無様を重ねることだけは避けたいから。


「一先ず頭をあげてくれませんかね。後頭部と話しても退屈ですから」


 淡々としたヨハネの声音に薄ら寒いものを覚えたが、今のわらわは裁かれる側じゃ。彼が上げろというのであれば、上げる以外の選択はない。

 恐る恐る、彼の顔を見上げる。修羅羅刹の相を浮かべているのか、それとも軽蔑の笑みじゃろうか。

 震えを覚える想像に怯えつつ仰ぎ見たヨハネは、涼しげに笑っていた。


「一応言っておきますが、謝罪は不要ですよ。心残りが無いとまではいいませんが、渡りに船ではありました。こうして見知らぬ土地へ来た事に関しましては、むしろ魔王陛下に感謝申し上げたい程ですよ」


 言葉からは気遣いを感じられる。

 先程にヨハネを嘘くさいなどと思ったわらわが情けない。彼の発した言葉通り、心乗りなど思うことは多々あるだろうに、自らよりわらわを案じる心優しき彼を怪しんだことを恥じねばならぬ。


「それと、力を貸して欲しいとのことですが、世界を牛耳る手助けでもすれば宜しいのですか?」


「えっ」


「えっ?」


 なんと恐ろしいことを考えるのじゃヨハネは……!

 世界を牛耳るなどという大それた考えが真っ先に浮かんでくるなど、一体ヨハネのいた世界で魔族というのはどういうイメージを持たれておるのじゃ!?


「違うのですか?」


「むしろ何故ヨハネがそう思ったのかが不思議じゃ……」


 首を傾げる様子から見て、冗談などではなく本気でそう思っていたようじゃな。

 そう言えば父様も、男は大きな野望を抱くものじゃと仰っておった。文献では、人間の男も一国一城の主となるのが一般的な夢なのだと見た覚えもある。ヨハネの言も、そういうことなのじゃろうか?


 何にせよ、誤解は解いておかねばならぬ。

 まだ謝り足りぬとは思うが、この態勢のままではヨハネもやり辛いようじゃし、一旦場所を変えるかの。


「わらわの望みなど含めて、纏めて説明しよう。ルリエッタよ」


 視線を向けるとわらわの意を察したルリエッタが頷き、円卓と椅子を用意してくれる。

 大分前に潜ったダンジョンで拾ったものじゃが、ウォールナット原木で出来たアンティーク調のテーブルセットはわらわのお気に入りの一つじゃ。


 今まではわらわが生活魔法の一つ、マジックボックスにて収納していたが、溜まったアイテムが多すぎて色々と手間取っておった。

 今ではそれをルリエッタが代わりに収納してくれるおかげで助かっておる。

 

「さぁ、楽にして座るが良い……どうしたのじゃヨハネ、目を丸くして」


 驚いた様子じゃが、何かあったのかの?

 そう言えば、ヨハネのいた世界もわらわは異世界としか知らぬからな。許されるなら彼の話も聞きたいところじゃ。


「いえ、どこから出したのだとかどこに収納していたのだとか、質量的におかしいとか気になることが多すぎまして……いや、お気になさらず」


 軽く首を振ると、気を取り直したらしくまたすぐに笑みの形に戻しておった。

 どうやらヨハネは笑顔がデフォルトのようじゃ。良いことじゃの、わらわも見習いたいところじゃ。

 一人の時間が長すぎた弊害か、どうにも仏頂面が抜けんのじゃよなぁ。


「一度リセットしたつもりでしたが、まだ足りなかったようです。そういったことも合わせて、話を聞かせて頂けるのであればこちらからお願いしたい所ですよ」


 座るだけの動作も様になっておるな。暮らしやすいよう手は加えてあるとはいえ、岩肌の地面なのに音もなく椅子を引いて座る、その姿勢も惚れ惚れするものじゃ。

 もしかすると良家の出なのかもやしれん、先程までの態度や動き、言葉からするに、高い水準の教育を受けているであろうことは間違いなかろう。


「わらわに答えられることであれば、何でも聞くが良い。嘘偽りなく答えよう」


 わらわもヨハネの対面に腰掛ける。ルリエッタは、うむ。後ろに控えておるな。

 奥ゆかしいのは良いが、従者ではなく家族なのだから座っても文句は云わぬのじゃが。何ならわらわの膝の上でも一向に構わぬと言うに。

 ルリエッタがそれを望まぬから、わらわとしても無理強いするつもりはない。少しばかり寂しさを感じるがの。


「さて、今は何を聞くかも悩ましいですからね。最初は魔王陛下のお願いとやらをお伺いさせて頂きましょうか」


「ルルで構わぬよ、ヨハネ。父母の号を継いではおるが、わらわ自身も他の魔族を見たことはないからの。一人ぼっち……いや、今はルリエッタがいるから二人ぼっちの魔王じゃ」


 自嘲するわらわを心配してか、ルリエッタがそっと寄り添って足元にすがりついてきた。

 可愛いやつじゃ、最初の家族がルリエッタでよかった。

 ヨハネは、こちらを慮ってか、どう答えるか葛藤しているようにも見えるの。

 既にわらわの中では決着の付いていること故、あまり気にする必要はないのじゃが。わらわがそう言ったところで聞きはしまい。


「わらわの願いは、ルリエッタのような家族を増やすこと。その為にヨハネ、お主の力を借りたいのじゃ」


「頷くには、少しばかり情報が少なすぎますね」


 言って、ヨハネが指を三本立てた。


「まず、何故、魔王様……ルル嬢は一人だったのか」


 薬指を折って、次にと繋ぎ。


「貴女に出来ないことで、私のような変哲のない人間に出来ることとは何か」


 中指を畳み、最後にと結び。


「その魔族とやらを増やして、何をするつもりなのか。細かい疑問は幾らでも浮かびますが、この三つを知らないことに答えは出せませんよ」


 肩を竦めて両手を上げる。

 わらわとしても説明することに何ら躊躇いはない。


「長くなるが、良いかの?」


「労働契約は最初に突き詰めるべきものですからね。承知の上ですよ」


 ヨハネがそう言うのであれば断る理由はないの。

 ただ、ひたすら話し続けるのも疲れるし、聞くヨハネも楽ではあるまい。軽食の準備くらいはしておいた方がよかろうな。


「ルリエッタよ」


 わらわの頼みを、手際よく実行することで応えてくれる。

 円卓の上にはわらわとヨハネ用のティーセット、それとグルム草のサラダ。紅茶はディンギル、わらわのお気に入りじゃ。ルリエッタはよく分かっておる。


 本来であればもう少しきちんとしたものを振る舞いたいところではあるが、生憎とわらわもルリエッタも調理技術は、その、なんじゃ、優れておらぬからの。

 サラダのような簡単なものしかないのは仕方ないのじゃ。

 代わりにルリエッタは調合が得意じゃから、紅茶は自信を持ってオススメできるぞ。

 ――うむ、香りも高く、舌にしっかりとした甘みも感じる、良い出来じゃ。


「二度目だと慣れるものですね。ありがたく頂きましょう」


 ヨハネがルリエッタに目礼し、一口飲んで味を確かめてから、ほうと息を吐いた。

 彼にも満足出来るだけの品質だったようじゃな。まぁそれも当然じゃろう。なにせルリエッタが作ったものなのじゃからな。

 しかし、飲む前に少しは警戒するかと思ったのじゃが、あっさりと口をつけたの。わらわが先に飲んだというのもあるかもしれんが、それだけ信頼してもらっているということじゃろうか。

 ……裏切らぬようにせねばならんな。ヨハネの優しさに甘えず、応えねばならぬ。何か彼に報いれるものがないかも知っておかねばの。

 その為にも、まずはわらわ達の話から始めるとしようか。


「では話をするとしよう。飲みながらで構わぬ、わらわが一人であった理由からじゃな」


 ヨハネはこちらの世界の事情を一切知らぬ。ならばわらわが一人の理由というより、他に魔族がいないという理由として考えるべきじゃろう。

 それを話すにはまず魔族の歴史から話さねばならぬからの。

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