第12話

 ティアナに案内されたわらわとヨハネは今、玉座の前に跪いておる。ルリエッタは当初の予定通り、ヨハネの腰に隠した小瓶の中じゃ。

 

「両者とも、頭を上げよ。我が娘と兵を救ってくれたこと、よく聞き及んでおる。そのような者に頭を下げられては、我の面目が立たぬではないか」


「お心遣い、感謝致します」


「か、感謝致します」


 ヨハネに続いて頭を上げ、同じ言葉を重ねる。

 き、緊張するのじゃ。人に囲まれているのもそうじゃが、失礼ない態度を取れているのか不安で仕方がない。

 わらわ一人であれば恥をかくのは構わぬが、横にいるヨハネを巻き込んでしまう。それでも許してくれるとは思うが、ただでさえ頼ってばかりじゃというのに、こんなところでまで迷惑をかけて良いはずがない。


「うむ。エリーから話は聞いておる。我が聖王国では気を楽にして暮らすがよい。望み通り、お主らの屋敷は用意しておる。後で案内させよう」


「過分な望みをお聞き届け下さりまして、有難うございます。聖王国の民の一人として、今日よりエリエスファルナへ尽くす所存でございます」


「つ、尽くす所存でございます」


 ヨハネの言葉を繰り返すオウムとなってしまっておる……!

 じゃ、じゃが仕方なかろう。父様と母様より恥ずかしくない教養をお教え頂いたつもりではあるが、こうして実際に使うのは初めてなのじゃ。それ以前に時代も種族も違うというのに、通じるのかどうかさえ分からぬのじゃぞ。

 それを言えばヨハネも世界が違う筈なのじゃが、堂々としたもの。それを真似する形になってしまうのはしょうがないのじゃ……!


「よい、よい。二人のような人物を招き入れることは、我らとしても益がある。我が娘と近衛の命の対価としては安すぎるほどでさえあるのだから」


 言って、ローゼン王が指を鳴らすと、壁際に控えていたメイドが包みを持って歩み寄ってきた。

 ヨハネの前で開かれたその中には、銀貨が一枚と金貨が十枚。これは、聖王国の通貨なのじゃろうか。どれほどの価値がこれにあるのかの。


「暫くは入用であろう。遠慮はいらぬ、受け取るがいい」


「感謝の極み」


 物凄くいい笑みを浮かべて、恭しく受け取るヨハネ。喜々として懐に入れておる。今この時だけは礼儀作法など関係ないとばかりの態度じゃが、いいのじゃろうか。

 そもそもヨハネも聖王国の貨幣相場などは知らぬと思う筈ではなかったかの。或いは、単に貨幣だから喜んだだけなのかもしれぬ。ピティの時もそうじゃったし。

 

「さて、これでも我としては、主らに与える感謝としては足りぬと思っておる。故にもし何か願いがあるのならば言ってみるが良い。我の裁量の範囲であればではあるが、良きように計らおうぞ」


 玉座から身を乗り出し、ローゼン王がヨハネに尋ねる。

 ここは任せるとするかの。わらわが口をだすのも変じゃし、そも欲しいものなどない。


「それではお言葉に甘え、卑しき商人らしく報奨を頂くと致しましょう。そうですね……、宝石を幾つか頂けましたら、それに勝る喜びはございません」


「ハッハッハ! 正直だな。エリーから聞いたイメージでは、謹んで固辞でもするかと思っておったぞ」


「それは高く評価して頂いたものです。ですが、実際はこのようなもの。金銀財宝に目を眩ませる、欲深き一人でしかございません」


「何、身を崩さぬのであれば何の問題もあるまいぞ。我としても、わかりやすい欲望を持った人間の方が信じられるというものだ。良かろう、用意させよう」


「エリエスファルナ聖王陛下より頂きました身に余るご厚遇、民として必ずや報いさせて頂きます」


「よい。これは当然の礼である。そちらの娘は、何ぞあるか?」


「ひゃい!? い、いえ、け、結構でございます」

 

 突然に話を振られ、思わず変な声を出してしまった。空気のように触れられぬよう縮こまっていたのが仇となったか……!


「ふむ、そうか。……うむ、あまり長く突き合わせるのも酷というもの。エリーよ」


「はい、お父様」


 静々と、列から一歩前に出る淑女。……あれがエリーじゃと? わらわの見た人間と全く雰囲気が違うのじゃが、別人ではなかろうか。

 そんな風に思って見ていると、エリーと目があった。彼女はわらわの考えを察したのか、悪戯が成功した時のような笑顔を一瞬だけ浮かべ、ウインクを飛ばしてきた。間違いない、あれはエリーじゃ。


「二人を案内してやるがよい。望みのものは後で直接届けさせよう」


「畏まりました。……それでは二人共、ご案内致します」


 エリーの言葉を受け、ヨハネはローゼン王に深々と頭を下げた。わらわもそれに従って、先導する彼女に従って玉座の間より退室した。

 それから暫く、奇異や好奇の目を浴びはしたが、ティアナ達がわらわを護衛するような形で隠してくれたおかげで、そう緊張すること無く王城より出ることができた。そこで仕事のあるティアナとは別れ、エリーの背を追っていく。

 ここでもやはりわらわの姿が珍しいのか、視線を感じる……。分かっているが身体に震えが来るの。じゃが、歩けぬ程ではない。今度はエリーとヨハネが、わらわの左右に立って視線を遮ってくれいてるからの。


 未だ人間には慣れぬが、ティアナやエリーなどには大分落ち着いて接することができるようになったかもしれぬ。

 こうして近くにいても普段通りに動くことができるのじゃから、この二人に関しては克服したと言ってもよいのじゃなかろうか。


「んーっ! ルルちゃん、お疲れ様ね。緊張したでしょう?」


 王城を離れてから暫く。大きく伸びをして息を吐いたエリーは、纏っていた清楚な雰囲気も共に吐き出したようじゃ。ダンジョンの中のように気さくな様子で話しかけて来た。


「う、うむ。じゃがヨハネもおったことじゃし、不安はなかったぞ」


 横にヨハネが、懐にはルリエッタがいる。その安心感がなければ、今頃は醜態を晒していたことであろう。エリー達にも慣れたといえど、ヨハネ達が近くにおらねばまともに会話すらできぬという自信がある。


「ヨハネのこと信用してるのね。羨ましいわ」


「当然じゃ、ヨハネはわらわ自慢の家族じゃからの」


 そこは自信を持って、胸を張って言える。

 しかし、答えを聞いたエリーはどうしたのじゃろうか。俯いて、身体を震わせておる。寒いのかの? 


「か、可愛いっ!」


「ひゃう!?」


 突然の衝撃、それがエリーに抱きつかれたのじゃと分かり、叫んでしまう。

 こ、心の準備が……! エリーには慣れたとはいえ、こう直接触られてしまうと、あわ、あわわわわ……!


「何もうその笑顔、反則よ! 可愛すぎる、持って帰りたいくらい!」


「感極まっているところ申し訳ありません、エリー様。ルル嬢を離して頂けると助かるのですが」


「何よ、ヨハネ。嫉妬かしら、大丈夫よ、本当にお持ち帰りしたりはしないから」


「いえ、ルル嬢の同意さえあるならば気にしません。しかし、今は」


 あ、ダメじゃ。意識が落ちる。


「泡を吹く前にどうにか……おや、遅かったですか」


「え? きゃぁぁぁぁぁ!? ルルちゃん!? 大丈夫!?」


 遠くにエリー嬢の叫びを聞いて、わらわの記憶はそこで途切れた。

 次に意識を取り戻した笑わは、見知らぬ部屋に寝かされていた。ヨハネかエリーが気絶したわらわを運んでくれたのじゃろうか。

 それにしても情けないの。突然のことじゃったとはいえ、抱きつかれたショックで気を失うとは……。自分で思っていた以上に、芯まで人間への恐怖が刻み込まれているようじゃの。はぁ、ヨハネにまた迷惑をかけてしまったかもしれぬ。

 ベッドの上でそんな事を考え沈んでいると、扉を開ける音が聞こえた。誰かが様子を見に来たのじゃろうかと、身体を起こしてそちらを見る。

 入ってきたのはエリーとヨハネの二人。ヨハネは普段通り、エリーはコチラを見て驚いた後、申し訳無さそうな顔になってしまった。

 

「ルルちゃん……! ごめんなさい!」


 間を置かずに頭を下げられる。こ、こういう時はどう返したらいいのじゃ?

 ヨハネ、は、ダメじゃ。あの顔は教えてくれない顔じゃ。ちょっとずつでも彼の表情が分かるようになったのは嬉しいが、今この時は何の助けにもならぬ……!

 

「事情は知っているのに、いきなり抱きついたりして……気絶させちゃうほど怖がらせちゃって、本当にごめんなさい……」


 言葉は尻すぼみになっていく。下げられている表情は見えぬが、きっと悲痛なものになっているであろうことが分かる声音じゃった。

 ただ、こうして心から心配されていると分かると、途方も無い罪悪感が生まれてくるの……。彼女の言う事情、わらわがアジールなる帝国で奴隷とされていたというのは、ヨハネが即興で、エリー達の反応を見ながら作り上げただけの話なのじゃから。

 今更違うとも言えぬから、結局はその勘違いに乗ったままでしかいられない。人が怖いのは事実じゃが、暗い過去などがあるわけではない。騙していることはまことに心辛い。いつか、きちんと話せる時が来るといいのじゃが。


「い、いや、構わぬ。少し驚いただけじゃからの」


 そう答えても、エリーは頭を上げようとしない。視線でヨハネに助けを求めても、微笑みを返してくるだけじゃ。む、むむむぅ。


「……そ、それに、少しだけ嬉しかったのじゃ」


 どうしたら良いかわからなくなって、わらわは内心を吐露する。

 恥ずかしいから黙っていようとしたのじゃが、きっとそうでもしなければエリーは納得してくれないじゃろう。


「そ、その、じゃな。母様を思い出したから……。わらわを抱きしめてくれたのは、母様だけじゃったから……」


 う、うぅ、子供っぽいとか呆れられんじゃろうか。

 そう感じるのは母様にも、エリーにも対しても失礼じゃと言うのは分かっておる。人の手の中にあるというだけで心が恐ろしく乱れてしまったのは、その通りじゃ。けれど同時に、抱きしめられる暖かさを思い出したのもまた事実。

 ヨハネとルリエッタは、わらわを家族であると同時に主とも見ているようじゃから、気軽に抱きしめたりはしてくれぬし。わらわからそれを求めるのは気恥ずかしいし。

 じゃから、気を失うほどに恐ろしくはあったが……今なお残るあの体温は、甘く懐かしい思い出を蘇らせてくれた。その事は、とても、嬉しい。


「ルルちゃん……! ゴメン、いえ、ありがとう……!」


「だから申し上げたでしょう。とは言え、次からは注意して頂けますようお願い致します。ルル嬢の心はお金で解決できない、デリケートな問題ですからね」


 何故ヨハネがドヤ顔をしているのかは理解に苦しむが、その通り。寧ろわらわが教えられた人間と、エリー達は全く根本から異なると言っても過言ではないのに、同じように怯えてしまうわらわにこそ問題はあるじゃろう。


「分かってるわよ……。私の不注意だったわ」


「宜しい。ルル嬢、お体の具合は?」


「うむ、問題ない」


 驚いて倒れただけじゃからの。

 エリーに抱きしめられておったから、身体を打ったりもしておらぬ。


「ならば全ては事もなし、一文の得にもならない不毛な話はこれまでと致しましょう」


 そう真面目ぶって手を叩く姿がやけに似合っていて、思わず笑いが漏れてしまった。エリーも肩を震わせて笑っておる。

 ふふ、これは敵わぬの。


「もう、ヨハネは本当に……。どっちが本当なのよ」


「心などは複雑怪奇、本当も嘘もありません。見えているものだけが、その方にとっての真実であれば宜しいかと」


「訳がわからないわ。でも、ありがとう」


 礼を言うエリーの顔は赤い。青春しておるの。

 わらわももう少し大人に育てば、彼女のような思いを抱くこともあるのじゃろうか。分からぬの、わらわの知る異性と言えば、父様とヨハネくらいじゃし。

 尤も、まだ生まれてより二千年も経っておらぬ身じゃ。それを考えるのは早過ぎるかの。母様はおませさんだったと父様より教えられたことがあるが、それでも二千五百を超えてからの恋愛だったと言っておったから、わらわもそのくらいで充分じゃ。

 それに今は恋人よりも、ルリエッタやヨハネのような家族の方が欲しい。うむ、これからわらわも頑張ってヨハネを手伝い、霊石を集めねば。


「そ、そういえば! ヨハネ、宝石になんて興味あったの?」


 露骨な話題逸らしじゃが、指摘するような野暮はするまい。

 わらわも少し気になっておったしの。


「ええ、趣味と実益を兼ねてではありますが。都合上、コレクションを手放してきましたので、新しく集めようかと」


「へぇ……、意外ね。ヨハネは物自体に興味がないとばかり思っていたわ」


「その認識に間違いはございませんが、私にも趣味の一つや二つはあるということです。ですので、もし珍しい鉱石や宝石を見つけたら是非ともご贔屓に。特別価格で買取査定をさせて頂きましょう」


「その特別が安く買い叩くでなければいいのだけれど。まぁ、私はあまり宝石とか興味ないし、考えておくわ」


 そんな感じじゃのう。エリーは王城で見た時にも思ったが、静々としておれば百合のように可憐な美女じゃ。宝石などで着飾ればさぞ美しかろう。わらわは今の、タンポポのようなエリーの方に好感が持てるから、そのままで充分に魅力的だとは思うが、少し勿体無いような気もする。

 ただ、エリーの気持ちは痛いほど分かる。わらわも着飾るとかお洒落と呼ばれるものにはあまり興味がわかないからの。動きやすければよいと思うのじゃが。

 ただそれを口に出したら、ルリエッタに『もっとルル様に相応しい装いしてみれば、きっとお考えも変わります』とか言われて着せ替え人形にさせられかねん。口にはとても出せぬの。


「それは残念ですね。良いものであれば、ルル嬢の装飾とする意味もあるのですが」


「そうね、何か良いものがあったらすぐに売りに来ましょう」


 手酷い裏切りを見た……! いや、わらわは何も言っていないからエリーからすれば善意なのじゃろうが、この件に関してはルリエッタの援護も期待できぬ。ヨハネもあの様子では止めるつもりもなさそうじゃ。諦めるしかないのじゃろうか。


 それはそうと、今回はわらわにもヨハネの狙いは分かったぞ。

 こうやって宝石を高く買うと広めることで、宝石や鉱石に混じって霊石の情報を仕入れようと言う訳じゃろう。直接霊石を集めていると言わなかったのは……何故じゃろうな。分からぬが、ヨハネには確たる狙いがあることは間違いない。ならば何の問題もないの。


「さて、それじゃあ私はそろそろ戻るわね」


「多々の便宜を取り計らい頂き、ありがとうございました」


「いいわよ、父様も言っていたけど、命のお礼にはこれでも安すぎるくらいなんだから。……で、ルルちゃん」


「何じゃろうか?」


 問い返してみるが、返事はない。

 エリーは気まずそうに、うー、あー、と言葉にならない呻きを上げるばかり。言いづらい事なのじゃろうか……?


「その、あのね? また、遊びに来てもいいかしら?」


 それは、問題ないと思うが……どうなのじゃろうか。

 わらわ個人としては問題ない。寧ろわらわの恐怖を治す為にも、話しやすいエリーやピティ、ティアナのような者達が来てくれるのは助かるのじゃ。自分から行く勇気はないが、来てもらえるのなら歓迎したい。

 それに、その、あれじゃ。身の上を隠している身で甚だ無礼ではあるが、友達というものができるのは憧れじゃからの。

 魔族を忘れただけだとはいえ、人が魔族の友であれるというのなら。闇女神様と光女神が争う前の、楽園と呼ばれたとされる時代のように手を合わせられるのなら。例え欲張りと言われても構わぬ。わらわはソレを望みたい。

 それに、ヨハネも馬車の中で言っておった。聖王国とのパイプを作ることも必要になってくる、と。ならばやはり、わらわがエリーと友誼を結ぶべきなのじゃろう。

 ヨハネに横目で視線を向ける。それに気付いたのか、柔らかく頷いた。つまりは問題ないということじゃな。

 

「勿論じゃ。このような身の上であるが、来てくれるのならば嬉しく思う」


 エリーに視線を戻して頷くと、ヒマワリのような笑みを浮かべて何度も頷いておった。コレほどに喜んでもらえると、わらわも嬉しくなってくるというもの。


「良かった……。じゃあルルちゃん、近い内に必ず寄らせて貰うわね! ヨハネも、まぁその時はいてもいいから。じゃあね!」


 最後を早口に言い捨て、エリーはバタバタと部屋を出て行った。はて、エリーはヨハネを好ましく思っていたのではなかったのじゃろうか? それにしては冷たい言い様。どうなっておるのじゃろうか、ヨハネではないが、人の心とは複雑怪奇なものじゃのう。


「賑やかなことです。それではルル嬢、屋敷をご案内しましょう」


「うむ、任せる。ルリエッタも宜しく頼むぞ」


『お任せください』

 

 ヨハネの持つ小瓶から這い出てきたルリエッタが、恭しく頭を下げた。

 わらわが気絶していた間、ヨハネがエリーに案内を受けていたらしい。ルリエッタもそれを聞いていたとのこと。じゃからわらわが目を覚ました時にいなかったのじゃな。

 報奨として譲り受けた屋敷は、かなり広々としたものじゃった。正面は大通りに面しており、側面と裏面にそれぞれ広い庭があった。三階建てで、地下室もある。魔法などはかけられておらぬが、これはヨハネ達と相談の上でわらわがやればよかろう。家具などは置かれておらぬが、わらわが今までに集めたものを使い、足りぬ分に関してはヨハネが受け取ったもので整えればよいな。

 今までずっとダンジョンで暮らしていたから、こういうのは新鮮じゃな。


 そうして一通りの案内を受け終え、各人の部屋や家具の配置など相談しようとしていた時、来客があった。ティアナが、ヨハネがローゼン王に求めた褒美の宝石の入った革袋を届けに来たのじゃ。

 彼女は他にも仕事があるからと慌しく戻っていったが、大変じゃのう。ローゼン王も、さっきの今で準備を終えて届けてくるとは、義理堅い。ヨハネも、早くても翌日だろうと思っていたと驚いた様子で教えてくれた。

 じゃが、わらわ達が本当に驚いたのはその後じゃ。一階にある談話室。最初から机が備え付けられておった数少ない部屋で、袋の中身を確認しておった時。

 ヨハネが一つずつ取り出して、ルビー、サファイヤ、ガーネットなど大小様々で、多種多様な宝石たちがテーブルの上に並んでいく。

 二十個ほど取り出して、これが最後のようですね、と置かれたものを見た時、わらわは目を疑った。


「……え……?」


 ルビーやガーネットよりもなお紅い、まるで燃える炎のような輝きを放つ鉱石が、コトリと転がった。

 それこそは"穢れ滅す大山の贖銅”オレイカルコス。かつての闇女神様と光女神の争いの際、唯一それを生み出すアトランティス大山ごと失われた希少金属。わらわが求める、霊石の一つじゃった。





「エベル、レク、サリアス、フルグルス。我が呼び声に応えて来たれ」


 翌日、わらわは早速、以前ヨハネを呼び出したダンジョンで召喚の儀式を行っておった。

 見守るのは、あの時と同じくルリエッタ。ヨハネにも聞いてみたのじゃが、彼は後で結果だけ教えてもらえればいい、と言って屋敷に残った。

 それならばわらわ達もそちらを手伝ってからでいいと言ったのじゃが、やんわりと断られてしまった。

 屋敷のことをヨハネ一人に任せることに思うところがないではないが、力仕事などでわらわは力になれぬと諭されてしまい、こうやって今に至っておる。


「デルベ、シュタリル、デル、シュタン! 汝、最極より来たるもの、彼方の果て、窮極を超え、鍵持つものが開く門の先より来たれ」


 ならばせめて、新しい家族を無事に紹介させることでヨハネへの感謝の気持ちとしよう。

 さて、此度はどのような魔族が姿を見せるのか。実に楽しみじゃな。

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