第3話 七不思議の怪(六月十八日)

(六月十八日)


 友浦の下へ寄越された手紙と封筒は鑑識へ回されたものの、前回のメール同様、期待に反して得られた情報はまったく手がかりにならないものばかりだった。

 使われていた手紙はこの辺りならどこの会社や学校、コンビニなどでも使っているコピー用紙。新聞やチラシで作られた文章から筆跡鑑定は出来ず、使用されただろう新聞も駅などで売っているもの。貼り付けに使われたのりですら量産品である。

 封筒もコンビニやそこらの量販店で買える代物だ。唯一犯人直筆だろう宛名は定規でも当てながら書いたように角張っていて、筆跡鑑定で誰の文字か特定するのは難しいだろう。両方とも指紋どころか目立った付着物もなかったという。

 ……これだけ徹底していれば手紙の一つを送ったところで問題なしって訳か。

 切手がないことからして犯人が自らの手で投函したのだろう。

「ふざけやがって」

 よほどの切れ者を相手にしていると見て間違いなさそうだ。

 だが一つだけ重要なことが分かった。少なくとも犯人は学校関係者である。たった二人しかいないミステリー研究会を知り、なおかつ現在桐ヶ峰大学内で怪談話が噂になっていることを知っている人物。

「おい、堤、この間のリストはどこだ!」

 顔を上げれば向かいのデスクにいた堤がキョトンとする。

「え、何のですか?」

「綾部麻美と宮坂栄祐二人に関わりのある人物のだ馬鹿野郎!」

 出来は良いのにどこか抜けている部下に友浦は煙草の箱を投げつけた。

 本来であれば綾部麻美の行方を見つけるのは警察の仕事であったが、こうなっては仕様がない。怪談話を解いて本当に見つかるかどうかも甚だ疑問であるけれど、藁でも掴みたいほど捜査が行き詰まっている今では他に方法もない。

 慌てて書類の山からルーズリーフを探す堤を苦い思いで眺めていた。

 その時、友浦の携帯が鳴る。

「はい、友浦です」

 かけてきたのは大学の校長だった。

 その内容に椅子から背を離した友浦は立ち上がった。

「あ、先輩、ありましたよ!」

「ああ、そこに置いといてくれ」

 それだけ言って部屋を出て行った友浦を堤はポカンとした顔で見送る。

 少しして、慌てて堤も椅子から腰を上げて追いかけていった。

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