それはたしかにそこにあった

「怖い」


彼女はそう言って動こうとしない。

どうしたの、と尋ねると、


「大きくて黒い物があるの、ずっとこっちを見てくるの」


と。

大丈夫だよ、そんなの無いよ、と言っても、

彼女は動かず、目に涙を貯め、水は溢れ始めた。


彼女をヒョイと抱きかかえ、

彼女はジタバタと動き、

彼女が「そこにある」といった場所を通り過ぎようとした時、

僕は大きな目と目が会い、

僕の中の重さが消え、

僕だけがそこにいた。


それはたしかにそこにあった。

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