暗闇の中で

 もう何日たっただろう。

 それとも何週間、何ヵ月?

 ここは真っ暗でなにもわからない。身に張り付くじっとりとしたぬるま湯のような空気が私の意識を鈍らせる。


 覚えているのは、あいつが私の頭に大きな石をふり下ろしたことだけ。その後、きづいたらここにいた。私の体は小さく折り畳まれ、丸い金属の筒に入れられている。


 ぬるま湯のような空気。少し不快で、でもなぜか落ち着く。

 もう二度とここから出ていきたくない。出ればまたあいつが私に石を振り下ろすだろう。あの地獄のような日々、もう二度と戻りたくない。空気を吸うだけで殴られた。逃げれば追ってきて酷く痛め付けられた。

 けれど、ここにいれば安全だわ。あいつももう追ってこない。そんな気がする。


 がこん、という音と共に、金属を伝って衝撃がやってきた。誰かがこの筒を叩いているようだ。

 いやだ、やめて。放っておいて。私はここから出たくない。


 金属が軋む音が続き金属の筒に隙間ができ、日光が入ってきた。

 ああ、いやだ。出たくない!




「出ました!死体です!」

 若い刑事の叫びに、周囲にいた刑事たちがドラム缶をのぞきこむ。

「これは……ひどいな」

「かなり腐敗が進んでいますね」

 刑事達が手を合わせる。

「あなたを殺した旦那は自殺しましたよ」

 若い刑事が私に語りかける。

 そうか。

 もういいのね。

 私はもう逃げなくていいのね。

 明るい日射しの中、私は意識を手放そうとした。


「後追い自殺というやつだったんでしょうね」


 刑事の言葉に溶け残った私の背に悪寒が走った。

 あとおい?

 私はもうここから動けないというのに。

 まさか、まだあいつは追ってくるというの……?

 強い日差しの中、私の影がゆらりと蠢き、そこから一本の手が伸びてきた。

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