あ く む

ピエロがいた。

どこまでも広がる野原のまんなかに。

手にボールをもっていた。


ピエロが手まねきした。

わたしはふわふわと

ふしぎにはずむ地面をすすんだ。


ピエロが私にボールを見せた。

それはボールなんかじゃなく

わたしの首で


叫び声で目が覚めた。

はあはあと荒い息をととのえ

見渡すとそこは

どこまでも広がる野原のまんなか。


ピエロがいた。

手にボールをもっていた。

ピエロが手まねきした。

わたしはピエロに背を向けて走った。

ピエロはどこまでも追いかけてきて。


叫び声で目が覚めた。

はあはあと荒い息をととのえ

ゆっくりと目を瞑り

ゆっくりと目を開ける。

どこまでも広がる野原のまんなか。


わたしは両手で目を覆いしゃがみこむ

草を踏むしゃりしゃりという音が近づいてくる。

わたしはぎゅっと目を瞑り両手で耳を塞ぐ。

首筋に冷たい感触。

首のまわりにぐるりと這うピアノ線。

それが強く引かれ、あたたかい血がしたたり落ちる。


叫び声で目が覚めた。

はあはあという息をころし、地面に身を伏せる。

遠くにピエロが立っている。

手にボールを持っている。

わたしは目を瞑り、眠りに落ちる。


叫び声で目が覚めた。

そこには見なれた天井があった。

右を見る。

左を見る。

見なれた窓、見なれた壁、見なれた私の部屋。

ほうっと息を吐き、体の力が抜ける。


ゆるゆると身を起こすと

部屋の隅にピエロ。

手には銀色に光る刃。

わたしは叫び声を上げる。

いくら叫んでも目は覚めない。

わたしは叫び声を上げる。

ピエロがゆっくりと歩み寄る。

その手にボールを乗せるために。

わたしは叫び声を上げる。

いくら叫んでも目は覚めない。



そして

わたしは二度と目覚めない。

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