「カブのブーさん」

カブのブーさんは林さんの畑ですくすくと育っています。

ブーさんは林さんが好きで林さんの為に大きく大きくなろうと頑張っていました。

なので林さんの畑の中でもブーさんは一際大きく目立つほど育ちました。

林さんも大きくなるブーさんを見て喜んでいました。


季節は巡って収穫の時期が近づいてきました。

ブーさんは収穫されたくてウズウズしています。


早く収穫の時期にならないかな

早く僕が役に立つ時にならないかな

笑顔で僕を育ててくれた林さんの喜ぶ顔が見たいな


しかしブーさんの土に埋まっているカブの部分は少し違いました。

カブの部分はもっともっと土の中にいたかったのです。

何故なら土の部分は暖かくてやわらかくて気持ちが良かったから。

そう、皆さんが朝ずっと布団の中にいたいのと同じ気持ちです。


地上に顔を出している部分は早く収穫してもらいたい。

地下の埋まってる部分はもっともっと眠っていたい。

ブーさんは正反対の2つの気持ちの間で揺れていました。

収穫が近づくまでは気持ちのズレはそんなになかったのですが

いざ収穫が近づくとカブの部分のまだ外に出たくない気持ちの方が大きくなっていました。


しかし時は非情に過ぎていきます。

やがてカブの収穫の時期になりました。


スポッ


スポッ


カブ畑のカブが次々と抜かれていきます。

みんな気持ちよく収穫されていきました。

今年のカブも豊作です。

畑のカブはみんないい出来でした。

この結果に林さんも思わずニッコリです。


今日は天気も良くて休日だと言うのもあって

林さん一家が家族総出で収穫の手伝いに来ていました。


ブーさんは一際大きく育っていたので抜くのは後回しにされていました。

ブーさんはその事に奇妙な安心感を覚えていました。

抜かれたい!でももっと眠っていたい!

ブーさん自身自分の気持ちがよく分からなくなっていました。


しかしどんなに先延ばしを願ってもその時はやって来ます。

ついに林さんはブーさんの葉っぱを握りました。

もうカブ畑の他のカブはブーさん以外全部抜かれてしまっていました。

それで最後の最後、ついにブーさんの番になったのです。

ブーさんは覚悟を決めました。


林さんは熟練の慣れた手つきでブーさんを引き抜こうとします。

しかし、ブーさんはびくともしませんでした。

こんな事、林さん30年の農家生活で初めての出来事です。

林さんは持っているテクニック全てを使ってブーさんを引き抜こうとします。

それでもどうやってもブーさんは抜けません。

林さんはすっかり困ってしまいました。


そんな林さんの姿を見てブーさんも悲しんでいました。

早く抜いてもらいたい!

抜いて立派に育ったカブを見て喜んでもらいたい!

けれど、このまま土の中でゆっくりしていたい気持ちもある…。

このまま抜けないでいたら今日は諦めてくれるかな…。

この優柔不断な自分の気持を断ち切るくらい強引に引っこ抜いてもらいたい…。

そうしないとブーさんは自分が駄目になる気がしました。


林さんがブーさんを抜けずにいるので林さんの家族が集まってきました。

まずは元気な林さんの息子さんが挑戦しました。

若いパワーを活かした強引な引っこ抜きでしたがブーさんはびくともしません。

カブの部分が予想以上に大きく育っていて人一人の力でどうにもならないほどだったのです。

息子さんもだらだらと汗を流すほど頑張ったのですがブーさんを動かす事すら出来ませんでした。


一人ではどうにもならないと分かった林さんは家族総出で力を合わせてブーさんを抜く事にしました。

カブと同じくらい立派に育った葉の部分を握って家族がそれぞれのポジションを確保してみんなで息を合わせてブーさんを抜こうと頑張ります。


せーのっ


せーのっ


それでもブーさんは抜けません。

林さん一家ももうすっかりぐったりしてしまいました。


林さん一家は取り敢えず休憩にしました。

お茶を飲みながらブーさんをどう抜くか相談しました。

普通に抜こうとしても抜けないから周りの土を掘って掘り出す方法を思いつきました。

十分休憩して体力が戻ったらその方法を試す事にしました。


お茶を飲んでお菓子を食べて雑談をして家族の話に花が咲いてやがて一家はすっかり回復しました。

そうして早速ブーさん引っこ抜き計画を始めました。


林さんたちは計画通りにブーさんの周りの土を取り除いていきます。

しかしブーさんのカブの部分は大きくて掘っても掘ってもカブの全体像は見えません。


いやぁ~よくぞここまで大きく育ったものだなぁ


育ての親の林さんもブーさんの育ちっぷりに感心してしまいました。

これだけ大きかったらかなりの話題になるなと林さんの息子さんは思いました。


掘っても掘っても終わりがなさそうだったので仕方なくある程度掘り進めた所で

その状態からブーさんを引っこ抜く方向に計画を変更する事にしました。

この状態ならまるっきりカブが土に埋まっている状態よりいくらか楽に抜く事が出来るはず…。


林さん一家はブーさんの周りに集まると一斉に葉っぱを掴んでさっきと同じように

みんなで息を合わせてブーさんを引っこ抜こうと力を込めました。


せーのっ


せーのっ


それでもブーさんは抜けません。

ある程度周りの土を取り除いて抜けやすくなったはずなのにどうしてもブーさんは抜けませんでした。

林さん一家は力を出し切ってとうとうその場に倒れこんでしまいました。


その様子をじいっと見ていたブーさんは本当に申し訳ない気持ちになりました。

自分の為に林さん一家がこんなに頑張っているのどうして自分の事ばかり考えてしまうのだろう…。

自分で動く事が出来たなら今すぐにでもスポっと抜けてあげるのに…。


けれどこうも考えるのです。

今全然抜けないのは自分が抜かれたくないって踏ん張っているからなのかな。

抜かれたい想いが強ければ案外簡単に抜かれちゃうのかも…と。


そうは思ってみてもやっぱりカブの部分は抜かれたくない思いを変えるつもりはありませんでした。

いざとなれば抜く時の力で葉っぱが全部ちぎれちゃってもカブは土の温かさの中にいたいと願うほどでした。


林さん一家がバテて動けなくなっているところへ一家の孫娘の華ちゃんがブーさんに近づきました。

そしてある程度掘られて姿が見えているブーさんのカブの部分に華ちゃんは話しかけました。


ブーさんブーさん

華ちゃんはブーさん大好きだよ

だから意地悪しないで

早く出てきて

お願い


そう言い終わると華ちゃんはブーさんにかわいいキスをしました。

ブーさんのカブの部分は華ちゃんの言葉にすっかりメロメロです。

ブーさんはその時葉っぱとカブがやっと同じ気持になれたと感じました。


華ちゃんのその行動を見ていた林さんは今ならブーさんが抜けると確信して

もう一度ブーさんを抜こうと力を込めました。


すぽっ!


華ちゃんのラブコールのおかげでしょうか。

あんなにどうやっても抜けなかったブーさんはあっけないくらいに簡単に抜けました。

引っこ抜かれたブーさんは誰が見ても驚くほど立派に成長していました。

これはギネス記録間違いなしです!


その後ブーさんは写真に撮られたりしっかり計測して記録に残されたりすっかり有名野菜の仲間入りを果たしました。

ブーさんの写真はネットを駆け巡り一躍世界的に有名になりましたし、いくつかのテレビ局がブーさんを取材に訪れるほどでした。

ブーさんの育て主の林さんも有名になり林さんの野菜も飛ぶように売れました。


ブーさんもその結果に大満足です。

やっと林さんに恩返しが出来たと思いました。

林さんの笑顔を見ればこれからの自分の運命も快く受け入れられるのでした。



え?ブーさんはその後どうしたって?


一連の騒ぎが落ち着いた後に林さんはご近所の皆さんを集めてカブパーティーを開きました。

あまりに大きかったブーさんは出荷する事が出来なかったのでみんなで美味しく頂く事にしたのです。

勿論華ちゃんもブーさんを美味しく頂いてニコニコしていましたよ♪



(おしまい)

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