「かぎしっぽ物語」
あるところに猫の親子がおりました。
子猫はまだ産まれたばかりで母猫はしっかり子供たちを守っていました。
子猫は全部で4匹、みんなすくすくと育っていました。
その中でも一番のやさしい子猫はかぎしっぽでした。
母猫はかぎしっぽ子猫をいつも心配していました。
優しすぎていつも貧乏くじを引いていたからです。
かぎしっぽの猫は幸運を運んでくるの
あなたはきっと幸運が味方してくれるわ
母猫はかぎしっぽ子猫にそう言って慰めるのでした。
4匹の子猫は個性は強いのですが別に仲が悪い訳ではありませんでした。
ただどうしても順番を決めなくてはならない時に自然に序列が出来るだけなのです。
4匹はだからとても幸せに過ごしていました。
しかし不幸は次々に襲ってきます。
平穏な日々は突然終わるのです、前触れもなしに。
まず母猫が不運の犠牲になりました。
酔っ払い運転の暴走で母猫は子猫を守る為に車に轢かれてしまいました。
さっきまで元気だった母猫がいきなり死んでしまって
4匹は突然天涯孤独の身になります。
猫は個別行動を好む生き物ですが子猫達はまだほんの子供。
生活するには沢山の困難と戦わなければいけません。
それに立ち向かえるだけの力を子猫達はまだ持ち合わせていませんでした。
病気の流行にカラスなどの他の動物の攻撃…。
4匹は自然に衰弱していきました。
自然の試練は厳しいものです。
一匹、一匹と子猫たちはその試練に生命を燃やし尽くしてしまいました。
その女性が気付いていた時、子猫はもう最後の一匹になってしまっていました。
その子猫もすでにかなり衰弱していて今にも死にそうな雰囲気です。
彼女は残されたその子猫を抱き上げ、急いで病院に連れて行きました。
その子猫こそかぎしっぽの彼でした。
病院でしっかり治療された彼は彼女の家に迎えられる事になりました。
彼はキッドと名付けられ、彼女、ケイトのもとで暮らす事になりました。
ケイトは小さな雑貨屋さんを営んでいました。
決して繁盛こそしていませんでしたが彼女の人柄もあって
細々とですが何とか生活出来るくらいのお客さんは来ていました。
常連さんしか利用しないような小さなお店です。
キッドはそこの看板猫になりました。
かぎしっぽのキッドはすぐに常連さんたちをトリコにしました。
おかげで店の売上は少し伸びました。
しかしそれはキッドの養育費分のプラスになるかどうかくらい。
雑貨屋は相変わらずギリギリの生活のままでした。
それでもケイトは笑いながら言うのです。
あなたが来てくれただけで幸せ
あなたを助けられただけでも幸せ
そのかぎしっぽがきっと私達を引き合わせてくれたのね
私が頑張るからあなたは何も心配しなくていいからね
ケイトのその言葉にキッドは亡き母猫の姿を重ねるのでした。
何も心配しなくていいと言われてもやっぱりキッドは少しの居心地の悪さを感じていました。
このままじゃ彼女に苦労ばかりかけてしまう。
折角のかぎしっぽなのに何もこのお店に貢献していない。
何とか彼女に感謝の気持ちを伝えられないかな…。
キッドがケイトのお店に来て一年後、お店の売上は相変わらずでした。
暇な店内でケイトはスマホで猫動画を見て暇をつぶしていました。
それを見たキッドはある名案を思いつきました。
そうだ!いい事思いついた!
その次の朝、ケイトの前からキッドはいなくなっていました。
ケイトは焦ってキッドを探しました。
もうお店を開く余裕すらありません。
周りに声をかけるはネットに捜索情報を流すは出来る限りの手をつくしました。
どうして急にいなくなったの?
やっぱり私との生活が嫌になったのかしら?
いつも安いエサばかりだったし…。
危ないから家からも出さなかったし…。
もっとあなたの事を考えてあげれば良かった。
出来る限りの手をつくしたケイトは自分で探す以外もう朗報を待つしかありませんでした。
それから一週間の時間があっと言う間に過ぎて行きました。
その日もキッド探しでくたくたになったケイトは寝る前に猫動画を見ていました。
キッドを失った悲しみを少しでも癒やそうと…しかしそれは逆効果でした。
猫動画をひとつ見る度にキッドとの思い出が溢れてきて涙がこぼれます。
そしていくつかの猫動画を見た後にこれで最後の動画にしようとある動画をタップしました。
しかしそこに映っていたのはただの猫動画ではなかったのです!
何とそこに映っていたのは探し続けていたキッドでした。
キッドは自慢のかぎしっぽを活かして猫動画のヒーローになっていました。
可愛く遊んだり、ヘマをしたり、それはキッドが店内で見せていた姿そのもの!
それどころか余計に派手に演じているようにすら見えました。
ああキッド!
お前はそこにいるのね!元気なのね!
明日こそ絶対に見つけ出して抱きしめてあげる!
ケイトはこの動画を見つけた瞬間すぐにでもベッドから飛び出しそうになりましたが時間が深夜だと言う事もあってこの日は大人しく眠る事にしました。
しかし興奮して中々寝付けませんでした。
チチチ…チチチ…。
昨夜寝付くのが遅かったケイトは少しだけ寝坊していました。
あくびをしながらキッチンに向かうとそこには探し続けていたキッドの姿が。
そう!彼は昨夜の内にケイトのもとに帰って来ていたのです!
ああ!なんて事!夢じゃないかしら!
ケイトは大変驚きました。
朝目が覚めたばかりなのにまだ夢の中にいるのかと錯覚するほどでした。
喜び過ぎて正気じゃいられないケイトに気づいたキッドは
するすると彼女に近付きニャ~と言いながらスリスリしました。
ぼく帰って来たよ!
一生懸命頑張ったよ!
きっと役に立てると思ったんだ!
キッドのこの意志が彼女に伝わったかどうかは分かりません。
しかし伝わっていてもいなくてもケイトは既に上機嫌です。
キッドと共にいる事がどれだけ彼女の心に支えになっている事か。
ケイトはキッドを抱き上げるとしばらく彼を抱きしめるのでした。
キッドが帰って来たので今日は失踪後に閉めていた店を久しぶりに開ける事にしました。
ケイトがドアの前に行って鍵を開けようとしたらびっくり!
何と店の前にお客さんの長蛇の列が出来ていました。
まあ!なんて事!こんなにお客さんが?
振り返るとキッドがちょこんとテーブルに座っています。
その様子を見ただけでケイトは気付きました。
キッド!あなたはこの店のためにお客さんを呼んでくれたのね!
キッドは我関せずという風な顔をしてあくびをひとつ。
でもそれがただの照れ隠しだと言う事を彼女は知っていました。
キッドの心優しい企みにケイトは凄く感動しました。
お店を開けるとケイトの雑貨屋はこの間までの暇な状況が嘘みたいに繁盛しました。
動画で話題になったお陰でテレビにも取り上げられました。
あんまり忙しくなったので新しく店員さんを雇わなくてはならないほどでした。
キッド人気にあやかって出したキッド関連商品がまた大ヒット!
もうケイトの雑貨屋は全国で知らない者がいないほどでした。
チラホラと海外のお客さんも訪れるほどに…。ネットの力は国境を軽く飛び越えます。
最近ではキッドを使ったCMの話が舞い込んだり映画化の噂も来たり。
キッド!あなたのおかげよ!
あなたがいるだけでも嬉しいのにこんな幸運まで引き寄せてくれて!
ケイトはキッドに感謝しました。
だからこそキッドのためを思って彼に看板猫以外の仕事はさせませんでした。
当のキッドは相変わらず我関せずと言う顔をしてあくびをひとつ。
もちろんそれが照れ隠しだって言うのはもう皆さんもご存知ですね。
(おしまい)
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