「虹色流れ星」
満天の星がきらめく大宇宙で地球に向かう一つの星がありました。
その星について来るのは無数の隕石達。
彼らはいつか流れ星になる事を夢見る星の子供達です。
さて、その星が地球の側を通り抜けようとした時です、隕石の一つが言いました。
「お母さん、僕、この星に降りたい」
お母さん星はゆっくり頷くと、
「いってらっしゃい、地球の生き物達にヨロシクね」
と言ってこの隕石を優しく見送りました。
「うん!仲良くするよ!いってきま~っす」
隕石はそう言うと地球の重力に引かれていきました。
しばらくして、隕石は地球の大気に触れ、流れ星となりました。
光の尾が伸びて、人々に神秘をもたらします。
隕石は熱さを我慢しながら、でも、とても気持ち良く落下して行きました。
隕石が落ちる場所は陸地の側の海の中。
後もう少しで陸地に落ちられるのに…、そう思った隕石は最後の力を振り絞って落ちる瞬間に海面を跳ねて行きました。
2段、3段と波紋が広がって、隕石は陸地に近付いていきます。
そしてついに隕石は浜辺に到着する事が出来ました。
その光景をずっと見ていた女の子がいました。
彼女はたまたま浜辺で海を見ていたのですが、その時に海を跳ねていく流れ星に遭遇したのです。
女の子は浜辺に到着した隕石をそっと拾って持ち帰りました。
隕石は女の子の部屋に飾られました。
隕石も女に子に拾われた事をとても喜びました。
だって、落ちた後も自分に愛を注いでくれるんですもの。
隕石も女の子の愛に応えようと自らの身を熱く燃やすのでした。
女の子の部屋に隕石が飾られてから数日後、隕石の様子に変化が訪れました。
何と、夜になると隕石が光り始めたのです。
それは、隕石が女の子の愛情に応えようと思った結果でした。
夜の闇に淡く光って女の子に喜んでもらおうと思ったのです。
女の子もこの光景に感動して、いっそう隕石を大事にしてくれました。
最初は淡く白く光るだけだった隕石は、やがて沢山の鮮やかな光を放つようになりました。
そしてついには七色の虹の光を女の子の部屋一杯に満たすほどになっていました。
七色の光に包まれた部屋で、女の子は夜が恐くなくなったよと言って隕石をさらに可愛がるのでした。
でも、それからしばらくして女の子は少しずつ元気がなくなっていきました。
隕石はどうしたいいのか分からず、目一杯光って彼女を慰め続けます。
だって隕石にはそれしか出来ないのですから。
そして、女の子はその鮮やかな光を優しく見守るのでした。
ある日、女の子はついに倒れてしまいました。
そして病院に入院する事になったのです。
だから女の子と隕石は別れなければならなくなりました。
女の子の部屋で一人輝く隕石は星に彼女の無事を祈りました。
祈りが星に届くよう、その日は一晩中輝き続けたのでした。
次の日、白い防護服に包まれた人達が女の子の部屋に入って来ました。
彼らの目的は隕石です。
隕石は彼らによって遠い場所に連れ去られていきました。
連れて来られた隕石は実験室のような部屋に安置されました。
そして機械にセットされると、毎日強制的に光らされました。
ある日、隕石の側に動物がやってきました。
隕石は嬉しくなって普段より大きく光りました。
するとどうでしょう、その光を浴びた動物達がバタバタと倒れていくではありませんか!
それは女の子が倒れたのと、まるで同じ状況でした。
実験は次の日も続けられました。
隕石が光を浴びるたびにまた動物が倒れていきます。
隕石は凄く悲しい気持ちになりました。
喜んでもらおうと光り始めたのにその光で逆に命が奪われていくからです。
でも、機械にセットされた隕石は光るのを止める事が出来ません。
どうしようもない歯痒さが隕石を苛みました。
隕石の光はずっとデータに取られていました。
動物がドンドン自分の光で倒れていく中で、人間達が自分の光をどうしようとしているのか気になった隕石は、彼らの話に耳を傾ける事にしました。
「…結果は順調だ、もうすぐ新兵器が出来る…」
「…この兵器の完成で何万の人間が死ぬ事になるだろう…」
「…これで我が国は政治的にも優位に立てる…」
隕石は耳を疑いました。
自分の光は人を幸せにするどころか、殺すものだったのです。
もう少ししたら自分の光を元にした兵器が完成してしまう!
そうしたら不幸な人がもっと増えてしまう!
早く何とかしなくちゃ!
でも、どうすれば…?
自分に出来る事と言ったら光る事だけ…。
…そうだ!
隕石は最後の手段を思いつきました。
残る力を全て出し切るのです。
結果がどうなるか隕石自身も分かりませんでしたが、もうそれに賭けるしかありませんでした。
隕石は持てる力を最大限に引き出しました。
限界を超えたその光は隕石自身にも負担を強いるものでした。
そして機械にいつも増幅されていた光は膨張して暴走してあっと言う間に建物全体を包み込み、巨大な爆発を起こしました。
その爆発は建物を一瞬で吹き飛ばす凄まじいものとなりました。
建物のあった山奥では、爆発と共に生まれた七色の光の柱がずっとずっと光っていました。
まるで自分の所為で不幸になった女の子に謝罪するようにそれはそれは悲しい輝きでした。
「あ、山の方…何だかとても綺麗…」
病室の無菌室から外を眺めていた女の子はその光に気付いて一人静かに呟きました。
そう、女の子は何とか一命を取りとめたのです。
その代わり、一生無菌室の生活をしなくてはならなくなりました。
そして、今でもまだあの隕石の事を考えています。
神様から貰った大切なプレゼントだと、そう思っていたから。
テレビでは製薬会社の工場が謎の大爆発を起こしたと伝えています。
しかし、現場で隕石が見つかったとの報告はありませんでした。
そう、隕石はあの爆発で溶け切ってしまったのです。
女の子を始め、実験で死んでいった動物達に謝りながら…。
でも、兵器の完成を阻止出来た事に満足して溶けていったのです。
女の子は窓から流れ星を探します。
七色の光と戯れたあの素晴らしい日々が戻ってくる事を願う為に。
この一生出られない無菌室の部屋で。
そしてまた、空のどこかで流れ星が消えていきます。
どこかの誰かの願いを叶える為に…。
(おしまい)
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