「飛び魚ククル空を舞う 」
飛び魚のククルは仲間の中でも一番の元気者。
みんなで並んで飛ぶ時もいつも一番遠くまで飛んでいました。
今日もまたみんなで波の谷間を飛んでます。
「やあ、ククルはいつもすごいなぁ」
「えへへ、でも僕はもっと高く飛びたいんだ」
そう、ククルの夢はただ一つ、誰よりも高く、誰よりも遠くまで飛ぶ事でした。
「でも、僕らの中じゃククルが一番だよ?どこまで飛んで行くつもりなんだい?」
同じ飛び魚のジャックがククルにそんな事を聞いてみました。
「僕の夢かい?それはあの空高くまで飛ぶ事さ!今は鳥しか飛ぶ事が出来ないあの空の向こうまで飛んで行きたいんだ!それが僕の夢」
ククルは情熱たっぷりにジャックにそう答えました。
「そうなんだ、でも僕らは飛び魚さ、空を飛べると言っても結局魚、そんな高くなんて無理だよね」
ジャックのその言葉にククルは少しムッとしました。
「そんな事ないさ!挑戦し続ければ僕らだって飛べる!鳥みたいに自由に飛べるんだ!」
「夢は夢、現実は現実だよ」
「でも僕は諦めない、いつか絶対飛んでみせる!」
結局ククルとジャックは意見が合わないまま別れてしまいました。
二人は親友だったのに。
そして少しだけ月日が流れある月夜の晩の事。
美しい月の光をバックにいつものように波間を飛ぶ飛び魚達。
その中にはあのジャックとククルの姿もありました。
二人はあの時から一度も口を聞いていません。
今日もまた口を聞かないまま過ごしてしまうのでしょうか?
「ククル!」
先に声をかけたのはジャックの方でした。
「ん?」
突然声をかけられてククルはキョトンとしています。
「こんな話を聞いたんだよ…」
「どんな話?」
「大空を飛ぶ方法があるかも知れないって話さ」
「本当か!教えてくれよ!」
ククルはジャックの話を聞いて興奮しました。
長年の自分の夢が叶うかも知れないからです!
「まぁまぁ落ち着けって!聞いた話によると誰でも空を飛べる様になる曇ってのが
あるらしいんだ」
「誰でも?なんだつまんないな」
ククルは自分の力で飛びたかったので、そのジャックの話を聞いて少しガッカリしてしまいました。
「そう言うなよ、とにかくその雲の力を借りればお前の夢が叶うんじゃないか?」
「かも知れないけどさ…で、その曇ってどこにあるんだ?」
「分からない…なにせ噂だからな」
「そっか…有り難う」
「礼はいいよ、こういう話、お前好きだと思ってさ」
そして、その後は何事も無かった様に二人は他愛もない話をしてその夜を過ごしました。
次の日、ジャックが気付いた時、もうそこにククルの姿はありませんでした。
飛び魚仲間はみんなでククルを探しましたが一向にククルが見つかる気配はありません。
ジャックはハッと気付きました。
ククルがその謎の雲を探しに行ったと言う事を。
太平洋の波は今日も穏やかに輝いていました。
その中を泳ぐ一匹の飛び魚の姿があります。
やはりそれはククルでした。
ククルはその雲を探して広い海をさ迷っていたのです。
ある時はマグロに話を聞いて、ある時はカツオに情報を求める。
雲を探しての旅は一筋縄では行きませんでした。
岩にぶつかりそうになったり、漁船の網にかかりそうになったり、大きな魚に食べられそうになったり、大嵐で進めなくなったり…。
それでも情報を求め、海を泳ぎ続けます。
まだ見ぬ大空の向こうを見る為に。
果てしない夢を叶える為に。
ククルが雲を探す旅に出てどれ位経ったでしょう?
精悍な体は衰え、昔はあれほど得意だった波越えもかなり辛くなって来ていました。
それでもまだ大空への情熱は覚めていません。
そう、未だに有効な情報が集まっていないにも関わらず、それでも彼は勢力的に活動していたのです。
太平洋に伝説の雲があると行けば飛んで行き、大西洋に昔飛んだ者を見た事があると聞けば飛んで行く。
もうククルが泳いだ事のない海域は無いと言っていい位地球中の海と言う海を泳ぎ廻ったのです。
それでも結局ククルの欲しい情報は得られないままでした。
ククルはもうこのまま一生探し続ける旅で終わってもいいとさえ思ってしまって
いました。
そんなある日の事、ククルが空を眺めながら泳いでいると突然の竜巻に巻き込まれてしまいました。
普段だったら危険を避けて竜巻には近付かない様にしているのに今回は思う様に体を動かせなかったのです。
竜巻はククルを高く高く舞い上げて行きます。
高く、高く、自分が感じた事の無い感覚がククルを包み込みます。
突風に流されながらククルはこれこそが自分が求めていたものだと確信するのでした。
自分が求めていたものは自分が一番敬遠していたものの中にあったんだなぁとその時ククルは思いました。
そしてククルは薄れ行く意識の中でこの感覚を思う存分楽しむのでした。
だってククルの夢は今叶ったのですから!
南米のとある町で竜巻に巻き上げられた魚が空から降って来ました。
その中にはあのククルの姿もありました。
地面に打ちつけられて絶命していたその顔を見ると、とても満足そうな笑顔をしていたと言う話です。
(おしまい)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます