第一章 行方知れずを探して
第一話 出会いは辺鄙な町で
生い茂った木々をかき分け、フラマはしかめっ面で足早に歩みを進めていた。
暗みのある赤髪と紅紫の瞳を併せ持ち、軽装ではあるが旅人を思わせる身なり。その身体は長めのコートで包まれている。
つり目ではあるが整った顔立ちからは、渋面というよりかは苛立ちすら感じられる。
――なんなんだっ! いったい!
照りつける太陽と徐々に上昇する気温から汗をかいてくるが、今はそれを気にしている余裕はない。
黙々と、しかしその足取りは忙しく、フラマは一刻も早く遠くへ行きたいと考える。
そして、あの、苛立ちの根源と二度と出会わないように――
「あ! いた――!!!」
突如、草木の掠れる音がしたかと思うと、その声は響き渡った。
フラマは声のした方向、右側前方を驚愕の表情で見つめる。
「ちょっと! いきなりどっか行っちゃわないでよっ!」
そう言いながら声の主、黄金色の髪と薄紫の瞳を持つ少女は小走りにフラマの目の前にやってきた。
「……なんで」
「なに?」
「なんで、おまえが、今、俺の前に、いるんだ……」
一言一言区切りながら、フラマはその顔を引きつらせた。
今、もっとも会いたくない人物である。
「そんなの、いきなりどっか行っちゃうから急いで追いかけてきたんじゃない」
愛らしい顔立ちをしている目の前の少女は、ふて腐れたように頬を膨らます。
その姿に、フラマは顔を引きつらせたまま、肩を落としぽつりと呟く。
「……追いかけ来たっていうが、なんで俺より前から現れるんだよ……」
「わたし、身軽なの。先回りさせていただきました!」
ふて腐れた顔から一変して、満面の笑みを浮かべながら少女は言ってくださった。
◇◆◇
時は少し遡る。
「ねえ、そこのおにーさん。赤髪のおにーさん、あなたのことだよ」
小さな町の道端で、そんな声をかけられた。
フラマは声のした方へと振り向く。
そこにいたのは、黄金色の髪を揺らしているフラマと変わらない年頃の少女だ。
「おにーさん、かっこいいねー! ちょっとそこでお茶でもしない?」
「……はあ?」
なんとも古くさい、もとい古典的な誘い文句を口にする彼女は嘘臭い笑みを浮かべ怪しいことこの上ない。
しかも、本当に小さな町で、辺りには民家しかないような道端のどこでお茶をするのかわからない。
とりあえず無視することにしたフラマは、そのまま通りすぎることにする。
「あ! ちょっと待ってよ、おにーさん! こんな可愛らしい女の子が声をかけているんだよ? 話ぐらい聞かなきゃでしょ?」
なんてことを言いながらフラマの前に回り込む。
笑顔な彼女は確かに可愛らしい顔立ちをしているが、フラマにしてみれば裏があるようにしか思えない。
こんな辺鄙な町で、いきなり古くさい誘い文句で声をかけてくるような人とは関わりたくないと、フラマの本能が告げていた。
「どこでお茶をするのか知らんが、俺にそんな気はない。じゃあな」
一気に言い放ち立ち去ろうとするも、またしても少女は引き留める。
今度はフラマの腕を掴んで。
「そんなこと言わずにー、ちょっとお話ししましょうよ」
「……嫌だ。話すことはない。とりあえず離せ」
フラマは腕を振り払い、少女から距離をとる。
明らかに嫌そうな表情のフラマを見て少女は小首を傾げた。
「おかしいなー? こうやって誘えば男の人は素直に付き従うって本に書いてあったのに」
「それは、いったい、いつのなんの本だ」
どんな本にそんな内容が書かれていたか知らないし知りたくもないが、ハッキリ言えることは、彼女の認識は間違っているということだ。
もう、なんか言動含め全てが怪しく見える少女の前から、即刻立ち去りたいとフラマは思っていた。
思っていたので、すぐさま実行に移す。
「まあ、いいか。それよりね、ちょっと話したいことが……って、あれ?」
少女が少し考える素振りをし、フラマから一瞬目を離した隙に、フラマは脱兎のごとくその場から駆け出していた。
全速力で駆け出すフラマを少女は一瞬唖然と見つめる。
「なんで逃げるの……? いやいやいや、そうじゃなくて!」
我に返った少女はあとを追いかけるために同じように駆け出した。そして一時間後、小さな町の近くにある森の中でフラマに追いつくことになる。
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