第三章 過去と欲望に囚われて

第二十三話 異端者の願い

 この国において他者に理解されない研究は禁忌とされている。

 その内容は様々だ。異常な力を追及する者もいれば、新たな生命を創造しようとする者もいる。または死者の復活を願う者もいれば、不老不死を望む者もいる。

 しかしこれらは何一つとして行ってはいけない絶対の禁忌なのだ。

 白衣を纏い薄い眼鏡をかけた男性も、以前は全うな研究者の一人であった。

 国に認められた、国の為になることだけを考え、禁忌を行う者を嫌悪していた。

 しかしとある出来事により男性の考えが一変する。その考えが理解されないと知りながら、それでも貫き通す。

 彼はすでに囚われてしまっているのだ。

 変貌した彼に周囲は奇異と嫌悪の眼差しを送る。薄暗い空間の中で数多くの視線と言葉が飛び交い、その全てを男性は受け止め、流す。

 彼にとってここの存在に興味はない。見据えるのはもっと別の空間だ。


「君が行っていること禁忌なんだよ、アガサス君」

「アガサス……君は狂ってしまったのかね」

「ここは君のような者がいるべき場所じゃない」

「追放だ、出ていきなさい。アガサス・カルレウム」


 囁かれる悪意に混じって、決定的な言葉を突きつけられる。

 ここに異端者は必要ないのだ。

 常軌を逸する思考と研究は誰にも理解されることはない。

 ここだけでなく、この世界のどこにも異端者を受け入れてくれる場所などないだろう。

 だから孤独でいるしかないのだ。

 これは仕方がないことなのだ。

 元より、彼女がいない世界など他の誰がいようが孤独と変わらないのだから。

 だから孤独でいることになんら抵抗などないのだ。

 そんなことよりもやり遂げたいことがある。

 己の欲望に忠実に従いたい。


「僕はただ、君にもう一度会いたいだけなんだよ」


 何も見えない薄暗い空間に、消えそうな声が漏れる。

 異端者の切実な願いを聞き入れる者は誰もいない。

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