第15話 説明されて異世界
「師匠、竜法とは何でしょうか?先ほどからわたしも知らないことを話されていますが」
竜法か。興味をそそる響きだ。セキナが気になるのも当然だ。
「知らないのも当然さね。これは長にのみ伝わることだからね」
驚くセキナ。俺がそんなこと聞いていいのかと思ったが、魔法よりいいものという竜法が気になるので黙って話を聞く。
「わたしが聞いてもいいんでしょうか?」
「問題ない・・いや、シンヤに魔力と魔法の説明ができたら聞かせてあげるさね」
「わかりました。それではシンヤさん、魔力と魔法について説明します。どこまでご存知ですか?」
急に聞いてくるセキナ。意外と知識欲が旺盛らしい。まあ、本来知れないはずの事が知れるとなればその態度もわからなくはない。婆さんが何かを企んでいるような顔じゃなかったらな。
気になるがどうしようもないので質問に答える。
「何も知らん」
「でしたら最初から説明しますね。まず、魔力というのは余った生命力です。この余剰生命力ーー魔力を使って魔法が行使されます。この生命力のあまり具合で魔力の大きさが決まります。
また、魔法は魔力を消費して効果を表します。当然自身がもつ魔力より多くの魔力を消費する魔法は使えません。ただし、生命力を削れば使えないはずの魔法を使うことが可能です。魔力のもとは生命力ですからね。もし、そのようなことをすれば体に何らかの異常をきたすのでお勧めしませんが。
ざっとこんな感じですね。
わかりましたか、シンヤさん?」
恐らくだが、魔力を水に例えるとコップから溢れた水が魔力。コップに残る水が必要な生命力だろう。どちらも水に変わりはないからコップの水を使っても魔法は使えるがリスクが高いという理解で問題ないはずだ。
「おおよそは分かった。それで竜法とはどんなもので、魔法とどう違うんだ?」
「セキナ、合格さね」
「では、シンヤさんと一緒に聞いてもよろしいんですね?」
「ああ、問題ないいよ。せいぜいが確認のつもりで聞いただけだから、おまえなら答えられると思っていたさね」
「期待に応えられて何よりです」
「それで!どう違うんだ」
全く、この子弟は。屋敷に来てか何度目だ。
「すまなかったね。どうかセキナを悪く思わんで欲しいさね」
「セキナを悪く思ったりしない」
「ほうほう。それは何より。どうしたんだいセキナ?」
「何でもありません!」
怒りのせいか顔が少し赤い。怒った理由は不明だ。しかし、またや話が逸れつつある。いい加減にしてほしい。
「竜法というのはだね、一言でいえば竜が使う特別な魔法さね。もちろん竜人にも使えるさね」
流石に俺の雰囲気を察したようだ。
「どうやったら使える?」
「わからんさね」
「はあ?」
「落ち着くさね。竜人に竜法が使えることは確かで、ちゃんと長に伝わっているさね」
「使い方が分からないのになぜ使えると言えるんだ?」
まったく、期待させやがって。やはり婆さんで十分だ。
「しかたないさね。わしは竜人ではないし、最低でもここ200年以上は確認されていないからね。
けれど、竜法と魔法の違いはしっかりと伝わっているからきっとあんたにもいつかは使える日が来るさね」
なんという暴論。竜法と魔法の違いは分かるから竜法が使えるだろうとは。それはバック転の仕方を教えたから実際にやってみろと言うようなものだ。あれだってやり方は見たら分かるがそう簡単にできるものではない。まして、異世界の竜法とか言う未知のものでそれをやれと?できるわけないだろ。
「とりあえず、すべてを聞かせてくれ。竜法と魔法はどう違う?」
文句はあるがそれでも気になる。魔法を超える竜法はどうしても魅力的に思える。それに、婆さんが知っていることをすべて聞けば僅かな可能性が見えてくるかもしれないと思ったのだ。
「竜法の説明の前に竜について少し説明がいるさね。セキナ、説明しておやり」
「えーとですね、竜はこの世界で最強の生物で、膨大な魔力を身に宿します。その魔力によって強化された強靭な肉体はあらゆるものを寄せ付けず、言い伝えで魔法が効かない竜も存在したと言われるほどです。
身体的な部分だけではなく魔法の素養にも優れ、種族に応じた強力な魔法を使います。竜の攻撃は巻き込まれただけで命を失うと言われるくらいです。
大体わかりましたか?シンヤさん」
自分から頼んでおいてなんだが説明ばかりで嫌になってきたな。まだ肝心の違いを聞いていないのにこのざまだ。自分に少しあきれる。
「わかった。本題に入ってくれ」
少しでも早く話を進めたい。
「焦ってもいいことないさね。
それよりもおかしいと思わないかい?いくら魔力に優れると言ってもすべてを弾く体に、敵を容赦なく葬り去る魔法の威力。
こう聞かれて、何の秘密もないと本当に思うかい?」
「ならその秘密が竜法にあるのか?」
「半分正解さね。竜は生まれながらにその身に宿す魔力、それをほぼすべて身体強化に使っているさね。無意識でだがね」
「ほぼすべてですか?それではどうやって魔法を使っているのですか?」
「攻撃に魔力を使っていないんじゃないか?」
「ほう、シンヤ気づいたかい。頭は悪くないようさね」
婆さんの言い方に若干腹が立つ。それからセキナ、そのちょっと意外って感じの表情はやめてくれ。傷つくから。
「余計なお世話だ。話を続けてくれ」
「そうかい。まあ、もう話すことはほとんどないさね。攻撃に使っているのが竜法でその力の源は自然界の生命力といわれているさね」
「自然界の生命力とはどういったものでしょうか師匠?」
「わしも詳しくは知らないさね。ただ、自然も生きているし、その自然の余った力を竜法に使っていると考えれば魔法と似たようなものさね」
「つまり、魔法と魔力のような関係が竜法と自然の生命力の間にも存在する。よって、竜人である俺にも竜法が使えるはずというわけだな?」
「そうさね」
「確認だが竜と竜人は同じなのか?」
「安心するさね。竜と全く同じではないが、特性は竜と同じさね」
「ならいい」
今の説明では竜が竜法を使うときのメカニズムであって竜人には当てはまらないと感じたが問題ないようだ。だが結局、肝心の竜法の使い方は分からずじまいだ。
魔力と同じようなものといっても、魔力を持っているだけで魔法は使えない。俺が治癒魔法を使えたのはフィールのやり方を知っていたからだ。
「竜法の使い方は本当に何も伝わっていなんですね。せめて竜法を使う心構えのようなものはあると思ったのですが」
「心構えかどうかは分からいが、竜人は自然と共にあり、という竜人を探すコツは伝わっているさね」
グッジョブだセキナ。
一つ思いついたことがある。それは自然を感じること。これだけ自然との関わりが強い存在ならそうすることで何かのきっかけが掴め、竜法が使えるかもしれない。
具体案は思いつかないがな。
とりあえず、滝行でもしてみるか。
「それで全部か?」
「わしが伝えられることは全て伝えたさね」
「お茶、用意しますね」
すぐにお茶を用意してくれたセキナ。食堂でずっと話していたので婆さんの部屋で水を用意した時よりも早くお茶を出してもらえた。
気の利くいい娘だ。
お茶を飲んで落ち着く。治癒魔法を使ったことによる疲れと、説明を聞き続けた疲れが癒される。
話を聞いて分かったが、竜人である俺が魔法を使うと身体強化に回っている魔力が消費され疲労が押し寄せるのだろう。疲労で済んでいるのは竜人として体が丈夫なおかげだと予想できる。
きっと昨夜の痛みは、体を強靭に作り変える際の副作用だったのだ。
「そういえば、俺は今日どこに泊まればいい?」
色々と疑問が解けたので今日の宿の心配をする。無いとは思うがボロ屋で寝ろと言われる可能性だってなくはないのだ。
ボロ屋といえばフィール、元気にしているだろうか。
「この屋敷の二階に空き部屋があるさね。
セキナ、シンヤに好きな部屋を使わせるようにするさね」
「後程案内しますね、シンヤさん」
俺がセキナにお礼を言おうとしたとき食堂の扉が勢いよく開かれた。
翼に若干当たる。
「長!大変だ!」
慌てた様子の男が扉を開けると膝から崩れ落ちる。たが、顔をあげ要件はしっかりと伝えた。
「集落に竜が向かってきている!」
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