第13話 驚いて異世界
三人とも席に着く。
俺が長机の扉側の長編に座り、俺の対面にセキナ、一つ空けて婆さんが座る。
問題の食事だが交渉の末、俺だけおかゆを作ってもらった。セキナの手作り。ちょっと感動する。
セキナと婆さんはあの血の滴る肉をステーキのように調理していた。俺が遠慮した分、量が増えたので少し嬉しそうに思えるのは気のせいか。因みにセキナが一番おこぼれに預かっている。さすがに婆さんは年のせいか増加分は少ない。
異世界の住人は逞しいとつくづく思った。
少し遅めの昼食が終わった。今は食後のお茶を飲んで一息ついている。どうでもいいがこのお茶、番茶である。なかなか香ばしい。
「シンヤ。改めてお礼を言うさね。ミリルの父親を助けてくれてありがとうね。あの子たちも感謝してたさね」
あの病気かと心配してくれた女の子はミリルというらしい。
子どもが悲しまなくて良かった。あの年で親を失うのは辛いだろう。
「それでお礼といっては何だがね、長として何かできる事があったら言うといいさね。可能な限り対応するよ」
「当面の食事と宿の面倒を頼みたい」
大分遠回りした気がするが本来これを頼みたくてセキナに案内を頼んだのだ。当初の予定ではこちらから何らかのメリットを提示して交渉に入ろうと考えていた。この世界なら最悪労働力を提示すれば食事くらいとれると思ったのだ。
「わかったよ。当面といわず、好きなだけいるといいさね」
「婆さん、感謝する」
「しかし、お礼としては不十分な気がするさね。ふむ、そうさねこの集落にいる間、セキナをあんたの世話役にしようか。何かあったらセキナに言うといいさね」
「師匠!それは・・・」
「なにさね。何か不満かい?」
セキナの言葉に被せるように話し出した婆さん。セキナはどこか慌てている。そしてなぜか婆さんはにやけ顔だ。
理由は知らんが嫌々される世話は正直うっとうしいだろう。
「世話役なんて無理に用意してもらわなくてもいいんだが」
「無理なんて!そんなつもりではないんです。ただ・・・」
「ただ?」
わずかに考え込むそぶりを見せ、どうしてか俺を見つめるセキナの様子に心の中で首をかしげる。
「いいえ、何でもありません。何かありましたら遠慮なく聞いてくださいね」
「そうか。ならしばらく頼む」
「どうやら決着がついたようだね。
なら、ここからが本題ださね」
湯呑を置き、視線を俺に向ける婆さん。セキナにも同様に視線を向ける。
「シンヤさん。今からいくつか質問させてもらいます。シンヤさん自身に関わることですので今はただ質問に答えてください。理由は後程説明しますから」
「わかった」
「まずはシンヤさん、体調の方は問題ないですか?」
「魔法を使ってからとにかく怠いがそれだけだ」
「では竜の渓谷に来てから痛みに鈍くなったりしていませんか?」
「そう思ったことはないな」
「それなら、傷の治りが早くなったり、もともとあったはずの傷が無くなっていたりということは?」
思わず質問の返答に詰まる。傷の治りはともかく、傷が無くなったことに関しては心当たりがある。蜥蜴に噛みつかれた傷だ。
確かにあったが、気が付けば消えていた。
「どうやら思い当たることがあるようですね。
質問を変えます。
体が頑丈になった、もっといえば身体能力が上がっていることに自覚はありますか?」
「・・・ないこともない」
プテラノドン擬きに襲われた時は感覚が鈍っていたのかと思ったが、痛みを全く感じないなんて普通はありえないだろう。
セキナから渓谷の様子を聞いた今なら理解できる。竜の咆哮が響いた影響が残る今、あのプテラノドン擬きは上位竜の一種だ。上位竜の一撃をもろに食らって無傷では明らかにおかしい。それに湖に落ちた時もだ。あの時俺は衝撃よりも水の冷たさを感じていた。
感覚が麻痺していなかった証拠だ。
身体能力の上昇は不明だが、確かに体が頑丈になっている。
心がざわついてきた。
今一度視線を合わせ、頷きあう二人。
「シンヤさん。落ち着いて聞いてください。あなたはもう人ではありません」
驚愕の言葉。思わず変な声が出そうになった。フィールも俺の話を聞いたときこんな感じだったのだろうか。
否定の言葉を返そうにもあの質問の後では言葉が見つからない。それになんといっても今の俺には翼があるし、一瞬でもそう思ったことがないとは言えない。
ただ、俺は人だと思うようにしていた。
「なら、なんだって言うんだ」
辛うじて絞り出したのはそんな言葉。
「竜人です」
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