第11話 守られて異世界
教えられた俺に宿るという神の加護の存在。
信じられない。目の前にいる二人が嘘を言っているようにしか思えない。
「信じられないのもしかたないさね。シンヤだったねあんた」
「そうです」
長なので丁寧な言葉遣いにもどす。
「無理してしゃべらんでいいさね。しゃべり方で怒ったりはせんよ」
心中を見透かされたようだ。この婆さん侮れん。
「助かる。慣れてないんだ、敬語とかは」
「正直な子さね。嫌いじゃないよ、その性格」
「それで神の加護とやらはほんとにあるのか?」
「そうさね・・セキナ説明しておあげ」
「わたしがですか?師匠がせれた方がいいのではないでしょうか」
「これも修行さね」
「わかりました。
では、シンヤさん。あなたに加護のことを説明しますね」
どうやら子弟間で誰が話すか決まったようだ。個人的には美少女であるセキナに説明してもらった方がうれしい。婆さんグッジョブだ。
信じられるかは分からんが。
「まず正確に言うとシンヤさんに今宿る力は加護ではありません」
いきなり話が怪しくなってきた。しかし、もう少し聞いてみよう。
「厳密には加護の残滓です」
「残滓っていうと残り香的なやつか?」
「その理解で構いませんよ。本来あった力が力の使い過ぎにより消失し、その欠片が消え残っている感じです。直にその欠片も消えるでしょう」
「なるほどな。感じは大体わかった。
一つ聞きたいんだが加護とは消費して消えるものなのか?」
「加護を得た状況によりますね。基本的には消えないのですが。可能性としては加護の譲渡が不完全だったとかが考えられます。何か心当たりはありませんか?」
心当たりと言われてもな。そもそも神に知り合いはいない。
俺がゼーティアに来てから知っているのはフィールとセキナと婆さんの三人だけだ。
「ないな。加護が消えると何かまずいのか?」
「問題があるとすれば加護を得ていたシンヤさんが何か不都合を感じるくらいですね。加護消失に対する罰などはありませんから」
「なら問題ないな。無いと思って今まで過ごしてきたんだ。加護が無い不都合なんて感じないだろう」
「シンヤさんがそういうなら大丈夫ですね」
「大丈夫じゃないさね」
今まで目を閉じセキナの説明を聞いていた婆さんが口を挟む。
「なぜ大丈夫じゃないんだ?」
「シンヤ。あんたの加護は命を守る類の加護さね。それもかなり上級の加護さね」
「そうなんですか?師匠」
「セキナにはまだ加護の種類までは分からなかったようだね」
「申し訳ありません」
「気にしなくていいさね。まあ及第点をあげようかね」
「ありがとうございます」
師匠と弟子の会話が進む。また俺が置き去りになる。どうやらこの子弟はお互いの会話に夢中になるきらいがあるようだ。
「で、なぜ大丈夫じゃないんだ」
今度は先ほどより強めに問う。質問する側だがこれくらいは許されるだろう。
「おっと、すまなかったね。
簡単に言うともう無茶はできないということさね。あんた今まで相当の無茶を繰り返してきただろう?」
無茶か。そういわれると否定できない。というか無茶しかしていない。
「どうやら思い当たる節があるようさね。どれ話してごらん。あんたにあったはずのとても強力な加護を使い切った理由をね」
そうか、聞きたいか。ならば聞かせよう。どうせ信じてはもらえないだろうが。
「まず、竜に襲われた」
なにを言っているんだろうこの人はという表情のセキナ。予想通りだ。当然同じような顔をしているだろうと婆さんを見たが婆さんは真剣な顔だ。
「それからどうしたさね?」
続きを促す婆さん。ならば最後まで語ってやろう。どこまでその態度でいられるか楽しみだ。
竜に襲われてからのことをすべて話す。
崖から落ち、フィールに傷を治してもらってからプテラノドン擬きより湖に落とされるまでのすべてを。
「そこでセキナに会って、ここまで案内してもらった」
三十分ほど時間がかかった。真実味の無さから直ぐに話を中断させられると思っていたが婆さんは最後まで態度を変えずに聞いていた。
最後にはセキナまでもが俺の話に耳を傾け真剣に聞いていた。
「セキナ。シンヤの話どう思ったさね」
「初めは分かりませんでしたが、恐らく全て真実だと思います。確かに信じがたい話でしたが嘘は言っていないと考えます」
「わしもだよ。嘘を見抜く力はもう十分のようださね」
「はい、ありがとうございます」
「これからも精進するさね」
嬉しそうな表情のセキナ。このままではまた話が脱線すると思い俺から話しかける。
「信じたのか?俺の話を」
「はい、シンヤさん」
「そうさね。わしとセキナは巫女だからね、嘘くらい見抜けるさね」
巫女って言うとあれか。巫女服を着た巫女か。そういえば屋敷の前にいた子どもがセキナのことミコ様って呼んでたが巫女様か。
きっと神職の巫女というよりは異世界らしく不思議な力持った人程度の意味合いだろう。
「そうか、信じてくれたのか。ありがとうセキナ、婆さん」
「シンヤさん流石にそれは」
思わずこぼれた言葉にセキナが反応する。心の中で長をずっと婆さん呼ばわりしていたからつい口をついてしまった。流石に失礼だったと思う。
「かまわんさね。この子に悪気はないさね」
「そうかありがとう、婆さん」
顔をしかめるセキナ。少し驚いたような表情を見せる婆さん。何かまずったか?
「シンヤさん・・・」
「本当に正直な子さね。ますます気に入ったよ」
俺には今一つ何のことか理解できないが話を戻す。
「それで、多少それたが加護が消えた原因はここ数日の俺の行動で間違いないのか?」
「それしかありませんね」
「それ以外ないさね」
力強く肯定された。俺の経験が常軌を逸していたいと、よくわかる肯定だった。
「本当に良く生きていましたね。シンヤさん。いくら加護があっても普通は死んでいましたよ」
「わしも長いこと生きるがこんな話聞いたの初めてさね。まったく、どこの英雄だい」
「自分でも不思議に思う」
一時は自身に死神がとりついているのでは、と思ったが命を守る神の加護があってあの結果らしい。誰かわからないが神に感謝だ。
「話を聞く限り大きく加護を消費したのは、竜の炎が逸れた時、崖から竜に追われて落ちた時、空飛ぶラック鳥から崖の林に飛び移った時、そして極めつけは蜥蜴を食べた時、の四回さね。あとは脱水症状の緩和とかかね」
どれも俺がなぜ助かった、運がよかった、死んだなどと思った時だ。
加護の影響があったのなら納得だ。ここまできて加護の存在を疑うようなことはしない。
個人的には脱水症状の緩和が一番加護の消費が大きい気がした。それから竜よ。ノーコンドラゴンなんて思って悪かったな。
「さすがにのどが渇いてきたさね。セキナ頼んだよ」
「少々お待ち下しいさい」
「シンヤ。あんたもこっち来て座るさね」
婆さんが座る畳みのような一段高い床に招かれる。
正直俺も話つかれ座りたいと思っていた。
「それじゃ遠慮なく」
婆さんから少し距離を取って正面に座る。横には翼が邪魔で座れないし、普通何も言われていないのに婆さんの横には座らない。
「そんなとこじゃなくてわしの横に座るさね」
横に座ることになった。
「そうしてくださいシンヤさん。でないと翼がじゃまでわたしが座敷にあがれません」
飲み物を用意し座敷へと上がろうとしていたセキナにも言われた。
よし、決めた。
俺は今日からこの翼を小さくたたむ訓練をするぞ。
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