第4話 お願いして異世界
フィールに家を出てからのことを説明した。ただし、異世界出身であることは話さなかった。さすがにドラゴンに追われるまでは異世界にいましたは信じてもらえないだろう。ドラゴンに追われたことだけでも信じてもらえないような表情をしていたし。
フィールには登校の部分をただの外出に置き換えてハクを追ってからのことを話した。
美しい猫を見たから追いかけて、山に登ったと言えば
「用事があったんでしょ?」
と言われ、
ハクがペンダントをに向かってジャンプしていたのを茂みの中からずっと見ていたと言えば
「取ってあげれば。」
と冷たい目を向けられ、
強い光に目をつむって目を開ければ目の前にドラゴンがいたと言えば
「なぜ?」
と不思議な目を向けられ、
ドラゴンの吐く炎から逃げ洞窟に駆け込んだ言えば、
「なんで生きてる?」
とあきれた表情をされ、
最後の炎を避けるために出口から飛び出したら地面がなかった言えば、
「馬鹿?」
端的に指摘された。
信じてもらえる要素無いな。
説明して良くわかった。
フィールの視線が辛い。だが諦めるのはまだ早い。
話には真実味がなかったが、さっきまでの俺にはけがという確実な証拠があった。あんなけがと火傷普通にしていたらまず負わない。
「信じがたいのは分かるが、俺が負っていたけがが証拠だ。」
「火傷は分かる。」
「信じてくれたか?」
「でも助からない。」
フィールはそう言って俺の後ろを指さす。その指は俺が落ちてきたと思われる絶壁の上の方を指している。かなり高い位置を指しているのようだ。
見る限り変化の無い絶壁が上にも左右にも広がっていく。変化がない絶壁。つまり俺が落ちてきたはずの洞窟の出口が確認できないのだ。
「確認できない程の高所から落ちてきて生きてるはずがないと?」
「そう。」
「だから信じれない?」
フィールが首肯で返す。
参ったな。言われてみればその通りだ。なんで俺生きてるんだ。
考えてみたが理由がわからない。
わからないので考えるのをやめた。
この世界に来てから俺は、考えることが多すぎた。なにせ命に関わることが続いたからだ。だが今は違う。もう命の危機は去ったのだ。
だから考えない。とりあえず今必要なことをする。説明を始めてからの胡坐をかいた姿勢から正座になってお辞儀する。
「何か食べ物をください。」
今やるべきこと。
それは腹を満たすことだ。水を飲んで落ち着いたら腹が減った。
誰かに何かを頼むときには丁寧にお願いする。恩人ならなおさらだ。
フィールの返事を確認するために頭をあげる。そこには戸惑うような、驚いたような、何とも言えない表情をしたフィールの顔があった。
このままでは断られると思った。普通は断る。信じがたいことばかり言っていた男が説明を途中放棄し食べ物を乞う。怪しすぎる。
しかし、俺にも引けない訳がある。さっき周りを改めて確認したが、後ろはそびえ立つ岩壁。周りは森。こんな所に一人でいたら迷う。最悪死ぬ。
気が付けばまたもや死の危険が迫っていた。
異世界怖すぎる。
「何でもします。助けてもっらた恩返しがしたいんです。」
「恩返し?」
恩返しという言葉に反応するフィール。
ここが正念場だと思った。
「はい。本当に感謝しています。だからお礼がしたいんです。ですが空腹で力が出ません。なので食事の後にお礼をさせてください。」
もはや何を言っているのか分からない。しかも気が付けば敬語で話している。俺も必死なのだ。再び頭を下げる俺。
「ついてきて。」
「いいのか!?」
正直だめだと思っていたところに救いの言葉。くい気味に反応してしまった。急に頭をあげた俺にまたも驚いた顔を見せるフィール。
「食事の準備は手伝って。」
「喜んで!」
後ろを向き歩き出す彼女を追いかける。ドラゴンのせいで靴が燃え尽き裸足だが気にしない。死の危険を何とか回避することに成功したのだからそれでいい。
さあ、ここからしっかりと恩返しだ。このままではさすがにダメすぎる。
「ここが私の家。裏に牧がある、取ってきて。」
フィールの後を追ってついた先には見事なボロ屋が立っていた。
食事大丈夫かな?
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